【#25】家庭で活きる料理的サバイバル能力

無人島へ漂着したとき、いかにして生きながらえるか。あわよくば作物まで育ててしまいサスティナブルな生活ができるのが究極だ。僕は食べてOKなキノコや虫を見分ける知識もデリカシーの無い強靭な胃腸も持ち合わせていないが、石から包丁を削り出すことはできそうだ。売るほど時間はあるのだから、生きてさえいれば両刃の牛刀は研ぎ出せると思う。

それよりうんとハードルを下げればバーベキューで火を一発で起こせたりビクトリノックスやダッチオーブンをヒラヒラと使いこなせれば一目置かれるだろう。アウトドアに不釣合いな超高級ワインを持ち込むよりも、だ。これは車の運転とちょっと似ているが、首都高の環状C1を4分で走り抜けるよりタイヤチェーンを10分で装着できるほうが評価に値する。

ではもっとハードルを下げたとき。つまり料理の知識が活きる我が家でのサバイバル力を考えたい。

実は小麦粉とバターと牛乳があればホワイトソースが作れるという事実は、知らない人には衝撃だ。たった一回でも経験しておけばよいのである。冷蔵庫にマトモな食材が無くても、あとは塩と麺があればパスタになるのだ。

またトマトジュースを煮詰めてやればトマトソースになることもあまり知られていない。煮詰めるってことは水分を飛ばし濃度を上げることに他ならない。スーパーで常温で売られている大きめのペットボトルのアレだ。あれを煮詰めて塩を足しゃ、いっちょ上がりだ。

また厳密なこと言ってられないのがサバイバルだとして多少乱暴なことを許してもらえれば、小麦粉に関してはこうだ。
薄力粉と強力粉を50:50で混ぜる。水と塩を少し入れて練ってちょっと寝かして「マルチ球」を作る。これを丸く広げればピザだ。さらに細長く刻めばうどんだ。小玉を作ればだんご汁。手のひらサイズの薄い皮を量産すれば餃子だ。焼いても茹でても美味いのだ。「マルチ球」を作る際に卵を割り入れればパスタだ。冷蔵庫に何も無いって状況でも小麦粉はあったりするだろうから、案外マシなものが作れる可能性が広がる。

あ、そうそう。ハムだって作れる。鶏肉を叩いて伸ばしてそれを棒状にまとめる。糸で縛ってぬるめのお湯で茹でれば鶏ハムだ。
おっと鶏ハムに関してはちょっと厳密さが必要。鶏の菌であるカンピロバクターにアタれば、他のどの食アタリより強烈で生命が危ない。中心温度65℃を1時間。これが僕の最低限のルール。
※詳しくは調べてください諸説あり

豚肉も塩をたっぷりまぶして釣っておけばパンチェッタだし、いろいろと知っていると身を助けるキッチン・サバイブ力が身につくのである。

既成品の「○○のもと」は企業努力の賜物で美味しい。回鍋肉の元なんて激烈に美味い。勝てない。けれどそれは、ときに切ない。最後の一箇所だけ塗れば完成の塗り絵みたいなものだ。助かるけど、身につかない。

さあ奥さん。明日トマトジュースを煮詰めてみませんか。シャバシャバからちょっとトロっとしたらOK。そこに茹で立てのパスタとバターと粉チーズをドバっと入れて和えればいい。最後にバジルをのせるくらいの気品もお忘れなく。

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