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ヴォクス・マキナの伝説をTRPG側から解説してみた Season3 Week2(第4~6話)

※初見の方へ※
この記事は「ヴォクス・マキナの伝説をTRPG側から解説してみた」の続きです。過去の記事がまだの場合は順に読むことをお勧めします。
シーズン1 #1では通算第1~2話の内容に加え、原作となるTRPGセッション『Critical Role』についても紹介しています。

シーズン3の前回の内容や、新たに登場するゲストキャラについては↓からどうぞ。


主要設定

第4話~:地獄の別名

第4話では地獄はエヴァーライトから「デスパスの地獄層」(Hells of Despath)とも呼ばれていますが、この「デスパス」はヴォクス・マキナの伝説でエクサンドリアの世界固有の呼称として新たに追加されたもののようです。
D&D側では九層地獄に対する固有名詞としてバートル(Baator)が存在します。

第4話~:地獄の階級制

九層地獄とは、D&Dの多元宇宙において、”秩序にして悪”の属性(アライメント)を司る世界(説明を忘れていましたが、あの善-悪・秩序-混沌の奴もD&Dが発祥です)。
地獄の社会は階級制と徹底的な搾取によって成り立っており、基本的に上司の言う事は絶対。第4話の下級悪魔に化けた一行のように、突然部下がお目通りたいなどと言ったら大事です。
ゼルクサスもデスパスのルールは絶対であると述べています。

第4話~:拷問の神・アスモデウス、そして「裏切りの神」

こちらは主にCritical Roleの世界観であるエクサンドリア固有の設定です。
第4話、ゼルクサスは人間だった頃の話の一部として、「拷問の神/Lord of Torment」の誘いに乗ったとしています。
(「拷問」の語義ですが、tormentは基本的に苦しみを表す単語なので、拷問行為そのものではなく、拷問のように辛い物と考えるべきでしょう)

原作『Exandria Unlimited: Calamity』(ゼルクサスの項にて紹介)では、ゼルクサスを誘惑したのはアスモデウスと呼ばれる存在です。
現実でアスモデウスといえば聖書に描かれ、悪魔信仰の対象としても有名な存在ですが、D&Dでは九層地獄の長の中の長として描かれています。
現実由来の名称ですが、D&D側の固有名詞として名前をぼかしているいつものケースと思われます。

ゼルクサスの身の上話に対し、パイクは拷問の神を「裏切者の神/a Betrayer」と呼びましたが、エクサンドリアの世界観において、「Betrayer God」はエクサンドリアを創造した神々のうち、のちに他の神々を裏切った邪神です。また、邪神の総称なのか、創造の神々ではないものの、ささやかれし者(ヴェクナ)も含まれています。

登場NPC

ゼルクサス

本名:ゼルクサス・イレレズ/Zerxus Ilerez
種族:デヴィル(元ヒューマン)
クラス:パラディン

第4話に登場する悪魔ゼルクサスは地獄の民にしてはやけに人間じみた姿をしており、「拷問の神」の使者となるまでの経緯が語られています。

しかし、この過去を含め、ただのNPCでも、ただのアニメ版の後付けでもありません。
通常Critical Roleの配信は、GMのマシュー・マーサー氏にいつものメンバー、そして時折ゲストを迎える形で行われます(ヴォクス・マキナの物語もこのレギュラー配信が由来です)が、近年になって「Exandria Unlimited」と称して、普段と違うGM、普段と違うメンバーで数回に渡って配信されるショートエピソードの形式も登場するようになりました。

Exandria Unlimited: Calamityの出演者一同。
GMはコメディアンにして、D&D配信界隈でマシュー・マーサーと双璧をなす
(と筆者が勝手に思っている)ブレナン・リー・マリガン(写真中央)。

その第3回にあたる「Exandria Unlimited: Calamity」(以下:ExU: Calamity)では、1000年前の魔法に支配された時代(Age of Arcanum)の終焉、大戦争/The Calamityの始まりを描いています。
そして、ゼルクサスはそのうちのプレイヤーキャラクターの一人なのです。

当然ExU: Calamityは原作のヴォクス・マキナ編完結から何年も後に配信されたので、後付け改変という事になります。

個別解説:第4話

シーミング(スキャンラン)

地獄の悪魔に紛れるため、呪文をかけるスキャンラン。
これは疑いようのないシーミング(見せかけの姿)の呪文です。
シーズン3第2話のディスガイズ・セルフとの大きな違いは、一度に複数人に効果がある―そして自分以外にかけることもできるということ。
これもそこそこ高めのレベルの呪文なので、こういうのを使えるのもやはり高レベル冒険者ということでしょう。

ヴァクスは「スキャンランの魔法もいつかは解ける」と言っていましたが、D&Dのルール通りなら効果時間は8時間です。
加えて、亡者の群れで集中が解けていましたが、原作では維持に精神集中を擁するといったルールもありませんでした。
まあ、ヴォクス・マキナの伝説では仔細が違うことは間違いないでしょう。

個別解説:第5話

モンスター:キメラ

アルーラ一行の回想の中に登場した怪物。一行はキメラと呼んでいますが、獅子の頭に蛇の尾を複数持っており、D&Dのルール上で「キマイラ」と呼ばれているもの―ギリシャ神話でも描かれるドラゴン、ヤギ、ライオンを組み合わせた怪物―とは似ても似つかない存在です。「キメラ」の名称はより広範な合成獣としての用法をなのでしょう。
ヴォクス・マキナの伝説はモンスターのデザインがオリジナルで一貫しているのはこれまで同様です。

地獄の門を開ける能力(ケイレス)

第3話のアルーラとドーラ、第5話のケイレスが地獄の門を開ける儀式を行っていますが、環境が関わるため、D&Dのルール上の呪文という訳ではなさそうです。
とはいえ、次元同士を繋ぐ力といえば、ケイレスがシーズン2第6話で使用したプレイン・シフトの呪文があるので、その辺りと関連して条件付けされているのでしょうか。

火の吸収(夜明けの殉教者の鎧)

悪魔の火を吸収し、反撃する「夜明けの殉教者の鎧」。
原作Critical Roleでの夜明けの殉教者の鎧は火ダメージを半減したり、近接攻撃を半減する能力でしたが、本作ではD&Dのアブソーブ・エレメンツ呪文を想起させる形で描かれています。

ついでなのでアブソーブ・エレメンツについても紹介しておきましょう。
攻撃のエネルギーを吸収し、同じ系統のダメージ(斬撃や火、酸など)を次の自分の近接攻撃に乗せるというものです。なお、クレリックは使用対象外です。

テレポート(アルーラ)

悪魔とドラゴンの戦いの中、崩れる洞窟。アルーラがテレポートの呪文で一行を脱出させます。
これも演出が違うだけで、シーズン3第1話と同じテレポートの呪文でしょう。外に出られればそれでいいので、多少失敗しても問題ないでしょう。

フェンスラスの茨の矢+プラント・グロウス?(ケイレス&ヴェクス)

ヴェクスのフェンスラスが放った茨の矢に、ケイレスの呪文を乗せ、広がった茨がヴォルガルの心臓を貫き、大樹が押し倒します。
明確に木を生やす呪文はD&Dには見当たりませんが。プラント・グロウス(植物繁茂)の呪文の延長線上でしょうか。広い範囲に植物を生い茂らせ、移動困難にする呪文ですが、D&Dでの仕様では特定の物体ではなく地点を対象に発動する上、木が生えるという指定もないため、アニメでの脚色でしょうか。フェンスラスとの相互作用という可能性も考えられますが、Critical Roleでのデータにもそういった旨はありません。

髪を生やす魔法(パイク?)

悪魔の火で焼けたパイクの髪を魔法で元に戻しています。
原作D&Dに明確にこのような効果を持つ呪文はありませんが、リジェネレイト(再生)の呪文は切られた体の部位を再生することができます。クレリックも使用できる呪文なので、その延長線上ということでしょうか。
魔法のある世界、特に魔法の使い手も多い世界となれば、このような細かい呪文もあるのでしょう。『葬送のフリーレン』などをご覧の皆様ならお分かりになっていただけるかと思います。

個別解説:第6話

シャトー・ショートホルト(モルデンカイネンズ・マグニフィセント・マンション - スキャンラン)

休める場所を求める一行に、スキャンランは「シャトー・ショートホルト」(ショートホルト城)なる場所へ招待します。そして、その正体はドアに魔法の鍵を差し込むことでたどり着く異次元空間でした。

これぞモルデンカイネンズ・マグニフィセント・マンション(モルデンカイネンの豪勢な邸宅)。D&Dの多元宇宙に名を馳せる大ウィザード「モルデンカイネン」の名を冠する呪文で、ビグビーズ・ハンド同様D&D側の固有名詞が入っていたため、スキャンラン絡みの名前に変更されています(単に呪文で行くことのできる空間の名前とも解釈できますが…)。

中は最大総床面積約150平方メートルの快適な空間で、9品のコース料理を100人にふるまえるだけの食糧と、100人の魔法の従者がついてきます。第6話冒頭でバンドにいた霊体がそれにあたるのでしょう。調度品なども自由ですが、中の物を外に持ち出してしまうと消えてしまいます。

D&Dのルールでは触媒に「ドアのミニチュア」が指定されており、スキャンランがドアを要求したのもこれが由来でしょう。スキャンランは魔法の鍵も使用していますが、スキャンラン自身の呪文なのか、魔法のアイテムによる扱いになっているのかの詳細は不明です(原作Critical Roleではスキャンラン自身が呪文を使用しています)。

ビグビーズ・ハンドメジャー・イメージなど、ヴォクス・マキナ一行はウィザードが不在のためか、スキャンランがウィザード的な役回りになっているように感じます。

ファイアー・ボルト(アルーラ)

パイクの夜明けの殉教者の鎧の力を使いこなす訓練に、アルーラが火炎弾を放ちます。
火炎弾を発射する呪文といえばファイアー・ボルト(炎の矢)です。使用回数無限の「初級呪文」なので、あまり力を使っていないことがわかります。

スクライング(パイク)

ケイリーが無事だと伝えるため、ケイリーの使っていた剣を通じてスキャンランにケイリーの姿を見せるパイク。
これはスクライング(念視)の呪文でしょう。面識のない相手では成功率が下がりますが、本人の持ち物や髪の毛などを持っていれば成功率が上がります。
なお、他人とビジョンを共有する要素はルールには見当たりません。

モンスター:レッド・ドラゴン・ワームリング

ホワイトストーンを襲うレッド・ドラゴンの仔たち。
D&Dにおいて、ドラゴンの仔はワームリングと呼ばれ、この姿ですら一般人並みの知能とヒグマ一頭を余裕で屠ることができるだけの力を持ちます。
ホワイトストーンを襲ったソーダクの仔たちは、この上に何らかの影響で強化されているため、猶更です。

クリエイト・オア・デストロイ・ウォーター(アルーラ)

太陽の樹の炎上を止めるため、アルーラは魔法で水を作り出します。
水を作り出すといえばクリエイト・オア・デストロイ・ウォーター(水の生成・破壊)の呪文ですが、D&Dのルールではこれで水を生成するには容器が必要です。これが実際のセッションだったとしても、どうせすぐに散布するので省略するでしょうが…

また来週

ホワイトストーンが再び壊滅したところで今回はここまで。
回を重ねるごとに説明すべき内容が減ってきて、安心しているようなちょっと虚しいような…


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