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採用に100万円以上必要な介護福祉士。仕事が減るフリーター医師。

私は診療所に勤務しているが、訳あって定期的に経営会議たるものに参加している。
複数の病院の経営陣が集まり、各自の経営状況について報告し意見を交わす会議だ。
先日その中で、病院が看護師や介護福祉士の採用に苦労していることが話題になった。
医療・介護業界では、足りないスタッフを探すのに紹介業者を利用せざるを得ない状況だ。
そんな中、最近は紹介業者を利用しても介護福祉士が集められなくなっているという。
介護福祉士はケアワーカーとも呼ばれ、月給に見合わない労働で最近なり手が減っていることは周知の事実。
医療・介護現場はいよいよ人手不足に直面し、介護福祉士の紹介手数料が爆上がりしているのだ。
その額一人あたり120万。
介護福祉士の給料は20~30万円台。国は2024年度の介護報酬改定で介護福祉士の給料アップにつながる算定をつけたが、焼け石に水だ。
病院が支払った莫大な紹介料は、紹介業者の懐に入る。
病院の上層部が口々に、紹介業者の値段設定が高いと憤慨していた。

…いやいや。
そんなに介護福祉士を雇いたいのなら、自分たちが彼らの給料を上げなさいよ。
彼らは待遇の良い高級有料老人ホーム等でのびのび働いている。
彼らのケアは、医療や介護を行っていくうえで必要不可欠なもの。
そこをケチってどうする。
どちらかというと、現場に出ずふんぞり返っている高給取りの医者の方がいらないんじゃないか。
口に出しては言わないが、心の中でそうつぶやいている。

そうは言いつつ、紹介業者が暴利を貪っているのも問題だと思う。
病院や介護施設は、国の審議会が決めた診療報酬や介護報酬の範囲でしか収入を得られず、大半は経営が厳しい。
職員を確保するために頑張って払った大金は職員の懐に入らずに、医療介護とは全く関係のない企業へ入っていく。
国が医療費として確保したお金が、病院等を介して人材派遣会社へ流れているのだ。

医師もだけど、人は給料の高いところに集まる。
結果的に医師や看護師は美容外科などの自由診療へ、介護福祉士は有料老人ホームへ集まる。
いっそのこと、営利を目的としない公的機関で介護福祉士の紹介業務をできないものか。
もちろん、彼ら全員の給料底上げが大前提だ。
本当に必要とされる職場で適正な給料がもらえるようになれば、今の人材の偏在は減るのではないか。

話が変わるが、最近医師の世界では「バイト」が減っている。
「バイト」とは、「健診」や「ワクチン接種」など特殊なスキルを必要としない業務で、時給1万円程度がもらえるやつだ。
医師の中には病院や診療所に就職せず、技術や知識を身につける努力をせず、時給の良いバイトだけで生計を立てるいわゆる「フリーター医師」が一定数存在する。
(ドラマ「ドクターX」の大門未知子のような、特殊なスキルを持つ「フリーランス医師」とは異なる)
その日によって職場を変え、お金を稼ぐことに特化した働き方と一時期はもてはやされたが、今そのバイトが減り、取り合いとなっているという。
フリーター医師は、もう必要ないということだ。
医師も働き方を工夫しないと、これからは淘汰される時代となる。

皮肉だが、今医療・介護現場に真に必要とされているのは金儲け主義の医師ではなく介護福祉士や看護師だ。
医療・介護の現場で働く介護福祉士無しに、医療・介護は成り立たない。
彼らの待遇が改善しない限り、状況は悪化の一途をたどる。
いずれ、ヒトの介護を受けられるのはお金のある一握りの富裕層のみになるのかな。
ヒトが提供する介護は「贅沢品」となり、お金を払えない大半が介護を受けられないままこの世を去る日がくるんだろうか。
それとも、ロボットに介護される時代が来るのかな。

帰宅を急ぐ人で賑わう新宿駅。30年後はどうなっているんだろう。

医師は医師会という組織を持ち、自分達が損失を被る状況ではいち早く声を上げ、自分の身を守る術を持っている。
身内ながら「えげつない」と思うこともある。
介護福祉士も、自分たちのために声を上げるべきだ。
病院や自宅で療養する人たちのために自分たちが必要なことを。
自分たちのモチベーションを維持できる十分な給与が必要なことを。

患者は、医師が施す治療以上にケアするスタッフの声掛けや優しさ、温かい手に癒されている。
経済や効率を優先した結果、隅に追いやられてしまった「人のケア」。
「人と人が触れ合う温かさ」が見直される時代が来るといいなと思っている。