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おひとり様でも胃ろうで過ごす

今回は、胃ろう✖️おひとり様✖️がん の方のお話。
私も、病棟スタッフも、そして主治医の先生も、
この方からとっても大切なことを学びました。

勝手に決めつけないで

「ひとり暮らしだから」
「高齢者だから」
勝手に、相手の限界を決めてしまう医療介護関係者と家族。
今回のケースの方も、まさにこの状況でした。
患者さんの希望は「家で過ごす」「元気に暮らす」
この希望を叶えるために、いろいろな課題を
本人と家族、関係者と考えました。

肺がんが喉の神経に転移→飲み込みが困難に

「最近ごはんが飲み込みにくい」
「お米が引っかかる」
「声が出しづらい」といって
耳鼻科を受診。
念の為のCT撮影で、肺に大きな影が。
読影の結果、縦隔リンパ節などへ広がっている状況がわかりました。

耳鼻科の先生から
呼吸器内科をかかるように言われた患者さん。
呼吸器内科の先生は、ストレートに、事実を伝える方。

患者さんとご家族に、
「肺がんであること」
「喉の神経に転移していて食事は諦めざるを得ないこと」
「高齢でもあるし、どこまで治療をするか」

食べにくさをどうにかしたくて、受診したら、
まさかの肺がんで、ショックが隠せない患者さん。
いきなり本人に伝えなくてもいいのでは、と怒るご家族さん。

そんな空気の悪くなった病状説明の場で、
主治医の先生は、さらに追い打ちをかけるように、
「高齢なので、抗がん剤治療は、適応と言い難い」とも。

同席していた私と看護師さんは、内心ヒヤヒヤでした。

食べられないなら、どうするか

肺がんの治療は、
高齢かつ、長距離移動が車椅子であったこと
体力的にも辛いであろうと、
しない方針となりました。

次に悩んだのは、口から食べられないため、
「栄養をどう摂るか。」です。
医療の現場では「代替栄養」と言われます。

お腹に穴を開ける胃ろう
鼻から管を入れる鼻腔栄養
首などの太い血管から点滴をする中心静脈栄養

主治医の先生は、一つ一つメリットデメリットを伝え、
最後は患者さん家族が選ぶ形となりました。

私は、家以外の療養場所や、在宅医療のサポートについて、
看護師さんは、どのようなケアが必要かなどを伝えました。

このような大きな決断は、その場で決められません。
たくさん話を聞いて混乱していますし、
目の前が真っ白になっている方々が大半。

この患者さんも、「ガンであること」「口から食べられないこと」に
ショックを受け、次のことを考えられる状況ではありませんでした。

週末にご家族で協議してもらうこととし、
この病状説明は終了しました。


胃ろうを作って、家に帰る

患者さんが選んだ選択肢
胃ろうを作り、家で過ごすことを選ばれました。

このかたは一人暮らしで、
ヘルパーとデイサービスを利用しながら、
自宅で過ごされていました。

胃ろうを作ることにより、
誰が胃ろうからの栄養を投与するのかが課題となりました。

当初は遠方に住むご家族が駆けつけるという案もありましたが、
それは本人が、家族の迷惑になりたくないと拒否。

ケアマネの方も含めて話し合い、
本人と訪問看護師にて、胃ろうを行うことになりました。


高齢者でも、胃ろう栄養投与ができる

胃ろうを作ってすぐに、患者さんの胃ろう栄養投与の練習が始まりました。
超高齢の患者さんが、
胃ろう栄養の主義を獲得するのは無理ではないかと、
看護師さんからは、非難する意見もちらほら。
でも、私たちがあきらめたら、
患者さんの希望は叶わないわけで。

看護師さん達も一生けんめい、手技の簡略化や
準備の段取りなどを考えてくれ、
無事、手技を獲得されました。

訪問看護の方は、準備や片付けをする程度で、
栄養投与は患者さん一人で行うことができる状況となりました。

退院前カンファレンスでの共有

本人、ご家族、そして在宅医療介護スタッフと病院スタッフで、
退院前のカンファレンスを行いました。

ケアマネの方は、胃ろうの手技を獲得できるとは思っていなかったそうで、
大変驚かれていました。
訪問看護師の方へ、どのように胃ろう物品を準備するのか、
本人のケアの習得状況を伝え、
無事に自宅へ帰っていかれました。

最期は病院で

この患者さんは、最期は家族に迷惑をかけたくないと、
病院で迎えることを希望されていました。
胃ろうからの栄養が、うまく消化されなくなり、
痰が増え、そして、がんによる倦怠感も増強し、
寝たきりになった状況で、
帰ってこられました。

ケアマネや訪問看護の方から、お家での様子を聞くと
ご自分のペースで胃ろうをして、
韓流ドラマを見たり
ヘルパーさん達とのお話、
縁側での日向ぼっこなど、
穏やかに過ごされていたとのことでした。
デイサービスなどは、
喉の麻痺により、うまく話せないからと希望されませんでしたが、
週に1度、訪問入浴で、しっかり湯船にも浸かっていたと。

自分のしたいこと、やりたいことを、
ご家族に伝えていたからこそ、
このような時間が過ごせたのかなと思います。

その人の持てる力を信じて引き出す

MSWだけでなく、看護師もリハスタッフも、
相手のことを勝手に決めつけずに、
その人の持っている力を見つけて、
引き出してあげることが、
その人のより良い時間に繋がるだろうと
この方の支援を通して学びました。

この方の退院支援以降、病棟スタッフの意識も変わり、
独居だから、認知症があるから、などといった決めつけが
なくなりました。

思えば、どストレートに事実を伝えた、
主治医の先生の決断があったから、

その後のより良い時間のための選択ができたのかなと思います。


今回は、記憶に残るケースのお話でした😃



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