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三人の奴隷 〜理不尽な世界から抜け出した者と残った者〜

※この物語はフィクションです

 

昔々、あるところに、三人の奴隷がいました。

三人は元々人間社会で人間らしい生活を営んでいましたが、天変地異が起こったある日、そのパニックに乗じて奴隷として連れて来られました。

奴隷たちは、労働以外のことを自由に出来ぬよう手足には枷(カセ)をはめられ、労働以外のコミュニケーションをしないよう顔には口輪(クチワ)を付けるよう言われていました。

 

三人のうちの一人は、これが理不尽でおかしな事だと感じていました。

口輪を外し、自分の意思を表明し、理不尽に対して抵抗しました。

しかし、その声は響かず、それどころか、時にはさらに理不尽な仕打ちを食らうこともありました。

それでも、おかしいと感じている自分の気持ちは打ち消さず、理不尽に対して静かに抗いながら、ここから抜け出す方法を探っていきました。

 

三人のうちのもう一人も、これが理不尽でおかしな事だと感じていました。

しかし、権威や権力に対しての恐れから、何も抵抗はせず、黙ったまま過ごしていました。

そのうち、今度は手足の枷や口輪は必要なものなんだと語るようになりました。

自分の心に反していることの整合性を保つために、理不尽を正当化するようになっていきました。

 

三人のうちのもう一人は、誰かがこの理不尽から解放してくれるだろうという期待を抱いていました。

しかし、現実は何も変わりませんでした。

そして、日々の苦しさから逃れるために、何も考えないように、何も感じないようにしていきました。

そうしているうちに、考える力や、感じる心が、少しずつ無くなっていきました。

 

 

何年か経った後。

 

三人のうちの一人は、変わらず奴隷として過ごしていました。

最初はおかしいと感じていた手足の枷や口輪も、今では生まれた時から付いていたものだと思うようになっていました。

さらには、自身の意思や自由を奪っているそれらのアイテムを、あとから来た奴隷たちに自慢するようになっていきました。

 

三人のうちの一人は、ロボットと呼ばれる存在になっていました。

考えないように感じないようにしているうちに、人間としての知性や感性は失われ、今では人間だった頃の記憶も完全に消え去りました。

その後は、自分の意思を持つことはなく、他者の命令に従って一生を過ごしました。

 

三人のうちの一人は、奴隷の世界から抜け出していました。

諦めずに動き続けていると、あるとき枷がはずれ、外の世界に出るチャンスを得ました。

外の世界に出たあと、他の奴隷集落から抜け出してきた者たちと出会いました。

そして、新たな人間社会を築き、再び人間らしい生活を営んでいきました。

 

 

人間から奴隷になった者、奴隷からロボットになった者、そして再び人間になった者。
 
昔々、あるところにいた、とある三人の物語。

 

(終わり)

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