就活黙示録(前編)

 僕の就活が終わった。

 なんてことを書くと僕の人生が終わってほしいというありがたいお言葉を頂くことがあるが僕の人生は大学を卒業した瞬間に始まる予定なのでまだ終わるもクソもない。胎児同然の存在である。アンチの皆さんは精一杯愛情を注いで甘やかして頂きたい。

 知り合いがまだ就活で苦しんでいる今、最底辺どころか地下に潜り込んでマントルを住処とする人生ログイン勢の僕が内定というコンクリートブロックを積み重ねてマウントを取れるのは今だ、と考え、就活途中に思ったことをつらつら書くことにした。感謝したまえ。貢ぎ給え。酒を。

 時は戦国時代ならぬ就活解禁のちょっと前という締まらない書き方になってしまう2月。それくらいからなんとなーく就活を始めた。胸中にあったのは漠然とした「しうかつこわい」という気持ちだけである。いや、怖いのはしょうがないじゃないか。今まで経験したことがないわけだしね。陰キャがディズニーランド怖がるようなものだ。ミッキーって怖いよね。笑顔で人を刺しそう。というか人を刺すことで誰かを笑顔にしそう。

 そのままよくわからんまま就活を始め、面接で職質をかけられるレベルで挙動不審な受け答えをし、さっぱりわからんまま「現実的に行けそうな第一志望の企業」に祈られメンタルが崩壊する音で音ゲーを行い、やっぱりわからんまま「行けたらいいな~と思っていた第一志望の企業」に内定を頂いた。正直本当に内定出たのか怪しいものである。サプライズ内定取り消しがあってもおかしくない。おちゃめな世の中だもの。

 選考途中の記憶だが、正直あまり覚えていない。

 内定をもらったところは結構大きな企業だったので「絶対受からないだろガハハ」みたいな最高に崇高であり揺るぎない自信、もはや確信に似た気持ちを持ちながら面接に挑んでいた。

 志望動機や自己PRといったものは今まで受けてきた企業の面接で喋った内容をブラック・ジャックの顔レベルで継ぎ接ぎして切り抜けた。ある意味僕の就活の集大成である。嫌な集大成だ。例えて言うならほぼ全ての人が完全武装する銃弾が飛び交う戦場でずだ袋のような服を来た謎の男が走ってくるようなものである。面接官はさぞかし恐怖に震えたことだろう。だが運悪く呼びつけたのはあなた達なのだ。全裸男の生きざまをしっかりと見届けて頂きたい。

 ペラペラの内容をペラペラと話しながらも仁王立ちならぬ仁王座りして堂々と面接に挑んでくる僕。それを見て面接官は人物像が全く見えずに苦労したに違いない。残念だが私は45分の最終面接で図り知れるような底の浅い人間ではないのだ。例えるなら日本海溝、いやマリアナ海溝である。深掘りは禁物だ。大したものが存在していないのがバレるからである。ハッタリを重ねまくって分厚い鎧に近い何かになったものを着た僕はふてぶてしい態度を取り続けた。

 無論、何も考えていないだけである。

 当然逆質問という就活生の意識の高さを見せつける決定的場面、遊☆戯☆王で言えば一風変わった演出が入り魂のカードを自在に引けるタイミングにおいても一切考えていなかったため何も思い浮かばなかった。

 そもそも聞きたいことがあるなら一次面接や二次面接で聞いているだろう。最終面接でわざわざ聞くか?もう何も聞きたいことなんてないぞ?よし、もう無いって言ってしまおう。むしろオンシャを知り尽くしているというアピールポイントになるかもしれない。北陸地方の天気の前にあえなく散る桜のように潔いのが日本男児である。人は言う。『砕けそうなら当たっとけ』と。僕は諦めの境地に達した。無敵である。面接官が「最後になにか聞いておきたいことはありますか?」と尋ねてから僕が返答するまでの数秒間。それは永遠に思えた。

 普段使わない脳細胞。フル回転させると、ふと声が聞こえる。

「…お前の力はそんなもんか?」
「お前は…S社…!?」

 みなし残業込で初任給22万。僕を書類選考で落としたブラックと名高いS社だ。

「自分に自信は…ついたかよ…?」
「お前は…K社!」

 生まれて初めて受けた圧迫面接をしてきたK社。面接途中で呆れて帰ったのが遠く昔に思える。

「何かお前のガクチカ…変わってねえか?」「成績…ちったあましになったかよ…?」「当社は不合格の場合連絡いたしません」

「お前は…T社!D社!N社まで!」

 僕の周りに数多くの企業が集まる。アニメ最終回で死んでいった仲間が最後に力を分けてくれる胸熱展開だ。一瞬周りがプレッシャーと煽りをぶつけてくるペンギンコラ画像が浮かんだが気にしてはいけない。これ以上煽られないうちにさっさと展開を進めるべきである。

 僕は一人ではない。このメールフォルダには今までに受け取らされた数々のお祈りメールがある。許さねえちくしょう。お祈り。考えようによっては僕を落とした企業は我が敬虔なる信者ということだ。僕は教祖だ。神だ。絶対的存在だ。受け取った数々のクソメールは確固たる自信へと昇華した。覚えとけよクソ企業ども。将来出世したら買収してやるからな。

「これなら…行ける!」

 僕が最終面接でした質問。それは…。

ぼく「猫を飼える社宅はありますか?」
面接官「ありません。」

 我が崇高なる愚問は一瞬で蹴散らされた。まあよく考えれば、いやよく考えなくても僕を落とした企業の力なんてそんなものであろう。これは決して僕のせいではない。

 しかし面接官に「猫飼えなかったらうちの志望順位下がったりする…?」と心配されたのは数多くの就活生がいるにもかかわらず間違いなく僕一人。これに対して「早く出世して猫を飼えるところに引っ越したいと思います」という返答をしたのもおそらく僕一人だろう。これは間違いなくサカナクションがうらやむアイデンティティの塊である。内定をもらうのも不思議ではないな、これは。

 無論、何も考えていないだけである。

 で、実際に就活という期間を通して、いや勝手に就活期間が通り過ぎていっただけで、吹き飛ばされないように必死に耐えていただけな気がするが、とりあえずこの期間を通して思ったことを書き留めておこうと思う。が、もう新幹線が東京に着いてしまう。私に残された自由な時間は少ない。しょうがなくタイトルに(前編)とつけた。こうすることで結論を先延ばしにでき、読者の皆さんは僕の愉快痛快爽快な文章をたっぷりと読むことが出来る素晴らしいテクニックである。

 無論、後編に書くことを何も考えていないだけである。

 次回はもう少し就活を続ける人たち、これから就活をする人たち、僕の駄文をわざわざ読みに来る物好き、それから愛するアンチの皆さんのために『就活を終えて思ったこと』をメモしておこうと思う。くそ、結局マウント取れなかったじゃないか。人生ログイン勢急浮上の時だったのに。

 それでは近い内に。おやすみなさい。

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