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「おなかの子は男の子です」と言われた日、カレー鍋を買った

もともと、子どもは嫌いだった。というか、苦手だった。理解できなかった。可愛い子どもは可愛いし、そうじゃない子はそうじゃない。それ以上でもそれ以下でもなかった。

ちなみに、街中で子どもを見れば目を細めて手を振る自称子ども好き独身女性も胡散臭いと思っていたし、サラリーマンが290円の牛丼を昼食にかっ込んでいるときに旦那さんの稼いだお金で友達とホテルランチに行く専業主婦もどうかと思っていたし、自分が妊娠してからも、マタニティエアロビだのマタニティフォトだのプレママ友とランチだのといそいそしている妊婦も浮かれすぎだろと思っていたし、頭にリボン着けて新生児の写真とか親の自己満足だろとかも思っていた。

そんなこじらせ独身女が縁あって結婚・妊娠し、巷のHappy妊婦さんたちを横目にやさぐれ妊娠初期を乗り切り、ついに我が子の性別が男児だと判明した。

望んで妊娠したにもかかわらず、出産と育児には不安しかなかった。
大きくなる自分のおなかを見ながら、「あと〇か月で出できちゃうんだよなあ、出てきたらもう戻せないんだよなあ」とばかり考えていた。自分に男の子の母親なんてつとまる気がしなかった。まだ女の子だったら気持ちもわかるかもしれなかったけど、男の子なんて未知すぎる。理解不能の二乗だ。

それでも、本能的な幸せな気持ちももちろんあった。
初めてのエコー検査で心臓がチカチカと鼓動しているのを見たときは感動して涙が出たし、ぐにゅぐにゅと動く胎動にも不思議なくすぐったさを感じた。言語化できるほどはっきりとした母になる晴れやかな喜びや、キラキラプレママ的高揚感を感じることはなかったけれど、性別がわかるようになるころには母性による責任と愛情も育まれていたと思う。

そして、子どもの性別男の子と判明した日、家に帰ると、私はAmazonでカレー鍋を買った。

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おなかの子は男の子。男の子といえば、カレーを山盛り食べる!
それしか思いつかなかった私の初めての愛情表現だったのかもしれない、今思うと。

そうして買ったのが、かねてから知人が絶賛していたアサヒ軽金属の「活力鍋」だ。鍋のくせにひとつ2~3万円もした。しかもそれを大サイズ中サイズセットで2つ買った。妊婦ハイとしか言いようがない。
しかしこの活力鍋以降、うちのカレーが激変することになった。いまだに、この15年で買ってよかったもののナンバーワンアイテムだ。

この鍋を買うより以前から、カレーは得意料理だった。
学生時代から料理はする方だったし、社会人になって一人暮らしをしてからは毎日自炊にお弁当作り。そして意中の男性を含んだ友達を「私カレー得意なんだ💛今度うちでカレーパーティしようよ」なんて言って家に呼び、多少ヨコシマなエッセンスが加わったカレーをコトコト煮込んで作ったこともある。

うちのカレーはトマトカレーだ。
市販のルーを使い、スーパーの野菜と肉を使う何の変哲もない材料で作る何の変哲もないカレーだが、今や誰に食べさせても「おいしい!」、「こんなに本格的なカレーが食べられるとは思わなかった」、「Yurikoさんちのカレー、うちの子たち大好きなの」と絶賛される鉄板の逸品だ。
これはひとえに私ではなくこの鍋の力なのだが、レシピとこの鍋の魅力をあわせて紹介しようと思う。

全員が「また食べたい!」と言った、絶品トマトカレーのレシピ

【材料(10~12人分くらい)】

玉ねぎ 5個くらい
にんじん 3本くらい
肉(鶏・豚・牛なんでもいい) かたまり肉で800gくらい

市販のカレールー ひと箱
トマト缶 1/2~1缶

ケチャップ
ウスターソースか中濃ソース
カレーパウダー(なくても全然OK。あれは香りが立つ)
ガラムマサラ(辛いのがお好みの場合)

アサヒ軽金属の活力鍋他の圧力鍋でも大丈夫かもしれません)


カレールーは、辛いもの好きなら「ジャワカレー 辛口」一択。
子ども用で辛くしたくない場合は「S&B おいしさギューッととけ込むカレー 甘口」がおすすめ。
S&B おいしさギューッととけ込むカレー」は牛豚脂が使用されておらずあっさりした風味に仕上がる。ちなみに乳製品も不使用だ。このあっさり感が、圧力をかけたお肉や野菜から出るうまみを邪魔しないのでちょうどよいのだ。
(もちろん、その他のオーガニックや高級路線のカレールーなどでもおいしく作れる)

活力鍋」はハイパワー版の圧力鍋だ。普通のお鍋で2~3時間かかるものが普通の圧力鍋で20分程度でできるが、それを活力鍋なら加熱5分でできる、とのこと。(火を止めた後に圧力を抜く時間がかかるので、調理時間は20~30分はかかる)

ハイパワーすぎてじゃがいもは煮溶けてしまうので、最初から入れない。炭水化物は控えたいのでちょうどいい。
だから材料は、「玉ねぎ・にんじん・肉」の三種類だけというシンプルさだ。

【作り方】

①玉ねぎをくし形切りにする。
②にんじんの皮をむいて、適当な大きさに切る。


野菜は本当に適当な大きさでいい。ほぼ煮溶けてしまうので、大きめでも問題ない。完全に煮溶けさせたいなら小さめに切ればいいし、にんじんなどは形が残っていた方がよければ大きめの乱切りにすればいい。
うちは全員にんじん嫌いなので、カレーの野菜はとろとろに煮溶けさせるたい。だから小さく切りたいのだが、サイコロ状に切るのは面倒なので、細長くカットすればそれでいいんでは?と思い立ち、スティック状にカットすることにしている。

③肉は切らない。かたまりのままでよい。

ハイパワーの圧力がかかって、かたまり肉もあとでかき混ぜるだけでホロホロになる。肉感の食べ応えを残したい場合は加圧時間を減らす。その場合も、肉は加熱後にキッチンバサミで鍋の中でカットすればいい。柔らかくなっているのでハサミでチョキチョキと簡単に切れる。
鶏肉ならムネよりモモの方がいい。

まな板と包丁で肉を切らずに済むので、洗い物も楽だ。

④  ①~③の材料を全部一緒に活力鍋にいれて、水を100㏄くらいいれる

サラダ油もいらない。炒める必要もない。玉ねぎをあめ色になるまで~のあの工程も全く不要だ。高圧をかけることで、野菜のうまみが全部出てくるのだ。

水は入れすぎない。100~150㏄程度で十分だ。それでも、野菜から水分がでるので十分なスープの量になる。
ちなみに、私はこのときワインを入れたりもするが、それで味が激変することもない。水で十分だ。
甘さを強調したければ、リンゴなどを少し入れてもかまわない。

⑤火にかけて、加圧が始まったら5分程度加熱し、火を止める

⑥15分程度待って鍋の圧力が抜けたらふたを開け、トマト缶とカレールー、その他の調味料で味を調整する。

トマト缶は、通常なら1/2缶程度でよいと思う。私はトマトみが強いのがすきなので、1缶入れてしまうが、「カレーらしさ」はトマト少なめの方が出るかもしれない。トマトの酸味が嫌いな人もいるので、その場合は控えめにするか、入れないままでもおいしい。
トマト缶は、トマトピューレに替えても、生のトマトを使っても何でもいい。

トマトの代わりに、すりおろしにんにくを加えて「ガーリックカレー」にするのもアリ。にんにくは最後に入れないと存在感がなくなってしまう。最初から煮込まない。
トマトとにんにくの両方をいれるとちょっとくどいので注意。

ちなみに、肉がなければ肉なしのベジタブルカレーでも信じられないほど濃く深い。圧力によって野菜の甘みとコクがこれでもか、と溶け出すのだ。コンソメは野菜の出汁だが、ああいう感じだ。あっさりヘルシーにいきたければ肉なしも試す価値あり。最後にソーセージやツナ、目玉焼きなんかをトッピングしたら十分だ。
さらに野菜の摂取量を増やしたければ、セロリでもピーマンでも入れてみたらいい。あまり多く入れるとその野菜の風味が表に出すぎるが、少し入れる分にはまろやかに包み込んでくれて野菜嫌いな子どもにでもいろいろな野菜を摂らせることができる。

⑦アツアツのご飯にかけて盛り付ける

これだけだ。

これはチキンカレー。マレーシアで売っている骨付きの鶏もも肉を使うと、骨からの出汁もでてさらに風味深くいい感じになる。


2~3時間煮込む必要も、あめ色玉ねぎを作る必要も、チャツネを入れる必要も、一晩寝かせる必要も、なにもない。
5分の加圧で、野菜と肉とスパイスの全てがハーモナイズされた、こなれたあのカレーの味に仕上がるのだ。


【翌日アレンジ:カレーポットパン】

翌日以降も楽しめるのがカレーの魅力だ。
カレードリア、カレーうどん、チーズカレー、ドライカレー風などなどバリエーションは無限大だが、ここは子どもが大好きで見た目もおしゃれな「カレーポットパン」をおすすめしたい。

材料は、このカレーの残りと、ロールパンなど器として使える形の厚みのあるパン。とろけるチーズもあればなおいい。

セミハードのパンなら、オーブンで仕上げた後にカリっとした仕上がりになり小気味よい触感と食べ応えがいい。食パン一斤を使って大胆に作るのも一興。コンビニやスーパーで買えるパンで作るなら、ふわふわ仕上げの「パスコ 超熟ロール」がおすすめ。

作り方は以下の通りだ。

①パンを器(ポット)として使うので、上部1/4か1/5のところでカットし、パンを「ポット本体」と「ふた」に分ける。

②ポット本体の中身をくりぬき、カレーを入れる。

③とろけるチーズをのせ、ふたとともにオーブントースターで焼く。くりぬいた中身のパンも一緒に焼く。ふたは薄くて焦げやすいので注意する

④ふたをのせてお皿にもりつける。こぼれるのに注意して、かぶりついてめしあがれ。

休日のブランチにも最適だ。
大きなパンで大胆に作れば、ちょっとしたパーティ料理にもなる。

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カレーは家にある材料だけで作れて、人数が多少変動してもOKで、小さな子どもから大人まで、そして外国人も好きなメニューだ。
緑黄色野菜も淡色野菜も摂れて栄養面でもばっちりだし、ちゃんとおなかいっぱいになれる。初めて誰かを招く日の気取らないメニューとしても最適だし、それにカレーなら、なぜだか「おかわり」するのも恥ずかしくない。思春期の女子も遠慮なく可愛く食べられる。糖質制限をしているならご飯なしでルーだけいただいたり、野菜や豆腐にルーをかけて食べるのもいい。
盛り付け次第ではおしゃれにも、キャラを作って可愛らしくもできる。
こんな万能で懐の深い料理がほかにあるだろうか。

ちなみにマレーシアではカレーと言えばインド系のカレーなので、日本のカレールーで作るカレーは「ジャパニーズカレー」というと伝わる。(他の外国では伝わらなかった)
辛くない「ジャパニーズカレー」はマレーシアでも人気メニューで、レストランで食べることもできる。

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おなかの子が男の子だとわかってカレー鍋を買ってから14年が経った。その時の鍋は、まだ現役で活躍中だ。
もちろん、マレーシアにも持ってきて大活躍だ。
ロックダウン中でどこにもいけなかったとき、毎日3食作らなければいけなかった日々、どれだけこの鍋とカレー、カレーアレンジ料理に助けられたことか。

ちなみに、この鍋で毎日の白米も炊いている。これまた、どんな銘柄のお米でも、マレーシアのスーパーで買うお米でも、なんでもコシヒカリのようにもっちりとおいしく炊き上がる。玄米だっておいしく炊ける。

息子は、赤ちゃんから幼児期は本当に食が細くて本当に心配したが、妊婦時代の予測通り、10歳にもなればもりもり食べる男子になっていた。今では母親の私の身長を超え、運動で鍛えた筋肉でがっちりとして、お友達を連れてきてはみんなでカレーをもりもり食べて、そしてゲームをして遊んで、ゲラゲラ笑って楽しそうだ。

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妊娠中期のあのとき、Amazonの箱に入って届いた鍋を開封しながら、「役立つのは10年以上先にことなのにね」とひとり自嘲したが、その10年は本当にあっという間に過ぎ去った。

そして、ひねくれて不安でやさぐれていた妊婦は、子どもの教育のために海外にまでいっちゃうような母になり、よその子を喜んで預かりごはん食べさせてお風呂に入れて宿題みて悩み相談までするような「○○くんママ」になり、道行く赤ちゃんにもれなく目を細めすきあらばあやすような子ども好きなヒトになった。
マタニティフォトや、ハーフバースデーフォトや寝相アートなどの写真を撮らなかったことを少し後悔している。

自分でも想像もしなかったその変わりようの最初の転換点となったこの鍋で、今日も新しいお友達を招いてカレーを作っている。


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