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先生と豚

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ある高校生の日常に舞い込んだ非日常を描いた短編ミステリー?ぽいものです。拙い部分もありますが、読んで頂けたら幸いです。
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2020年6月の記事一覧

先生と豚⑧

先生と豚⑧

 夜、誰もいない銀行は不気味だった。非常灯の薄明かりが余計にそれを助長し、普段見えそうもないものが目の前に現れて自分をじっと見つめているような気さえした。
 ごくり、と唾を飲む音さえ響いて聞こえる。紅林は臆病者ではないし、夜の学校で肝試しをしてもあんまり驚かない方だった。しかし今夜は訳が違う。
 頭のなかに失敗したとき、自分がどうなるかという想像がひとり歩きをして紅林を不安の渦に陥れる。警備員に見

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先生と豚⑦

先生と豚⑦

 銀行にも当然ながら関係者専用の出入口がある。いわゆる裏口である。侵入するとすればこれほど好都合な道はないだろう。入館証さえあれば、そこを突破するのは容易い。金庫が破られることを想定していないせいか厳重な警備などは特にない。
 柿崎はそのことについてひと言――馬鹿だねぇ、と感想を述べた。
 こちらとしてはやりやすいが一般論で言うならば人様の金を預かっているというのに、その自覚と警戒心が足りないので

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先生と豚⑥

先生と豚⑥

「強盗なんてできないよ」
 放課後の準備室で柿崎は断言した。
 紅林が柿崎と協定を結んでから一週間が過ぎていた。
「はぁ? いまさら何言ってんですか」
 逃げられないと言ったのは柿崎のほうだったはずだ。それが今後の指示を仰ぐために入室した生徒に向ける言葉なのか、と言いたい。しかし柿崎は紅林のそんな思いは露とも知らず答えた。
「だって銀行強盗って、昼間に襲って金を出せぇって脅して金を盗むでしょ。そん

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