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ジョルジュ・シムノン『メグレとしっぽのない小豚 Maigret et les petits cochons sans queue』(1950)紹介と感想②

ジョルジュ・シメノン著 原 千代海訳『メグレとしっぽのない小豚』早川書房, 1955

収録数が多いので、個別感想は①~③と④~⑨へ分けて記載しています。

↑ 短編集概要&総評と①~③の感想はこちら


ベルカン氏という男 Un certain Monsieur Berquin(1946)

あらすじ
車を運転していたビデュ氏は、前を走っていた車が急カーブを曲がり切れずに横転しているのに行き交った。
車の傍には頭を怪我して放心状態の男が座っており、車の中には足を擦った若い女が居た。
助けた男は、次の日の早朝に黙って家から出て行ってしまったのだった。

紹介と感想
妻の目を盗んで遊ぼうと勇気を出した男の、運に恵まれなかった一夜の事件というところでしょうか。

知らんぷりをせず助けたビデュ氏も、嫌な気持ちになりながらも一晩留めてやる家の人たちも善良で良かったです。

自分が劇中の人物になっている人間は、他人にはそれぞれ日日の仕事があって、それをしなければ困るということを忘れ勝ちになるものだ。

ジョルジュ・シムノン著 原 千代海訳『メグレとしっぽのない小豚』早川書房, 1955, p.143-144

寄港地・ビュエナヴァンチュラ L'Escale du Buenaventure(1946)

あらすじ
ビュエナヴァンチュラの寄港地にあるホテル。従業員のジョー、支配人のペドロ、20年程この地に住んでいるフランス人のラブロ。
この日は、コーヒー豆を積み込むためにフランス船が寄港する日だった。
団体客がホテルへやってきた。そんな一時のスケッチ。

紹介と感想
泊り客など来ない、ガランとしたホテル。人に対して皮肉な態度しか取れない男や、権力を持っていた時には多くの人間を縛り首にしたのに、今はホテルのスロットで運試しをし続ける男の哀しさが描かれていました。

あまりにも一時の情景を切り取った内容すぎて、自分には良さが分かりませんでした。

 フランス人はしゃべっていた。もう一方は、勝負をしていた。ほかの人々、見知らぬ人々、うるさい人々、下船して来て、またすぐ船で発って行く船客たちには、ホテルにそれがありさえすれば、求めに応じて、とにかくホテルは、鄭重にサーヴィスしていた。

ジョルジュ・シムノン著 原 千代海訳『メグレとしっぽのない小豚』早川書房, 1955, p.

街を行く男 L'homme dans la rue(1940)

あらすじ
ウィーン出身の医者が殺された。
メグレは、犯人を捕まえたので現場検証を行うと嘘の情報を新聞に載せる。
現場検証を見に来た人間を部下達に尾行させると、ジャンヴィエが尾行した男の様子に怪しい所があった。
こうして、5日間続く男とメグレの根競べが始まった。

紹介と感想
ある男をメグレが尾行し続けるシンプルな物語ですが、いつ終わるとも思えない街歩きの描写だけで読ませます。
最後は、メグレがある罠をしかけてピリオドを打つことになります。

メグレと男が街中を歩き回る中で、徐々に関係性ができていく空気感が素晴らしく、メグレ全短編の中でもお気に入りの一作です。

ただ、ポケミス版の翻訳では意味が通りづらい所があるため、いまこの話を読むなら『世界の名探偵コレクション10 6 メグレ警視』で読める長島良三訳の方が読みやすいと思います。

映像化作品
ジャン・リシャール主演 メグレ警視 第82話
 「Maigret et l'homme dans la rue」(1988) ※日本未紹介

 奇妙な親近感が追う者と追われる者、髭が伸び、服が皴だらけになって行く者と、片時も追跡の手をゆるめないメグレの間に生じて来た。妙なことさえ起っている。彼等がどちらも風邪をひいた。二人が鼻を赤くしている。まるで拍子でも取るように、二人が、めいめいポケットからハンカチを引き出すのだ。

ジョルジュ・シムノン著 原 千代海訳『メグレとしっぽのない小豚』早川書房, 1955, p.171

愚かな取引 Vente à la Bougie(1939)

あらすじ
ポン・デュ・グロオにある人里離れた宿で起きた殺人事件。
当時、宿では競売が行われることになっており、亭主のフレッドと妻のテレーズ、女中のジュリア、常連客のニコラス爺さん以外に、土地を競売に出すグルー、競売参加者のボルシャンとカニュ、税関吏のジャンティユが居た。
しかし、ボルシャンが殺され、彼の金が無くなってしまったのだ。
ナントの移動警察隊を指揮していたメグレが捜査を行い、3日間に亘り事件当時の状況を関係者に再現させ続ける。

紹介と感想
メグレは、容疑者達を緊張状態に居続けさせることで、少しずつ本音を聞き出し、その連鎖によって真実を見つけていきます。
短いページ数なのでドラマとしては弱いですが、殺人は様々な状況から連鎖してしまうものだということが描かれていました。

映像化作品
ブリュノ・クレメール主演 メグレ警視
 第17話 「ローソク売り」(1995)

三日このかた、彼はこの連中に息もつかせなかった。刻々に同じ科、同じ言葉を何回となく繰り返させた。そうしていると、忘れていた細かいことが、不意にはっきりして来るという希望もあったが、彼等の神経を痛めつけて、犯人を追い詰めるのが、また何よりの目当てだった。

ジョルジュ・シムノン著 原 千代海訳『メグレとしっぽのない小豚』早川書房, 1955, p.

フォンシーヌの喪 Le deuil de Fonsine(1945)

あらすじ
フェルナンドとフォンシーヌの姉妹は、同じ家を分割して住んでいながら、18年の長きに渡り諍いを続けていた。
今日もまた、フォンシーヌが蓋付鍋(又はソース鍋)を敷地を隔てる2m10cmの壁を越えてフェルナンドの頭へ投げ怪我をさせたとの裁判が行われていた。
憎しみと憎悪のみで続いている二人の関係は、どうなっていくのだろうか。

紹介と感想
村中の人間も楽しんでしまっている、あまりにも醜い二人の争い。
しかし、それこそが二人の生きる気力だったのだと言うことが描かれている物語でした。

だけど、それが生きがいだったとしても、はた迷惑であり、他の楽しみに気づけなく哀れでもありました。

映像化作品
ブリュノ・クレメール主演 メグレ警視
 第30話「野菜畑事件」(1999) 

二人は絶対に口をきき合わなかった。二人は互に認めなかった。二人は一日に幾度となく行き合ったが、どちらも、まるで先方が透明な人間かなんぞのように、相手をじろじろ見つめ合った。

ジョルジュ・シムノン著 原 千代海訳『メグレとしっぽのない小豚』早川書房, 1955, p.208

四号夫人とその子供たち Madame Quatre et ses enfants(1945)

あらすじ
12月、サーブル=ドロンヌの下宿旅館<ノートル・ダーム>の4号室に部屋を借りている夫人は、宿中の注目の的だった。
今日も、子どもが言う事を聞かないからと宥めすかし、最後は手を振り上げた。
誰もが彼女と近づきになろうとはしないが、目が離せなかった。
ある日、彼女に手紙が届く。

紹介と感想
特徴的な格好をし、子どもに対しても巧く接することができない夫人。誰もが、各々で想像を尽くしていた夫人は、実は多大なるストレスを抱えていたという物語でした。

映像化作品
ブリュノ・クレメール主演 メグレ警視
 第29話「マダム・キャトルと子供たち」(1999) 


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