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次世代経営幹部の選抜と育成はいまだにCEOのトップアジェンダ

新任経営幹部の成功率はわずか10~20%。80~90%は、月並みか失敗に終わる。経営幹部になってからの失敗は、企業全体に深刻な影響を与えかねない。

世界最大規模のリーダーシップ・コンサルティング会社であるDDI/MSCが実施した調査によると、グローバルで65%の人事担当者が「将来の人材供給体制が整っていない」と回答している。破壊的イノベーションの時代、経営幹部となるリーダーの選抜・育成は、深刻な課題だ。なぜならば、企業の成長も衰退もそのリーダーに大きく影響されるからである。世界的にリーダーの準備度が著しく低下している中、リーダーの育成を加速させる方法はあるのだろうか。

HRプロでは、世界93カ国でサービスを展開するDDIのバイスプレジデントであるブルース・ワット博士、日本担当ゼネラル・マネジャーのケン・グラハム博士と、DDIと45年以上のパートナーシップを築いている株式会社マネジメントサービスセンター(MSC)の執行役員 福田俊夫氏に、令和の時代のリーダーシップ、そして次期リーダーの早期選抜・育成方法について話を聞いた。

1.多様なタレントプールの中から、この戦略を実行できる最適なリーダーを選び出すことが成功の鍵

寺澤:本日はインタビューをお受けいただき、ありがとうございます。今、企業経営を取り巻く環境は、破壊的イノベーションの時代と言われるように、先を見通せない状況にあると言われます。このような状況を、特にリーダーシップにおいてどのように捉えられていますか。

Bruce Watt, Ph.D., Vice President, DDI

ワット:すべての組織に言えることかと思いますが、時代によって事業は変わるものであり、昨日と明日で事業の要件が同じということはありません。それに伴い、リーダーシップも自ずと変わっていくものだと思っています。今、大きな崩壊と転換が起きています。デジタル化の進展、組織のサイロ化を打ち破ろうという動き、そして新たなビジネスの潮流を確立しなければならないということもあります。このような中、今後のリーダーシップのあり方も定義していかねばなりません。こうした環境だからこそ、我々DDI/MSCが企業の皆さま方に効果的なサポートを提供できるのだと考えています。

寺澤:以前は、ある程度先が見通せる環境の中で、リーダーは組織を率いていくことができました。しかし現在、ほんの少し先すら見通せない状況の中で、リーダーシップのあり方は非常に難しくなってきているのではないかと考えますが、いかがでしょうか。

ワット:リーダーシップは、今に限らず、どのような時代においても難しいものだと私は考えています。というのも、1人のリーダーが組織のすべてを統括することは不可能だからです。一口にリーダーといってもそれぞれに強みがあり、イノベーションを刺激する環境づくりに長けている人、オペレーションに長けている人、顧客重視の文化醸成に長けている人など、様々なタイプのリーダーがいます。企業はその状況に最もふさわしい、適材適所のリーダーを育成することが大切だと思います。

寺澤:多様性の時代、リーダーシップも多様になっていくということでしょうか。

ワット:その通りです。今、リーダーシップに関する仕事は非常にエキサイティングになっていると感じています。かつては、上級リーダーシップに関しては、財務、エンジニアリング、営業、法務といったバックグラウンドを持つ方が多くを占めていました。しかし現在は、より多様なバックグラウンドを持つ人材からリーダーシップを発掘できるようになり、それが会社の力になっています。言い換えれば今は、より広範なタレントプールからリーダーを発掘しなければならない時代だということです。より多くの女性や、多様なバックグラウンドの方々をリーダーに登用していくことが、単に理念のためというだけではなく、企業が事業を継続する上で実際に必要になってきているのです。

寺澤:日本における状況はいかがでしょうか。

Ken Graham, Ph.D. , General Manager / Senior Leadership Strategist, DDI

グラハム:かつて日本企業の多くは、リーダーシップは自然に育つものだという考えのもと、あまり積極的な育成はしてこなかったと思います。しかし現在その状況は変わりつつあり、より能動的なアプローチを取っています。ビジネスの目的のために必要なスキルセットを持つ人材を発
掘し、積極的にリーダーシップの育成を行うという方向になっていると感じます。

2.リーダーの供給不足は、日本のみならず世界的な課題

寺澤:こうした時代の中で、企業のリーダー人材の準備というのはどのような状況になっているのでしょうか。

株式会社 マネジメント サービス センター 執行役員 福田 俊夫

福田:DDI/MSCでは、リーダーシップに関する世界的な調査「グローバル・リーダーシップ・フォーキャスト」を、2~3年に1度行っています。その中で、2011年、2014年、2017年と3年ごとに定点観測を行ったところ、「次期リーダー候補が十分揃っている」と回答した企業は、グローバルでは18%(2011年)→15%(2014年)→14%(2017年)と、減少傾向にあります。日本ではさらにこの数値が低く、9%(2011年)→6%(2014年)→4%(2017年)という結果になりました。

ご存知の通り、日本人はスコアを低くつける傾向がありますが、ここで重要なのは、世界的な傾向と同じくして、リーダーの準備度が低下し続けていることです。我々は、ここに大きな危機感を感じています。

寺澤:なぜ、このような傾向があるのでしょうか。ビジネスの急速な変化にリーダーのタイプが合致しなくなってきているのか、または、必要なリーダー像が分からなくなってきているのでしょうか。

ワット:従来のリーダーシップの育成方法では、準備度を引き上げるために膨大な時間が掛かります。そのため、リーダーシップ開発に取り組み、やっと準備ができたという時には、事業環境が変わり、新たな能力を持った人材が必要とされているため、供給が追いつかない問題があると思います。

寺澤:特に日本ではリーダーの準備度が低いようですが、長年日本マーケットに携わってこられたKenさんの目からみて、この状況はいかがでしょう
か。また、世界的に数値は下落しているとのことですが、もし特徴のある国があれば教えてください。

グラハム:日本企業には、素晴らしい人材がたくさんいます。そしてこれまで、人材育成も概ねうまくいっていたと思います。しかし現在直面している課題は、その人材と、新たに浮かび上がってきた課題との間に、ズレが生じているということです。そこで、人材の持つ能力と、新たに習得しなければならない能力とのギャップをいち早く埋めていく方法を取っていく必要があると思います。こうした変化の激しい時代には時間がありませんので、新しいアプローチでリーダーシップ人材を早期に特定し、育成していくことが重要です。新たな人事モデル、新たな人材育成モデルへのシフトをスピーディーに行わなければなりません。

ワット:世界中のどこを見ても、リーダー候補が多すぎるという国はありません。特に日本やドイツといった、これまで安定的に成功を続けてきたうえで、今は早急な変化を求められているという状況の国においては、深刻な数値が出ています。また、インドのように成長著しい国においては、事業の成長スピードに人材の供給が追いついていないという課題があります。

3.CEOの最大の関心はコンピテンシーのスコアではなく、誰を起用すればその事業で成功できるか?

寺澤:私たちが実施している日本企業の人事調査では、最も重要な課題は「次世代リーダーの育成」と回答がありました。これはダントツの1位です。特に、ビジネスを大きく左右する経営人材をいち早く見極め育てていくことが、企業の将来を左右するのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。

ワット: 組織の最高経営幹部(CxO)となるには、リーダーとしてのキャリアを段階的に積んでいくケースがほとんどです。しかし誰もがCxOに辿り着けるというわけではありません。その手前の「次期最高経営幹部」の段階、
すなわち上級管理職から経営幹部になり最高経営幹部を目指す段階で、失敗するリスクが非常に高いのです。それはなぜかというと、経営幹部になると直面する課題が突然複雑になり、成功することが極端に難しくなるからで
す。それゆえ、次期最高経営幹部から最高経営幹部に上がったうちのわずか10 ~ 20%が成功し、残りの80 ~ 90%は、月並みの結果しか残せないか、失敗してしまいます。

しかし経営幹部になってからの失敗は、個人のキャリアのみならず、企業全体に深刻な影響を与えかねません。次期最高経営幹部をいかに選抜、育成していくかは、企業にとって重要な問題です。DDI/MSCは、次期最高経営幹部の方々の準備度を高め、良いインパクトを残せるよう支援しています。

Bruce Watt, Ph.D., Vice President, DDI

寺澤:では、どのような手法で次世代経営幹部の選抜を行っていけばいいのでしょうか。

ワット:最も良いのは、「ビジネス・ドライバー」にフォーカスして人材を選抜することです。実際に、業界トップの企業は、事業戦略と人材戦略が密接に連携している確率が2.5倍高いというデータがあります。

ビジネス・ドライバーとは組織の戦略的および文化的優先事項を成功裏に推進し、実現する上で経営幹部が解決しなければならない主要ビジネス課題のことです。まずは、自社のビジネス・ドライバーとは何か――イノベーションの創造なのか、新規市場への参入なのか、あるいは顧客中心のアプローチに移行することなのか等――を特定することです。

そこから、リーダーが成功するために必要な「サクセス・プロフィール」を定義していきます。このサクセス・プロフィールを構成する要素は4つあります。「何を知っているか(知識)」、「何をしてきたか(経験)」、「何ができるか(コンピテンシー)」、「どのような人か(個人特性)」です。

しかしながら、サクセス・プロフィールに完全に合致する人材は、まず存在しませんから、そこに近い人材を抽出して、半年~1年をかけてそのギャップを埋めるための能力開発を実施していきます。その人が成功していくには何が必要なのかを判断し、パーソナライズされた育成を行います。

福田:従来の人事では、求める人材像からコンピテンシーを作っていくというアプローチをしていました。しかしビジネス・ドライバーによるアプローチでは、企業が実現したい戦略や醸成したい企業カルチャーを起点として、人材像を明らかにしていきます。DDI/MSCは、これを企業の人事とだけで行うのではなく、事業部のリーダーも巻き込んで議論していくようにしています。それにより、机上の空論ではない、より事業に根差したコンピテンシーを設定できるようにしています。

グラハム:通常、CEOが人材を見る時に「誰がどのコンピテンシーでどの程度のスコアを取っているのか」という見方はしません。たとえば業績が振るわない拠点があるとして、そこを立て直してくれる人は誰なのか、それが最も知りたい情報なのです。ビジネス・ドライバーを用いたアプローチのメリットは、こうした、最高経営幹部が重視することに照らし合わせた人材評価を行えること。これは従来のアプローチではできないことだと考えています。

寺澤:ではDDI/MSCでは、人材を選抜するためにどのような具体的なタレントレビューを提供されているのでしょうか。

ワット:タレントレビューは社員全員に行うものではありません。つまりそのレビューを行うべき人材層を絞り込むことが必要です。社内に広く網を張り、そこから可能性のある人材を抽出するためのシステムが必要となります。

株式会社 マネジメント サービス センター 執行役員 福田 俊夫

福田:タレントレビューの一手法として、アセスメントセンターがあります。アセスメントセンターでは、現在の職務より1~2段階上の職務をバーチャルで実践いただき、そのパフォーマンスや行動を見て、その方のコンピテンシーや個人特性を判定し、どんなビジネス・ドライバーに優れているのかを見極め、最も能力が発揮できる事業部に配属計画を立てていきます。

現在は、管理職以上のアセスメントが主体ですが、社内に広く人材の網を張る必要があることから、早期に若手層のポテンシャルを見極め、育成に取り掛かることが必須です。

そこで、私たちは今年、若手層のポテンシャルを測るためのオンラインツールをローンチします。これは、20代後半から30代前半の人を対象とし、上級管理職としてのポテンシャルを測るツールです。広く網を張ってポテンシャルのある人材を早期に特定するだけではなく、より早い段階で能力開発ができるようなトレーニングプログラムが開始できるようになります。

Ken Graham, Ph.D. , General Manager / Senior Leadership Strategist, DDI

グラハム:さらに、もう1つ鍵となるのが、「パーソナライズされた育
成方法」です。クラスルーム全体に同じようなコンテンツを提供するだ
けではなく、個人に合ったモジュールをデジタルで提供します。

このように、より早くリーダーを選抜・育成できるよう、デジタルとクラスルームを融合させ、ハイテクとハイタッチ、つまり効率のためのテクノロジーと人の有機的なつながりの両方を重視して、今後も育成プログラムを提供していきます。

4.成功する次世代経営人材の育成に不可欠な3つの要素

寺澤:ビジネスを理解し、事業戦略と人事戦略をリンクさせていくことは、日本の人事がとても苦手とすることなのではないかと思います。これをうまく進めるポイントがあればぜひ聞かせてください。

ワット:最初のステップは、サクセッションマネジメントを主観的にではなく、ビジネスプロセスに基づいて実施するということです。そして、リーダー育成のための良い仕組みをつくるには、3つの要素が不可欠だと思います。

1つは、タレントレビューなど、しっかりと統制された公式なプロセスを導入することです。2つ目は、データを揃え、それに基づいて実施することです。そして3つ目は、人事部門だけでなく、事業部門からも選出された経営人材育成委員会など、戦略実現に向けた人材要件を熟知し、オーナーシップを持ったリーダーのグループを作ることです。彼らが広く網を投げ、そこから次のリーダーとなる人材を選出していくことが大切です。冒頭でも申し上げましたが、現在、新任経営幹部の成功率はそう高くはありません。以上のような人材育成に不可欠な3つの要素を取り入れることにより、成功率を高めること、そして、より早く次世代経営幹部を育成できると信じています。

先ほど、寺澤さんは「こうした手法は日本の人事が苦手とするところだ」とおっしゃいましたが、私は楽観的な予測を日本に対して持っています。

今、より良いタレントマネジメントの必要性を、企業は認識し始めています。日本企業はこれまで、必要性が高いと感じたものは、非常に効果的かつスピーディーに導入・実施に成功しています。そのため、この領域に関しても他の国より早いペースで実施できるのではないかと考えています。

グラハム:私も同じ意見です。私は13年間日本の仕事を手掛けてきましたが、日本の人事の方々は世界的に見て非常に優秀であり、日本に来るたびにレベルが上がっていると思います。人事領域だけではなく、事業に関しても深い理解を持つ素晴らしい人事の方々がいらっしゃると実感しています。

寺澤:日本の人事にとって、非常に嬉しい言葉を伺うことができました。最後に、日本企業の経営者、そして人事部門の方々へ、アドバイスをお願いいたします。

ワット:相手の行動の是正や意思決定について指摘する時、注意深く発言するようにしてください。そういったことを発言する際は、主観的な考えに基づくのではなく、客観的なデータに基づいて行っていただきたいと考えています。

グラハム:経営者と人事が緊密に協力をして、とにかく進歩を続けるための努力をしてください。従来の人事システムを壊して、新たなものを作ることに、恐怖を感じるかもしれません。しかし新しい道を恐れず、今まで直面していないことに躊躇せず、進化を続けるためにぜひ一歩踏み出してください。

福田:是非、強みに焦点をあてるよう心掛けてみてください。日本人は弱みに目を向けて、それをどう改善するかを考えがちです。しかし現在はスピードがキーワードです。弱点を改善するよりも、今ある強みをさらに伸ばして、弱みを凌駕する方が遥かに早いし、弱みは組織でカバーし合えます。また、欧米では「ウェルビーイング」(従業員が身体的、精神的、社会的に良好な状態にあること)という言葉が盛んになりつつありますが、個人の強みを活かしてパフォーマンスを上げることでより多くの幸福感を感じることが証明されています。

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5.DDIとは

DDIは、世界最大手の革新的なリーダーシップ・コンサルティング企業です。1970年の設立以来、この分野の先駆者として、リーダーのアセスメントや能力開発を専門としてきました。顧客の多くは、『フォーチュン500』に名を連ねる世界有数の多国籍企業や、『働きがいのある会社ベスト100』に選ばれている世界の優良企業です。

DDIでは、組織全体におよぶリーダーの採用、昇進昇格、能力開発手法に変革をもたらす支援をすることで、すべての階層において事業戦略を理解し、実行し、困難な課題に対処できるリーダーの輩出に貢献しています。

DDIのサービスは、現地事務所や提携先を通じて、多言語で93カ国に提供されています。また、同社の研究開発投資は業界平均の2倍であり、長年にわたる実績と科学的根拠に基づいた最新の手法を駆使して、組織の課題を解決しています。

■関連情報
・DDIのご紹介
https://www.ddiworld.com/about

◆DDI社の4つの専門分野

DDI社は、4つの専門分野を中心に、長年の実績と科学的根拠に裏付けられたソリューションと、より深い洞察を提供し、優れた成果を生み出しています。

会社名:株式会社マネジメントサービスセンター
創業:1966(昭和41)年9月
資本金:1億円 (令和 2年12月31日)
事業内容:人材開発コンサルティング・人材アセスメント


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