隆 慶一郎『鬼麿斬人剣』

活動期間五年という短い時間の中で良質の作品を残せた作家を挙げるなら、隆 慶一郎と稲見一良の二人は絶対である。
二人とも文章は読みやすいが、殊に隆 慶一郎においては、原哲夫が『花の慶次』として漫画化した『一夢庵風流記』や『影武者 徳川家康』、横山光輝によって漫画化された『捨て童子 松平忠輝』など、元が脚本家だったことからもストーリーの組み立てに長け、とても優れた時代小説作家であった。
壮大なエンターテイメントを理解した時代小説は、今なお求められる最高の形がそこにある。
さすがは東大では辰野隆、小林秀雄の教え子だったこともあって、その文学の奥深さを垣間見せずにはいられない。
この『鬼麿斬人剣』は、キャラクターの立たせ方、物語の展開、描かれる文章と文句なしの娯楽時代小説屈指の作品だと言っても過言じゃないし、遅咲きの小説家活動わずか五年で「長生きは決して美徳ではない」と人間が生きた証に何が残せるかという答えに「誇り」を選んだ生き様の凄味がそこにある。



隆 慶一郎『鬼麿斬人剣 』(新潮文庫) https://www.amazon.co.jp/dp/4101174121/ref=cm_sw_r_other_apa_i_b3otFbAETB65T


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