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『星を編む』凪良ゆう 感想(これも長いです)

86 賢いか愚かしいで断じるなら、彼女の決断は、ぼくの決断は、これ以上なく愚かしいのだろう。けれど彼女は、ぼくは、そうしたかったのだ。自分を生きたかったのだ。他の誰でもない、この世にただひとりの自分として。

282 血は水よりも濃く、つなげていくことの意味も大きい。その一方で、わたしたちのこの連帯をなんと呼べばいいのだろう。ぼんやりと、ゆるやかに、けれど確実につながっているわたしたちの「これ」を。よく言われるのは「疑似家族」だろう。けれどわたしたち自身のものを「疑似」と名づける、どんな権利が他人にあるのだろうか。

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感想📕
読み終わりたくなかったなあ。
ずっとこの物語の世界に浸っていたかった。
前作にも増して、美しくて、切なくて、それでいてとてもあたたかい世界だった。

本屋大賞『汝、星のごとく』続編。
『春に翔ぶ』・『星を編む』・『波を渡る』の3つの短編からなる。

3つどれもめちゃくちゃによかったけど、特に最初の『春に翔ぶ』がいちばんすきだった。
自分の年齢が、その時の北原先生に近いからかもしれない。
登場人物みんな好きだけど、北原先生がダントツに好きかも。
淡々としていて、かつ自分の軸を持ってて、でも実は内面に不和とかモヤモヤとか葛藤を抱えてて、ただ守るべきものをきちんと守る人。
すごく清濁を持ち合わせた人だなって思う。北原先生のような大人になりたい。

読むタイミング、また年齢によって、感情移入するポイントも違ってきそうなので一生大切にしたい物語。

『汝、星のごとく』も『星を編む』も、どちらからも共通するメッセージがあって、それは「他人の目を気にせず、自らをいきろ」というもの。
物語のなかでは、いろんな愛の形、いろんな家族の形、いろんな人生の歩みかたが語られる。
ぼくらはどうしても、まわりの目や世間体を気にしてしまいがちだけど、この物語に、「気にせず生きよう」と背中を押してもらっているような気がする。
なかなか難しいけど、北原先生のように強くは生きられないけど、みんなもっと自分本位で生きてみていいのかも。

あといつか必ず、今治の「おんまく」の花火大会を見に行きたい!!瀬戸内の空気感じたい!!

また『汝、星のごとく』も読み返そうと思います。みなさまもぜひ2冊セットで
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↓印象に残ったところ↓

10 大半の奨学金はもらえるわけではなく、返済しなくてはいけない。若者が学ぶために借金をしなくてはいけないこの国に疑問を抱いたが、周りにもそういう学生は少なからずいた。そして、そんな苦労をしなくてもいい学生はもっといた。二種類の学生は生活の根本が違っていた。

37 明日見さんが淡く染まる頬に手を当てる。ぼくの頬も同じ色に染まっているのだろうか。それは少し恥ずかしい。けれどこんなに解放された気分になるのは久しぶりだった。いろいろなものをあきらめて、飲み込んで、もう心の底から高揚することなどないと思っていた。けれど自分の中にまだ、こんな瑞々しい感情が残っていることに驚いている。

76 言葉を詰まらせ、目を血走らせ、ぼくに拳を振るう父親を見て、この人も心底娘を愛しているのだとわかった。安堵する一方、愛情とはなんて不完全なものだろうという理不尽さが湧き上がる。
娘を守るために娘から人生の選択肢を奪おうとする父親、
敦くんを守ったその手で子供の父親という権利を剥奪した明日見さん、
娘を案じながらも夫との板挟みに右往左往するしかない母親、
土壇場で明日見さんよりも人目を気にした敦くん。
そして他を優先して一番近しい他である息子を後回しにし続けたぼくの両親と、
親への愛情という言い訳で、思いのまま歩めない人生の責任を親に転嫁したぼく。
これらは特殊なケースか。いいや、ちがう。誰もが誰かを想い、悪気なく身勝手で、なにかが決定的にすれちがってしまう。このどうしようもない構図はなんだろう。これもまた愛の形だと言うのなら、どう愛そうと完璧になれないのなら、もうみな開き直って好きに生きればいいのだ。そうして犯した失敗なら納得できるだろう。

104 ぼくはずっと後悔し続けている。あの事件のとき、できることがもっとあったんじゃないだろうか、炎上を恐れる上層部に対してもっとうまく立ち回って、なんとか連載打ち切りだけは阻止できたんじゃないだろうか、打ち切りになったとしても、もう一度あのふたりが作品を描けるよう強く働きかけることはできたんじゃないだろうか。
中略
あれから、ぼくは変わった。それまで作家と二人三脚でいい作品を作ることにしか興味がなかったけれど、出世を意識するようになった。なにかあったとき、作家と作品を守りきる力がほしい。もう二度と、櫂くんと尚人くんのときのような後悔はしたくない。

188 物語は不思議だ。内容は同じなのに、自分の気分や状況によって胸に残る場面や台詞が変わる。中略
物語は「今の自分」を映す鏡のようであり、言葉という細い細い糸を手繰って、今も櫂と手を繋いでいるように感じさせてくれる。

219 暁海 母親は高校を卒業して今治の食品会社に3年ほど勤めたあと、友人の紹介で知り合った父親と結婚して家庭に入った。離婚で経済的基盤と精神的支柱を失い、立ち直るにも時間がかかり、数十年ぶりの外でのお勤めに苦労していたけれど、この数年でようやく本来の自分を取り戻した。経済的に自立できたことが大きな自信になったのだろう。既婚、独身、男女の別にかかわらず仕事の重要性を思い知る。

228 ずっと覚えていることと、忘れられないことはどうちがうのだろう。櫂のことを想っているのか、自分のことを考えているのか、それとも過ぎ去った時間そのものを慈しんでいるのか、すべてが渾然一体となり、もはや恋とは言えないものになっている気がする。

238 ふたりで笑って、もう一度グラスを合わせた。人生は凪の海ではなく、結婚は永遠に愛される保証でも権利でもなく、家族という器は頑丈ではなく、ちょっとしたことでヒビが入り、大事に扱っているつもりが、いつの間にか形が歪んでいることもある。

250 波音と砂を踏む音を聞きながら、ぼくは幼いころの彼女を思い出していた。初めて笑いかけてくれた日のこと。初めて見た「おんまく」の花火に手を叩いてはしゃいでいたこと。ランドセルに背負われているような入学式、美しかった結婚式。どれほど大人になっても、結婚しても、海を渡っても、子供を産んでも。ぼくの中で彼女は永遠に守るべき愛しい娘だ。

262 失って、二度とは取り戻せないからこそ夢は眩しく光る。

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