ゲルマー・ルドルフ宣誓供述書への反論(5)
続きです。今回もまた、ルドルフによるクラクフ報告への反論、への反論です。一応前回に引き続きですが、クラクフ報告とはこちらになります。
このシリーズは一応これで完結ですが、元々はこの記事の中のリンクに「ルドルフはここで論破されている」とあったので、訳そうと思ったのがきっかけです。
翻訳するのを優先していて、しっかり読み込んでないので理解が追いついていないのですが、どこかにこの反論先になっているルドルフの宣誓供述書があればもうちょっと理解が進むかもしれません。ただ、何度か読み込めば、ある程度は理解はできそうな感触はあります。ともかく今回も早速訳して参りましょう。
ゲルマー・ルドルフ宣誓供述書への反論(1)
ゲルマー・ルドルフ宣誓供述書への反論(2)
ゲルマー・ルドルフ宣誓供述書への反論(3)
ゲルマー・ルドルフ宣誓供述書への反論(4)
ゲルマー・ルドルフ宣誓供述書への反論(5)
▼翻訳開始▼
リチャード・J・グリーン博士の報告書
III 分析の方法と分析結果
ルドルフは、IFFRの結果を、自分とロイヒターが得た結果と比較して批判している。宣誓供述書の220頁で、彼はいくつかの特定のサンプルを選び出し、彼とロイヒターが害虫駆除室とガス室の間に大きな違いを検出したのに対して、マルキエヴィッチらは違いを検出したが、大きなものではなかったことを明らかにしている。おそらく、ルドルフはその結果が気に入らないので、彼らの方法には欠陥があり、詐欺の罪を犯していると結論付けたのだろう。私は 別のモデルを提案する。
害虫駆除室と殺人ガス室の両方がHCNにさらされた。
プルシアンブルーは害虫駆除室で形成されたが、アウシュビッツ・ビルケナウの殺人ガス室からは測定可能な量のプルシアンブルーは発見されていない。
ガス室は、害虫駆除室と違って、50年間風化にさらされた。
総シアン化物量(プルシアンブルー+非プルシアンブルー)の差は、害虫駆除室ではプルシアンブルーが効率よく生成されたが、殺人ガス室では生成されなかったこと、一度生成したプルシアンブルーは残りやすいことに起因している。
害虫駆除室と殺人ガス室との間のシアン化合物の不一致は、殺人ガス処刑が行なわれなかったことを証明することはできない。したがって、ルドルフの批判のもう1つは無効である。10mg/kg以下のシアン濃度の値は信頼できないという彼の主張は、IFFRの結果に当てはめると、メリットがない。総シアン化物の値については正しいとしても、非プルシアンブルーのシアン化物の濃度については正しくない。またしても、彼はリンゴとオレンジを比較しているのである。IFFRの測定値が有意であることをどうやって確認するのか? 彼らは感度限界が約3μg/kgであることが知られている方法を用いていた。濃度既知の標準物質と測定値を照合したところ、コントロールサンプルからは、感度限界内でプルシアンブルー以外のシアンが検出されなかったという。一方、研究対象となったすべてのガス室では、プルシアンブルー以外のシアン化合物がかなり多く測定された。ルドルフは宣誓供述書の220頁で、次のように主張している。
この主張は単純に真実ではない。マルキエヴィッチらは、以前の結果について明確に言及している。
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この点、ルドルフの言葉はかなり過激だ。
ルドルフはさらにこう書いている。
<*に続く>
[61] ルドルフの脚注487について一言、ルドルフはこう書いている。
おそらく、ルドルフは彼らの主張をよく読んでいなかったのだろう。HCN-CO₂で燻蒸したサンプルでは、当初はより多くのシアンを測定していることは正しいのだが、マルキエヴィッチら(前掲書)は、このようなサンプルのHCN含有量の時間的減少は、CO₂に曝露していないサンプルのHCN含有量の減少よりもはるかに速いことを指摘している。
CO₂にさらされなかったサンプルでは、「調べた材料中のシアン化水素とその組み合わせの濃度が平均56%減少した(28%から86%)」ことがわかった。なお、<#1に続く>
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<#1>
彼らのCO₂暴露の推定は保守的である。彼らは人数を2倍も過小評価し、死亡までの時間を5分と短めに想定している。ルドルフはさらにこう述べている。
このプロセスは2つの部分に分けることができる。溶液のpH、すなわちヒドロニウムイオン(H⁺)の濃度に及ぼすCO₂の影響と、その平衡状態である。
H⁺+CN⁻<=> HCN
ルドルフは、CO₂の溶解度が低く、式1の平衡が左側にあることを定性的に主張する。この2つの主張は多かれ少なかれ同等である。均衡はルドルフが認めているよりも複雑である。低濃度のCO₂では、彼の式1の平衡は、CO₂のヘンリーの法則定数で決まる。しかし、H₂CO₃は部分的にH⁺とHCO₃⁻に解離し、HCO₃⁻はその後部分的にH⁺とCO₃⁻に解離するため、平衡状態ではこれらの反応をすべて扱い、有効なヘンリーの法則定数を導出しなければならない。その結果、水が酸性化するのである。大気中のCO₂濃度が360ppmであるため、理想的な純粋な雨水のpHが5.6であることはよく知られている事実である。第二次世界大戦時の大気中のCO₂濃度は330ppmに近かったが、ここで取り上げる目的には重要な違いではない。このプロセスは、3つのステップで構成され、そのすべてが化学的平衡を伴うと考えることができる。最初のステップは、CO₂の水への溶解であり、その平衡定数はCO₂のヘンリー則定数Khcである。
CO₂ + H₂O <=> H₂CO₃
第2段階は炭酸と水の酸塩基反応であり、その平衡定数をここではKc1と表記している。
H₂CO₃ + H₂O <=> H₃O⁺ + HCO₃⁻
第3段階は、重炭酸イオン(HCO₃⁻)と水との反応であり、その平衡定数はKc2と表記される。
HCO₃ ⁻ + H₂O <=> H₃O⁺ + CO₃ ²⁻
また、水の自己分解についても考慮する必要がある。
2H₂O <=> H₃O⁺ + OH⁻
<#2に続く>
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<*>
そして、
私見では、ルドルフの発言は不当である。IFFRの研究結果は有意義である。
翻訳者註:リチャード・グリーン氏によるこの反応は非常に控えめで、私には、ルドルフはポーランド・クラクフ法医学研究所の報告について、自身の学術的見解に反するという意味で「間違っている」とは言えたかもしれませんが、「捏造」や「詐欺」なる主張は穏当とは言えない、と思われます。そのような非難こそが、ルドルフがポーランド人の結果を「政治的なもの」と評するように、ルドルフ自身がまさにそうであることを示しています。
IV シアンの数値の解釈
ルドルフは2つの主要な主張を繰り返している。
以上のように、ルドルフのIFFRに対する批判は見当違いである。プルシアンブルーはHCNにさらされたときの検査としては信頼できないので、彼らは正しい実験をしたのである。ルドルフは、彼らの結果が「害虫駆除室とガス室の両方で同量のシアン化合物の残留物が形成されたことを示唆している」と実際に認めていることに注意してほしい。この主張を詳しく扱おうとしないのは、当然といえば当然である。
<#2>
水溶液では、水の濃度を定数として扱い、平衡のための定数Kwを導くことができる。これらの定数は、ジョン・H・ザインフェルド、『大気汚染の大気化学と物理学』、ジョン・ウィーリー&サンズ、ニューヨーク、1986年、pp.198-204に報告されている。溶液のpHは-log[H⁺]で定義され、[H⁺]はモル/リットルのヒドロニウムイオン濃度である。与えられた情報から、[H⁺]とCO₂分圧Pco₂の関係を表す3次方程式を導き出すことができる。この式は、ザインフェルドでも紹介されている。
[H⁺]³ - (Kw+KhcKc1 Pco₂)[H⁺]-2+KhcKc1 Kc2Pco₂=0
CO₂が1%の場合はpH5.0以下、4%の場合はpH4.6以下が予想される。pHを上昇させる他の要因によって、その影響が緩和される可能性もあるが、IFFRはそうした影響を考慮することを間違えていなかったのである。
<[61]は以上>
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これは、初歩的な論理的欠陥を示すものである。青色染色がHCN曝露に由来することが事実であるとしても、HCN曝露が常に青色染色をもたらすということにはならないのである。
ルドルフはこのセクションの最後に、検出限界に関する誤った議論を繰り返している。
その主張の根拠はすべて、プルシアンブルーの検査をしたサンプルを見ていることです。彼は比較できない量を比較しているのです。彼は、プルシアンブルー以外のシアン化合物がどの程度のレベルであれば有意であると言える根拠がない。これに対して、IFFRは、自分たちの測定値が一貫していることを知るための非常に良い理由を持っている。
バラック(住居棟)で一貫してゼロという値を測定している。
同じサンプルで繰り返し測定したところ、同じような結果が得られた。
彼らはその結果を既知の標準に対して校正した。
ここで、IFFRの調査結果の他の側面を見てみるのも一興であろう。表Iでは、「おそらく一度だけ(1942年の腸チフスの流行に関連して)チクロンBで燻蒸された住居から採取した対照試料中のシアン化物イオンの濃度」と報告している。これらの住居のサンプルは、いずれも測定可能な濃度を示さなかった。この結果は、否定的な結果を測定する能力の指標とすることができる。この結果を超える測定値は、有意であるとみなさなければならない。この結果は、濃度既知のサンプルの測定値に対して校正されたことを思い出してほしい。
少なくとも1回、場合によっては2回の実験的な囚人へのガス処刑が行われたブロック11の地下室で、彼らは以下の結果を測定した。
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この結果は重要である。否定派は、ブロック11の地下室が一度は燻蒸されたに違いないと主張して、この結果を説明しようとするかもしれない。この主張も、一度燻蒸されたと思われるバラックの結果が陰性であることを考えると、あり得ないことである。しかし、これらの結果を、火葬場IIの死体安置室1の結果と比較してみてほしい。
これらのサンプルの中には、ブロック11で検出されたシアン化合物の10~20倍の濃度を持つものもある。これらのサンプルは、1回の燻蒸の結果とは言い切れない。サンプルのばらつきは理解しがたいものではない。素材によってシアンに対する親和性が異なり、風化の影響もサンプルによって異なり、HCNへの最初の暴露が均質であったという保証はない。また、サンプル25と31は、BW5aの害虫駆除室の壁の内側から採取したサンプル番号57と58とそれぞれ同等の値を示している。
V. 期待される分析結果
ルドルフは宣誓供述書の中で、231-242頁にいくつかの計算を行っている。彼の目的は、1)換気時間が不合理であったことを示すこと、2)ガス室の時間平均気相濃度が10g/㎥であったにちがいないことを証明すること、の二つであるようである。私は前述で、換気時間が実際には妥当であったことを示した。また、ルドルフが主張するような高い気相濃度を考慮しても、ガス室でプルシアンブルーが合理的な効率で生成されることは、非常にありえないことであることも示した。彼の誤りは次のようなものである。
彼は、チクロンを除去できなかったため、換気中にガスが放出され続けたと仮定している。
彼は、理想的でない換気のための交換率を恣意的に減らしている。もちろん、実際の交換率が理想的な交換率と異なることは予想できるが、しかし、彼のこの交換率の削減は恣意的であり、彼の数字に正当性がないまま行われている。
彼は、チクロンのガス処理の温度を低すぎると想定している。
前述のとおり、アメリカの刑務所の死刑執行の項で示したように、必要な濃度についての彼の仮定は無効である。
ルドルフの主な誤りは、チクロンを除去することができず、したがって、換気期間中もガスが出続けるという彼の主張である。ルドルフはこう書いている。
私の同僚[62]は、この問題をこれまでにないほど詳細に取り上げている。最終的には、この問題に終止符が打たれるはずだ。実際に、チクロン導入の通気口はあったからである。
ルドルフは、換気が開始される前に、チクロンが部屋から除去されなかったと仮定しているので、彼の方程式は、上記の仮定よりも複雑になっている。彼は、換気装置をオンにした後、チクロンが継続的にガスを放出し続けていると仮定して、ガス室内の濃度を計算している。このような計算をするためには、チクロンからのガス放出を処理する関数形が必要である。彼は、15℃におけるイルムシャー[63]のチクロンのガス放出に関する研究を指数関数でフィッティングし、アウトガスの影響を換気の影響に加えることによって、このような関数を得ている。ルドルフは、この無理な手順を踏んでも、
[62] ダニエル・ケレン、ジェイミー・マッカーシー博士、ハリー・W・マザール、「アウシュヴィッツ・ビルケナウのクレマトリウムIIのガス室に関するいくつかの調査結果についての報告書」、ロバート・ヤン・ヴァン・ペルトの専門家報告書の付録(註:控訴審は行われなかったので、このヴァンペルト報告書は未公開だが、この報告書は https://phdn.org/archives/holocaust-history.org/auschwitz/holes-report/holes.shtml(日本語訳) で読むことができる)。
[63] R・イルムシャー、ノクマルス:「Die Einsatzfähigkeit der Blausäure bei tiefen Temperaturen」 (「青酸の低温での効率について」)、衛生動物学・害虫駆除学雑誌、1942年2月/3月、pp. 35-37。https://phdn.org/archives/holocaust-history.org/works/irmscher-1942/(日本語訳)
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交換時間6分(交換回数10回/時間)の結果を導き出し、換気の面では無理がない。より不合理な値を実現するために、彼は恣意的に各空気交換の時間を長くしている。彼は書いている。
この数字に正当な根拠は示されていない。これは完全に恣意的な仮定であると思われる。 より合理的な計算は、上記の換気能力の扱いで示されている。奴隷労働者による遺体除去の意味合いについても、前述したとおりである。ルドルフは、害虫駆除室とガス室での鉄青の生成についての議論を繰り返しているが、シアン化物イオンの凝縮相濃度の違いについては、十分に扱っていない。この問題については、十分に前述で議論しているので、ここでその扱いを繰り返すことはしない。
VI. 化学的方法の限界
ルドルフは、化学の長い研究の後、こう書いている。
以上、ルドルフの結論が全く根拠のないものであることを示したが、ルドルフでさえも、自分が何も証明していないことを認めていることは注目に値する。
結論
私は、化学に基づくルドルフの主張が、アウシュヴィッツとビルケナウの施設における毒ガスによる大量殺人の歴史について知られていることを覆すものではないことを示した。ルドルフの化学的主張は、チクロンBからのガス放出と換気、そして50年後に施設に残る化学的痕跡に関するものである。換気時間に関する彼の主張は、チクロン導入の換気口(翻訳者註:これは通常の換気口ではなく、金網導入装置によって毒ガスを放出し続けているチクロンを天井からガス室外へ引き抜くことを意味する)がなかったという誤った仮定に基づくものである。ガス室で発見されたシアン化合物の痕跡に関する彼の主張は、
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それらの誤った仮定に基づいている。1)自分たちの分析感度レベルとIFFRの分析感度レベルとの誤った比較、2)HCNにさらされるとガス室でも害虫駆除室と同量のプルシアンブルーが発生するはずだという誤った仮定、これは凝縮相濃度や速度論を十分に検討せずに気相濃度を比較したことによる、3)IFFRの研究者の知的誠実さを疑った、などであった。彼はすべての項目で失敗している。化学だけではもちろん大量殺人を証明することはできないが、すべての証拠を一緒に見て、それが同じ結論に収束するかどうかを確認する必要がある。このような化学的な議論は新しいものではない。実は、私は以前にも単独で、またジェイミー・マッカーシーと一緒に、その要点を取り上げている。ルドルフは、他のホロコースト否定論者と同様、化学の力を借りて歴史的証拠を覆そうとする。化学的な根拠で歴史を反証しようとする努力は失敗に終わった。実際、ゲルマー・ルドルフはそのことを認めている。彼の言葉を引用すると、「化学は、ホロコーストに関するいかなる主張に対しても、『厳密な』証明や反論ができる科学ではない」[64]。ルドルフは、化学的な議論を放棄して、チクロンBの導入口がないことについてのフォーリソンの主張を繰り返すようになった。「穴がなければホロコーストもない("No holes, no Holocaust,")」というのが、化学が失敗した今、彼らの主張である。CIAの写真という証拠と、ルーカスがこれらの写真に改ざんがないことを証明していることから、その主張も破綻している[65]。実際、この議論は、ケレン、マッカーシー、マザールの調査結果によって、今や完全に打ち消されている。実際、物理的、歴史的なすべての証拠と一致する唯一の説明は、アウシュヴィッツとビルケナウで毒ガスによる大量殺人が実際に行われたというものである。
私は、依頼された弁護士から、裁判所に対する最優先の義務について助言を受けている。これは、裁判所の専門家としての私の役割において最も重要であると理解している。私は、私の指示が誰からのものであるか、誰が私の報酬を支払うかにかかわらず、私の専門分野のすべての問題において裁判所を支援することを理解している。私は、本報告書が公平、客観的かつ不偏的であり、本訴訟の緊急性とは無関係に作成されたことを確認する。
[64] ゲルマー・ルドルフ、「アウシュビッツとビルケナウの「ガス室」についての考察」、http://www.vho.org/GB/c/GR/Green.html
[65] キャロル・M・ルーカス、「付録IV アウシュビッツI・II/ビルケナウ複合施設の分析」、ジョン・C・ジマーマンによる前傾所所収。
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私は、この報告書に記載した事実が真実であり、私が表明した意見が正しいことを信じています。
*** **** **、2001年4月21日
リチャード・J・グリーン博士
付録 I. 米国の処刑
アメリカの処刑に関しては、ルドルフが報告しないことについて、いくつかのソースを調べる価値がある。読者は、処刑の描写が楽しいものでないことを予見されるだろう。しかし、ルドルフの主張の正確さを評価するためには、これらの資料から引用することが重要であると私は考えている。脚注449で、ルドルフは、C.T.ダフィーを引用して、ガス処刑での死は13-15分であったと主張している。ダフィーは、ルドルフが引用したのとまったく同じページで、次のように述べている[66]。
次のページでは、死亡時刻がどのように報告されたかをダフィーが語っている。
ガス室の外に立って叫び声が止むのを聞いている目撃者と、聴診器を持った主治医とでは、どちらが早く死を報告する可能性があるのだろうか? ルドルフの資料のもう一つはこう述べている。
[66] C・T・ダフィー、88人の男と2人の女、 Doubleday、ガーデンシティ、1962年、p.101。
[67] ニューヨーク・タイムス、1994年10月6日、p. A20
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さらに、ルドルフが引用した時間よりもずっと前に意識がなくなることが一般的であることを示すために、この記事はルドルフの主張する「平均」死亡時間10-14分をどのように裏付けることになっているのだろうかと思う。ルドルフの別の資料もまた、この主張を実証していない[68]。
なお、医学的な死までの時間は明記されていないが、5分以上であったことは間違いない。この引用がルドルフの主張をどのように支持するのか、まだ理解しがたい。別の資料では、このように説明されている:[69]
医学的な観察者が、ボイキンが1分後にまだ生きていると結論づけるかもしれないのに対して、彼は「彫像のように動かない」ということに注目してほしい。刑務所のガス室からの報告がすべて同等であるわけではなく、ルドルフの平均値に近いものもあることを公平に述べておかなければならない。ローソンの死に関する記述は次のようなものである[70]。
[68] ニューヨーク・タイムズ、1994年6月16日、p. A23
[69] ビル・クルーガー、「ガス室での処刑を予定」、ニュース&オブザーバー、ラレー、NC、1994年6月11日、p. A1。ルドルフはこの記事をP.A14として引用しているのだと思う。詳しくは、0.3~1%の濃度に関する文章を参照。
[70] ビル・クルーガー、「ローソン最後の瞬間」、ニュース&オブザーバー, ラレー、NC、1994年6月19日、p. A1
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例えば、トロンブリーは次のように書いている[71]。
トロンブリーは、1976年にカリフォルニア州で行われたアーロン・ミッチェルのガス処刑の際にも、同様の事例があったと報告している。この2つのケースとダッフィーの報告するケースの違いは、濃度の違いであることは大いにあり得ることだ。ニューズウィークからの引用も、彼の主張に一定の信憑性を与えている[72]。
[71] スティーブン・トロンブリー、『死刑の手順』、クラウン出版、NY、1992年、p.13。(興味深いことに、トロンブリーは、フレッド・ロイヒターとのインタビューの中で、この事実を報告している)
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私は、アムネスティ・インターナショナルのホームページで「死刑執行の失敗、ファクトシート」を検索してみた。私はそれを見つけられなかったが、ルドルフの主張を裏付けない関連情報を見つけた[73]。
ルドルフが指定する範囲まで続いた処刑があったという証拠があるにもかかわらず、この数字が平均値であると結論づける根拠はほとんどない。私は彼の出典のうち2つを確認していない。ベッティーナ・フライターク、「処刑人は待ってくれない」、New Yorker Staats-Zeitung、3月13日~3月19日、p. 3、とアムネスティ・インターナショナルの「失敗した処刑」、ファクトシート 1996年12月。また、ルドルフ自身のウェブサイト(vho.org)でホロコースト否定派のコンラッド・グリープへの言及を確認していない。おそらく、このような平均値を出している資料があるのだろう。仮にそうだとしても、この数字を福音的な真実として受け止めるには、さらなる裏付けが必要である。さらに、上記に引用した箇所は、医学的な死よりも先に見かけ上の死が起こることを示している。
[72] 「残酷に殺して」 ニューズウィーク、1994年11月8日、p. 73。なお、ルドルフはこれを誤ってp.75と引用している。75ページには「Putting the High in High Tech」と題したブレインサロンに関する記事が掲載されている。
[73] アムネスティ・インターナショナル、アメリカ合衆国:1996年の死刑制度の動向、AI index: AMR 51/001/1997, https://www.amnesty.org/en/documents/amr51/001/1997/en/
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付録II:ツィクロンBからのHCNの蒸発について
イルムシャーは1942年の論文[74]で、-18°Cまたは-19°Cから15°Cまでの温度における、温度の関数としてのチクロンBからのシアン化水素の蒸発速度の研究を行った。イルムシャーの報告書には、表とグラフのキャプションが段ボールとエルコの間で入れ替わっているという誤りがある。段ボールのグラフには、エルコの数字が描かれており、その逆もまた然り。以前の研究では、ジェイミー・マッカーシーと私[75]は、グラフには正しいラベルがあり、表には誤ったラベルがあるとしたが、その仮定を続けるが、あまり重要でないことは承知してほしい。15℃では、イルムシャーは各支持体について3つのデータポイントを報告している。ルドルフはこのデータを指数関数でフィットさせた。次のグラフは、イルムシャーの両対応のデータと、ルドルフの関数フィットを示している。
翻訳者註:このグラフの元々はこちらのデータを元にすると以下のグラフになります。ルドルフがこのデータ(上記グラフ中の凡例に示された指数関数)をどう利用しているのかは知らないのですが、チクロンBからのシアンガス蒸発率・時間を算出するのに適当な指数関数曲線を近似でフィットさせるのは必ずしもダメだとは思いませんが、そもそも実測ポイントが1時間単位であり、かなり粗めであるように思われます。おそらく、致死に至る10分くらいを計算しようとしていると思うので、この粗さで近似関数としての推計値を結果として出すのは少々乱暴ではないでしょうか。余計なことかもしれませんが、近似関数というのは統計値みたいなものであり、化学的理論値ではありません。もっと細かいことを言えば、実測値は3時間後に100%に「なった」のではなく、3時間後に測ったら100%「だった」ということなのです。グリーン博士も次で若干、同様の注意喚起をしていますが、考察においてルドルフの関数を使用することをそれ自体否定しているわけではありません。
[74] イルムシャー、前掲書
[75] リチャード・J・グリーン、ジェイミー・マッカーシー、前掲書
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ルドルフの関数は、エルコのデータにかなりうまくフィットしている。しかし、最も早いデータポイントは60分であり、ルドルフはより早い時間、例えば10分での予測に彼の関数を使用していることに注意すべきである。この宣誓供述書では、私はルドルフの関数を早い時間帯にも使っている。そうすることで、ルドルフ自身の推論に基づき、彼の主張のほとんどが無効であることを示すことができるからである。
Signed:
RICHARD J GREEN, PHD
Dated:
▲翻訳終了▲
以上で、ルドルフの宣誓供述書に記されたルドルフの科学的見解に関する反論の翻訳は終了です。この宣誓供述書への反論は結果的には、生かされませんでした。何故なら、これは控訴裁判用のものであり、デボラ・E・リプシュタットvsデヴィッド・アーヴィングの裁判は控訴申請が却下されたからです。
今回の翻訳記事の内容も、少々専門的すぎて、ヘンリーの法則という言葉が登場するに至っては面食らいました。一応は理解しておかないと、と思って、こんな動画を見たりして、ずっと昔の授業内容を復習したりしておりました。
復習したからって、翻訳記事を丁寧にわかりやすく解説するほどの成長はできませんでした。
しかしながら、結果的にルドルフは完全に失敗したことだけははっきりわかります。例えば、相手の主張を崩すには、相手の土俵の上で戦わねばなりません。ガス室で大量殺人が行われた、という主張の反論に、ガス室で大量殺人が行われたと主張するならばと仮定した上で、カクカクシカジカの矛盾が生ずる、と主張するのが正当なやり方です。当然、ルドルフら否定派もそれをやっています。ところがルドルフは、チクロンBの投下穴である天井の穴を無かったことにしてしまっています。それは相手の土俵ではありません。だから、フォーリソンが言い出しっぺらしい「No hole, no Holocaust!」という否定派がよく使うフレーズに立ち戻っただけだ、と揶揄でやり返されてしまっています。
ルドルフは、シアンガスで必ずプルシアンブルーを生成するという証明は何もしてないし(現場を見れば明らかであるのに)、にもかかわらず、プルシアンブルーこそがガスが使われた証拠であるといって憚らないし、仮にそうだとしても、プルシアンブルー形成を邪魔する要件が殺人ガス室にはたくさんあるにも関わらず、一切無視するし、クラクフ報告の結果を事実上認めながら、クラクフ報告のような微量検出は認めないなどとあからさまに矛盾することを言ったり、ルドルフの主張はめちゃくちゃとしか言いようがありません。
その点、クラクフ報告やジェラルド・グリーンの説明は、ルドルフの主張に大きく譲歩しています。炭酸ガスのところで、ほんとは2,000人と主張してもいいのに、1,000人と仮定しているところなどがその象徴です。そうして、ルドルフ方向に譲りまくってさえも、ガス室の大量殺人があったとしないと、さまざまな化学的証拠の辻褄が合わないのです。
だから、ルドルフは「クラクフが間違っているのだ、あんなのは詐欺だ!」という他がなくなってしまうのです。彼は、内心の心の奥底では、クラクフ報告を認めざるを得なかったんじゃないかと、私は邪推しています。そして、自分の意識を身内に向けることにしたのではないかと。
それにしても、否定派は墓穴ばっかり掘ってますね。ある意味、歴史的事実とは恐ろしいもので、どんなに頑張って言論レベルで否定しようとしても、真実は絶対に否定し得ないものである、ということを証明してしまっているようにさえ思えます。クラクフ法医学研究所も最初は怖かったんじゃないでしょうか? もし否定的な結論が出てしまったら? と。こうした化学的調査においては往々にして否定的結果にさらされることは珍しいことではありません。医薬品の世界なんかだと、新薬開発ではほとんどが失敗します(一説によれば新薬開発の成功率は二万五千分の一です)。
しかし、きっちりとクラクフは殺人ガス室を証明する方向で結論を出してしまったわけです。私はホロコーストやガス室を疑ったことはありませんが、それでも今回これを翻訳するために、クラクフ報告も一緒に翻訳してみて、やっぱり気持ち的にはホッと胸を撫で下ろすものはありました。解釈にもっと頭を悩ませるものなのかなと思ったら、別に大して解釈いらない素直な理解で十分だったので私のような頭の悪い人間でも助かります。
否定派にだって、化学に精通した人は「筋金入りのホロコースト否定者であり、ネオナチの反ユダヤ主義者であるロバート・フレンツ」のようにいくらでもいると思うのですが、どうしてルドルフのような出鱈目な人が受け入れられる余地があるのか、理解し難いところではありますが、ルドルフは否定論本出版の大元であるキャッスルヒル出版の経営者になってしまっていますので、受け入れざるを得ない面もあるのでしょうね、きっと。
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