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【悪癖再び】第20節 松本山雅戦【雑】

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実は同点に追いつかれてから、78分以降の試合は見直していない。この試合は「けっこう良かった64分まで」と「とっても悪かった70~78分」と「ノーガードで殴り合った78分以降」の3つに分類されて、78分以降はもうどちらに点が入ってもおかしくない展開になったため、あまり深堀りする必要性を感じられなかった。むしろ重要なのはなぜけっこう良かった状況が一変して同点に追いつかれたのか、なぜ新潟戦・金沢戦の教訓が活かされなかったのか、そのプロセスだと思う。

そのため今回のタイトルは【雑感】ですらなく【雑】に格下げとなった。なんだ雑って。

スタメン

①スタメン

長崎は前節から2人変更、カイオと氣田がスタメン入りした。シーズンの真ん中に差し掛かるあたりで、何となくベストメンバーが固まってきた感がある。山形戦で負傷交代した富樫が約1か月ぶりとなるメンバー入りを果たした。畑への負担が増える一方だったので富樫の復帰は大きなトピックスとなった。

松本は前節から3人変更して高木と米原、久保田がスタメン入り。ここまで4ゴールの阪野はベンチスタートとなった。1年でのJ1復帰を目指す松本はここまで19位と苦しいシーズンになっている。8年指揮を取った反町監督が退任、新しく就任した布監督の元新しい戦術に取り組み、選手も大きく入れ替わっており難しいシーズンとなっている。どうにも上手くいかない、産みの苦しみという意味で去年の長崎と少し被る部分がある。

理想的な展開で2点リード

②長崎のボール保持

5バックの可能性もあった松本だが、長崎戦では前節までと同じく4-4-2を選択。2トップはジャエルとセルジーニョという人選で、長崎にとってはこの上なく取り組みやすい布陣を選んでくれたという印象だった。というのも対4-4-2兵器であるところの3-1-4-2可変システムを実装している長崎にとって、前線の規制が緩い4-4-2ブロックほど崩しやすい物はないからだ。

長崎にとって一番嫌な展開は厳しいプレスで前から圧力を掛けられてアンカーにパスを通せないパターン、もしくは5-4-1でスペースを消されてマンマーク気味に対応されるパターン。徳島・山形にやられたのが前者、甲府にやられたのが後者だった。松本のジャエル・セルジーニョの2トップは押し込んだ時の圧力こそ抜群だが守備的な連動は難しく、布監督は試合中「背中で(カイオを)消せ」と指示を出していたようだ。予習の足りなかった松本を尻目に、長崎はカイオを起点に松本を押し込んでいく。中央を起点にされると松本守備陣は意識と目線を中央に向けざるを得なくなり、長崎としては大きく開いたサイドのスペースを亀川・毎熊が使い、広げた相手のライン間を玉田・澤田・氣田が使ってボールを引き出したり…後出しじゃんけん状態で試合を優位に進めた。

前半3分にあっさり畑が先制点を挙げ、後半64分にはルアンのスーパーゴールで追加点を挙げて2点のリードを奪った。途中でボールを引っかけて危ない場面を何度か作ったが決定機を迎えるまでには至らなかった。3-1-4-2を機能させるのに大きな役割を果たした玉田が前半38分に負傷交代したことを除けば理想的な展開となった。

繰り返された悪癖

アウェイで2点差、まさに新潟戦と同じ展開になりあの時の反省を活かすにはこの上ないシチュエーションを迎えた長崎。この2点差を活かして上手くゲームをコントロールできるか?と思った矢先、右サイドバック鈴木のクロスにジャエルが合わせて決定機を迎える。66分のシーンは徳重のセーブで事なきを得たが不穏な空気、手倉森監督は3点目を取って止めを刺すという判断を下した。ここまで攻撃を牽引してきた氣田を下げてイバルボを投入した。結果的にはこれが采配ミス(とあえて言い切りたい)となり同点の呼び水となった。

③失点1

後半71分の飲水タイムに松本は中美と常田を投入。中美は常に澤田がプレスに来る背後のスペースを利用してボールを受け、松本に流れを呼び込んだ。1失点目はその典型的な形で、米原に対して澤田がプレス、背後のスペースで中美が受けて反転、角田が阪野に振り切られてあっさり失点した。陣形を大きく崩されたわけではないが、最短距離の縦パスを3本繋がれた。セルジーニョがボールを持った時、ボランチのアウグストは富樫が背中で消していたわけで、イバルボが米原に着いていれば何の問題もないシーンだったが…澤田が引っ張り出されたスペースの背後を中美に使われ、起点にされた。

④失点2

不用意な失点から2分後の78分。松本は右サイドで獲得したフリーキックをセルジーニョがゴール前に入れるがイバルボがクリア。クリアボールは左サイドの(たぶん)高木に流れ、ここに秋野が詰める。この時なぜかルアン・富樫・イバルボの3人は前線に戻っていく。高木にアーリークロスを入れられた時、自陣付近はなぜか6対6の数的同数になった。高木のクロスは流れたが中美が回収、フォローに来た鈴木にパス。富樫が大慌てで戻ってきたが時すでに遅し、クロスの名手がペナルティエリアの角からクロスを上げたのであればもう相手が外してくれるのを祈るしかないが、生憎な事に合わせたのは阪野。普通に決められて同点に追いつかれた。角田や徳重を責めるには少し厳しい失点だった。

3点目を取りに行くという意識付けが強すぎたのか、単に統制がとれていないだけなのか。失点した直後、セットプレーが得意な松本、CB乾がまだ前線に残っている、過去に2度もリードを活かせずアウェイで勝点を落としている…必要なのは「追加点」ではなく「守りきる」という意識だった。

試合が振出しに戻ってからの約20分はまさに殴り合い、オープンな展開から互いにシュートを打ちまくったが好守もありスコアは動かず、同点のまま試合終了。長崎はまたしてもアウェイで追いつかれて勝点を失い、ゲームコントロールの未熟さを露呈した。

もはや諸刃の剣ではなく逆刃刀と化したイバルボ

これまで当ブログではイバルボの事を「諸刃の剣」と評してきた。つまり「前線に立ってるだけで絶大な圧力を与える」けど「守備を頑張れないから穴になる」という意味だが、実はイバルボが直接得点に絡んだのは6節岡山戦のアシストが最後。新潟戦でオウンゴールを誘発こそしたが、J2再開直後に見られたイバルボ無双は姿を消している。

松本戦は終盤にかけてドリブル突破やキープで存在感こそ出したが、守備で穴を作り失点の呼び水になった以上「存在感を出した」程度では割に合わない。相手からするとイバルボは出てきたら嫌だけど逆に突破口になるという認識だろう。4-4-2ブロックは5-4-1に比べて後ろの人数が少ないわけで、2トップで相手の選択肢を削らなければ後ろの8人で守るのは難しい。誰かがサボればその分誰かが穴を埋める必要があり、穴を埋めればその分どこかが空いてしまうのが4-4-2ブロック(ゾーンディフェンス)という守り方だ。

この試合で、もしイバルボが決勝点に絡むような結果を出していれば手のひらをかえして評価しただろう。しかし現実には相手にダメージを与えられず、自らに致命傷を与えてしまった。諸刃の剣ならぬ、逆刃刀である(古い)

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「安心せい…峰打ちじゃ…」では困るのである。もうずっと課題になっているイバルボの起用方法、出すだけで無双できる時期はとうに過ぎてしまった。

勝点2を失ったのは3点目を取れなかったせいではない

相手に追い付かれて同点にされたチームは古今東西「追加点を取れなかったせいで…」となりがちだが、問題の本質はそこではない。そもそもロースコアゲーム(得点が入りにくい)という性質を持ったサッカーという競技においては「追加点を奪えなかった事」よりも「失点をした事」にフォーカスしなければならない。ここまで20試合を消化して長崎が3得点したのは群馬戦と水戸戦の2試合だけ、1試合で3点以上入るのは10%以下の珍事なのだ。ましてアウェイで2点リードという恵まれたシチュエーションにおいて何より大事なのはリスクマネジメントであり、相手に取り入る隙を与えず粛々と試合を終わらせることなのだ。

この試合で最も解せなかったのは2点リードした6分後の後半70分に、それまで効いていた氣田を下げてイバルボを投入した手倉森監督の采配だ。百歩譲って「町田戦を睨んで」「体力的に」という理由で氣田を下げるとしても、代わりに入るべきは守備を頑張れる米田をそのまま右サイドハーフに入れるべきだった。イバルボ投入は「3点目を狙いに行く」という明確なメッセージだったが、同時に相手に付け入る隙を与えたことで失点の一因となり、結果的に同点に追いつかれる結果を招いた。せめてイバルボを投入するなら松本の2手目(中美投入)を見てからでもよかったし、後半80分過ぎの終盤にセットプレーの守備要員を兼ねるとか5-4-1のワントップに据えてロングカウンター要因にするとか、明確な目的があればここまでチームが浮つくこともなかっただろう。新潟戦、金沢戦を一番引きずっているのは、意外と手倉森監督なのかもしれない。

松本に構えられた状況の中で幸先よく先制点を取れて、2-0になったところまでのゲームプランや流れは良かったかなと思います。さらに3-0にできそうなところもあったができずに失点して、その勢いに乗った松本に同点に追いつかれてしまった。その辺りは反省しつつ、最低限の勝点1を取れたことは選手たちを称えたいと思う。ただしアウェイとはいえ勝点3を取りにいった試合だったので、次の試合では、この悔しさを晴らさないといけない。
(手倉森監督)

おわりに

新潟戦、金沢戦で拾い損ねた勝点4の教訓が活きるかと思いきや、松本戦でも悪癖を繰り返して失った勝点は6になった。拾い損ねた勝点がそのまま北九州との差になっていることを考えれば、この3分けが軽くない事が分かる。

いい加減、この辺りで学びを得なければ長崎は昇格戦線からズルズルと後退することになる。直近5試合中4試合がアウェイという厳しい日程ではあるが、8月末に大宮に勝利してからは勝ち星に見放されている。見放されているというか、やや自業自得な部分もある。この苦戦により町田戦の後のホーム福岡戦・徳島戦が連続6ポインター、落とせないプレッシャーが掛かる山場になってしまった。

ネガティブだけの試合ではなかった。構造的なジレンマに陥っていた徳重が足元のパスを繋ぎだしたという大きな変化があり、アシストを記録した氣田がいよいよ真価を発揮しだしたり、久々の出場だった富樫がやっぱり良かったり、ルアンのゴールがワールドクラスだったり…確実に改善している部分も見られた。残している大きな課題、ゲームコントロールという部分は一朝一夕の付け焼刃で何とかなる類の問題ではない。まずは町田戦で何か変化があるか、注目していきたい。

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