かつての詩32「異形」

「異形」


何ひとつ
何ひとつとして同じものなどない
ぼくはぼくの目に映るものしか見えない
他人の目に映るものを見ることは出来ない

思考は瞬間の堆積
昨日の風は昨日の風で
今日の所有物でもなければ
一昨日の所有物でもない
三年前に読んだ本さえ
その頃のメッセージはもう挟まれていないのだ
イメージは進行形
絶えず今と絡み合って
明日への生き残りを賭けている

ぼくらは異なり続けている
昨日の出来事を今日の日記に記す訳にはいかない
何ひとつとして同じものなどないのに
憧憬を求めて同形を求めるのか
刻一刻 人間は個々に進化し 引火し 劣化し
ぼくらは重なり続けているが
何ひとつとして同じものではない
異形には畏敬の念を
それが払えないようでは一敬にも値しない
失敬な話だ
異形がそんなに積み荷なのか罰なのか
銅貨を支払ってでも同化しようなんてどうかしている

何ひとつとして同じものなどない
遺伝子配列が一緒であろうとも
生まれた瞬間は一秒たりとも同じものはない
それは工場の画一的な生産ラインであってもだ
きみよ 瞬間をバカにするな
検査表で定められた視力ぐらいで何がわかるというのだ
何ひとつ
何ひとつとして同じものなどない

ぼくには
ぼくの瞬間とぼくの空間しか
知ることが出来ない


Masanao Kata©️ 2013
Anywhere Zero Publication©️ 2018
アンソロジー詩集『of course』収録
http://www.taiyo-g.com/shousai095.html
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