呼吸の原理原則について
呼吸について、
みなさんどのようなお考えをお持ちですか?
“全集中の呼吸”をイメージされますか?
普段何気なく行っている呼吸ですが、
実はとても大切になってきます。
今回はその構造やどのように呼吸を整えていくのかを解説していきたいと思います。
そして、呼吸を変えることでどのようなことが起きるのかなどを説明していこうと思います。
呼吸と脳
そもそも呼吸とは何でしょうか?
呼吸とは、
適切な換気を行い、エネルギー代謝に必要な酸素を取り入れ、産生される二酸化炭素の量を調節し、
身体の塩基平衡を一定に保つことです。1)
このことを代謝性呼吸と呼び、脳幹の延髄・橋で調節されています。
また、それとは別に行動性呼吸もあり、内的(感情など)や外的環境に適応した呼吸を生み出すことも備わっています。
この行動性呼吸は大脳皮質運動野と情動を司る大脳辺縁系に存在しており、
感情の変化に伴って呼吸が変化したり、逆に呼吸の変化に伴って感情も変化します。2)
つまりは、呼吸を随意的にゆっくりすることで感情をコントロールできたり、
緊張を抑制することにもつながってくるということです。
ここで一つ取り上げたい情動と呼吸に関連することを紹介したいと思います。
呼吸と関連の深い感情として不安があります。
みなさん、不安になった時にドクンドクンと心臓の音が聞こえたことがありませんか?
その時あなたの呼吸数も増加していることでしょう。
実際不安や心配を感じている時には呼吸数も多くなることがわかっています。3)
そして、呼吸数が増えるととも交感神経も優位になり身体の緊張も増えてしまいますよね。
(後ほど解説します!!)
よく緊張した時は深呼吸しなさいと言われますが、実は科学的にすごく理にかなっているわけです。
呼吸のメカニズムと横隔膜の機能
なぜ人は呼吸ができるのでしょうか?
呼吸をする上で一番重要になってくるのが横隔膜です。
息を吸うフェーズである吸気では横隔膜が求心性収縮をすることによって下がり、
肺内圧が下がります。
その結果、空気が肺に入ってきます。
逆に呼気では横隔膜が弛緩することにより上がり、肺内圧は上がります。
その結果、肺の空気が外に押し出されて息を吐くことができます
つまり、簡単に言うと実際には横隔膜の収縮と弛緩を繰り返すだけで呼吸ができるということです。
よく考えてみると生まれて間もない赤ちゃんでも呼吸できることを考えれば当たり前ですね。
実際に、
安静時の約70%は横隔膜で行われており、
横隔膜の主要な換気運動はピストン運動です。
そしてこの横隔膜は左右で構造が異なります。
横隔膜の右側には肝臓があるため構造的に安定しており、呼吸を正しく行いやすい構造をしています。しかし、左側は右側に比べて筋自体も小さく、構造的支えとなる肝臓もありません。
そのため左の横隔膜が正しく機能しなくなってしまうことが多く見られます。
また、横隔膜腰椎部の筋繊維は弓状靭帯と腰椎1〜3番の椎体前部に付着しています。
そして弓状靭帯が大腰筋・腰方形筋・腹横筋と連結していることを考えると、横隔膜との関連性はかなりありそうです。
また、
頸髄損傷などで第3頸髄以上の障害を負ってしまうと
自発呼吸ができなくなってしまいます。(横隔神経遮断により)
もし、そのような状態になれば人工呼吸器に頼らざるを得なくなってしまいます。
それくらい横隔膜は重要な存在なのです。
肋間筋について
肋間筋も重要な呼吸筋です。
外肋間筋と内肋間筋がありますが、機能的にも異なります。
外肋間筋は起始が上位肋骨の脊椎よりにあり、停止部は下位肋骨の末梢側にあります。
そのため、外肋間筋が収縮すると、末梢側にある下位肋骨が上に引き上げられます。
外肋間筋が付着している全ての肋骨でこの動作が起きるので、胸郭全体は上に引き上げられる形になります。
一方で、内肋間筋は、起始と停止が外肋間筋とは逆の走行になっているので、
肋骨は下方に引き下げられる形になります。
この関係性から、
外肋間筋は吸気筋で内肋間筋は呼気筋であることがわかると思います。
しかし、一概に外肋間筋は吸気筋で内肋間筋は呼気筋とは言えませんが…
ここでは割愛しましょう。
呼吸と病気の関係!?
みなさん、
呼吸が大切と言われて
「あっ、呼吸の数が少ないんだ!!酸素が足りないのか!!もっと息を吸わないと!!スーハー」
としていませんか?
実は呼吸数が少ないんではないんです。呼吸数が多すぎるのです。(詳細は次の章で)
下のグラフは呼吸数と病気を表した図です。
normalbreathing.comより翻訳・改変
健康な人と比べて疾患を持っている人の方が呼吸数が多いのがわかります。
もちろん、
呼吸数が多い→病気になる or 病気になる→呼吸数が多くなる
どちらかはわかりませんが、呼吸数と疾患の間には深い関わりがありそうですね。
ではなぜ息をたくさん吸いすぎるとダメなのでしょうか?
息を吸いすぎ!?
先ほど少しだけ触れましたが、
酸素をできるだけ多く吸い込むことが大切なのではありません。
大切なのは二酸化炭素の量なのです。
酸素がないと生きていけないよ!!二酸化炭素って悪いんじゃないの?
実はそうではないのです。
酸素を全身に行き渡らせるためには二酸化炭素の存在が必要なのです。
どれだけたくさん酸素を吸っていても適切な二酸化炭素の量がなければ
身体全体に酸素が行き渡らなくなってしまうのです。
その理由をこれから解説していこうと思います。
酸素と二酸化炭素の関係性を説明する上で必要なこととして、
ボーア効果、そして酸素解離曲線を理解する必要があります。
ボーア効果とは、
ヘモグロビンの酸素解離曲線が血液の温度やpH、
炭酸ガス濃度によって移動する現象のことを指します。
酸素は赤血球のヘモグロビンと結合して、身体に酸素を供給しています。
しかし、この酸素をヘモグロビンから離すためにある物質が必要になってきます。
それが二酸化炭素になるわけです。
Bohr; Hasselbalch, Krogh. “Concerning a Biologically Important Relationship – The Influence of the Carbon Dioxide Content of Blood on its Oxygen Binding”より引用
具体的にいうと、
温度が上昇、あるいはpHが下がったり、炭酸ガス濃度が上昇すると、
酸素解離曲線は右に移動して、ヘモグロビンは酸素を解離しやすくなります。
つまりは、
全身に酸素を行き渡らせたい場合は、二酸化炭素の量を増やし、
酸素解離曲線を右に移動させる必要があるということです。
また、体内のpHは体内の二酸化炭素の量に依存します。
体内の二酸化炭素の量が多ければ、pHは下がり酸性に傾きます。
ということは、酸素解離曲線は右に移動し、酸素を全身に行き渡らせることができるということです。
逆に吸気量が多い場合は、体内の酸素量が多く、二酸化炭素の量が少なくなってしまいます。
そうすると酸素解離曲線が左に移動してしまい、酸素を全身に行き渡らせることができにくくなるということになってしまいます。
(酸素量によっては体内のpHバランスは変化しません。)
ではどうすれば良いの?
呼吸が大切なのはよくわかった!!
横隔膜が大切なのも良くわかった!!
ではどうすれば良いのでしょうか??
簡単に言えば、どの姿勢でいても適切な呼吸ができるようになれば良いのです。
そこで良い指標となるのが赤ちゃんの発育発達過程です。
なぜなのでしょうか?
人は様々な要因で常に代償動作を行なってしまっています。
呼吸もその例外ではありません。
横隔膜だけで呼吸できるはずなのに、
肩や首の筋力を使って胸郭を持ち上げることで呼吸してしまっているのです。
あなたは正しい呼吸ができていますか?
まずは自分の呼吸にどのような問題があるのかを把握することが大切です。
下のような症状があれば呼吸が乱れている可能性が高いです。
1. 口呼吸をしている
2. 寝起きで口が乾いている
3. 何もしていないのに首や肩が凝る
4. 目が疲れる
5. いびきをよくかく
6. 仰向けで寝ると腰が反る
7. 胸で呼吸してしまう
8. 鼻息が荒い
ではどのように呼吸を整えていけば良いのでしょうか?
簡単にいうと、
呼吸が簡単にできる姿勢から少しずつ難易度を上げていき、
最終的には運動を行なっていても適切な呼吸ができるようにしていくというものです。
では呼吸が簡単にできる姿勢とは何なのでしょうか?
それを考えるためには赤ちゃんの発育発達が鍵になります。
生まれたばかりで筋がない赤ちゃんでも呼吸することができますよね。
つまり、赤ちゃんが行う呼吸が最も代償動作が少ないと考えられます。
では、赤ちゃんが獲得する順番で同じように呼吸をすることが適切なProgressionの順番であると考えられます。
仰臥位→伏臥位→四つん這い→座位→立位
のような順番で正しく呼吸していくのが良いと考えられます。
僕の個人的な意見
呼吸をするだけでも身体が緊張するのであれば、
それ以上の負荷の運動をすればほぼ確実に過緊張状態を作り出してしまいます。
また、
その人の呼吸はその人の外的環境や精神的状況など様々な要因があって形成されていますので、その要因を特定して、アプローチをしていくのが必要だと考えられます。
そして、
まずは呼吸の状態を適切に評価し、呼吸を整えてから少しずつ運動を行い、
適切なProgressionを行っていくことが重要ではないかと思っています。
呼吸と姿勢・呼吸と自律神経について
呼吸と姿勢の関係や自律神経との関係については、
個人ブログにて掲載しております。
https://yuto-atc.com/呼吸の原理原則について/
に頑張って見やすく書いておりますので、
来ていただけると幸いです。
参考文献
本間生夫. (2015). 呼吸機能と健康. 日本東洋医学系物理療法学会誌, 40(2), 1-9.
Homma I, Masaoka Y. Breathing rhythms and emotions. Exp Physiol. 2008 Sep;93(9):1011-21. doi: 10.1113/expphysiol.2008.042424. Epub 2008 May 16. PMID: 18487316.
Masaoka, Y., Kanamaru, A., & Homma, I. (2001). Anxiety and respiration. In Respiration and emotion (pp. 55-64). Springer, Tokyo.
Bohr; Hasselbalch, Krogh. “Concerning a Biologically Important Relationship – The Influence of the Carbon Dioxide Content of Blood on its Oxygen Binding”
Breathing slower and less: The greatest health discovery ever. Normal Breathing: The Key to Vital Health. (2021, November 10). Retrieved March 19, 2022, from https://www.normalbreathing.com/
大貫崇. (2019). 呼吸機能と体幹, 横隔膜の関係性について. 日本アスレティックトレーニング学会誌, 5(1), 27-34.
『新しい呼吸の教科書 【最新】理論とエクササイズ』(森本貴義・近藤拓人 ワニブックス[PLUS新書])
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