800字SS

気まぐれなお姫様

 由衣は明るくてやることが豪快で気まぐれな性格だった。そんな彼女が素敵に思えて付き合ったけど、一緒にいると由衣のペースについていけないこともある。特に買い物なんかがいい例で、俺は荷物持ちに徹しながらひたすら由衣の後を追いかけるしかなかった。
「こーくん見て! このワンピ可愛い!」
「お前、靴買うんじゃなかったのか?」
「靴もいいけどこれ可愛くて~! あっ、あれも可愛い」
「おいおい……」
今度はスカートに目移りしてる。忙しいやつだ。さっきまで由衣が持っていたワンピースの値札をさりげなくチェックする。ふむ。
「こーくん、これとそれだったらどっちが似合う?」
スカートとさっきのワンピースを比べたいらしい。
「うーん……どっちも似合うと思うけど、そのスカートもいいんじゃない?」
「やっぱワンピのほうが可愛い!」
「あ、そう……」
俺の意見はほとんどお構いなしに決めていく。由衣はいつもこんな感じだ。
「やっぱりこのワンピ可愛いー!あっ、でもこれ買ったら靴買えなくなっちゃう……」
うーうー唸りながらワンピと靴屋を見比べている由衣はなんだかちょっと可愛い。
「じゃあそれ俺が」
「やっぱ靴買う!」
「えっ、ちょっと由衣、待って!」
まったく、気まぐれなお姫様に振り回されるのは疲れるな……。

「は~。たくさん買い物したし満足満足♪」
「それはようござんした」
ベンチに腰かけてアイスクリームを食べながら一息入れる。やっと落ち着いてくれた。
「なあ由衣、これあげるわ」
大量の買い物袋の中から一つを取り出し由衣に渡す。
「なになに? ……あ、これ、さっきのワンピ!」
「お前、俺が買ってやるって言う前に靴屋に行っちゃったから」
「うそー!? いいの? ありがとう! すごくうれしい!」
そう言って由衣は今日一番の笑顔を見せてくれた。つられて俺も自然と口元が緩む。さっきまでの疲れが吹き飛んでいく。やっぱり由衣と一緒にいるのは、楽しい。

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#VALU版深夜の創作60分一本勝負 より、お題「疲れる」で作成しました。



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