マガジンのカバー画像

印欧語根表メモ

56
英語語源辞典の語根表から辿った派生語のメモ
運営しているクリエイター

記事一覧

*ḱorkeh₂ [sugar/jaggery/शक्कर]

*ḱorkeh₂ [sugar/jaggery/शक्कर]

以前に塩の語源について触れたので、今回は「砂糖」について。

英語の sugar は フランス語・イタリア語・アラビア語・ペルシャ語を介してサンスクリットに遡る。

sugar
← sugre (ME)
← sucre (Middle French)
← çucre (Old French)
← zucchero (Old Italian)
←. سُكَّر sukkar (Arabic)
←.

もっとみる
ǵʰelh₃- [yellow/gold/हरा]

ǵʰelh₃- [yellow/gold/हरा]

色の名前の続き。緑色と黄色

green の語源は印欧語根は「生い茂る」ことに関する語根 *gʰreh₁-/*ghrē- に遡る。この語根からは grow, grass, graze と、新芽や青草に関連する語がつながっている。

green
← grene (ME)
← grēne (OE) “green, raw”
← *grōnī (Proto-West Germanic) “green”

もっとみる
*h₁eyH- [ice/यख़/یخ]

*h₁eyH- [ice/यख़/یخ]

暑い日が続くとアイスクリームやかき氷が食べたくなる。以前に ラテン語で「白」を意味する語について比較したときに、印欧語根 *sneygʷʰ- [snow/nivea/नेहा] について触れた。では、ice の語源はどんな語根で、どんな別の単語とつながっているのだろう。子どもが つらら の本を読んでいたので気になって調べてみた。

ice
← is (ME)
← īs (OE)
← *īs (Pr

もっとみる
*gher- [grey/grison]

*gher- [grey/grison]

色の名前の続き。灰色

全ての色の名前に共通して言えることだが、現代のように原色の鉛筆や絵の具、また番号による色指定によって、色合いを細かく再現できるようになっても、ある名前が指す色の範囲の境界線はとてもあいまいだ。そして色の名前は別のモノの名前を借りて言うことが少なくない。今回考える「灰色」も、物を燃やした後に残る「灰」という具体的なものの名前を借りているが、灰も燃やすものによって生じる色合いに

もっとみる
*gʰes- [guest/host/घसति]

*gʰes- [guest/host/घसति]

友人を訪ねたり、招いたりすることが多くなるこの時期、host と guest と言う語が気になった。この2語は同語源というのは前からどこかで見た気がしていたが、反義語が同語源から出ているのはどう言う訳かちゃんと調べていなかった。

おおまかに言うと、hostと言う語は、”guest-master” と言う感じの語の g が h になり、前半だけが残ってできたもののようだが、印欧祖語の段階で ho

もっとみる
kʷŕ̥mis [worm/crimson/कृमिज]

kʷŕ̥mis [worm/crimson/कृमिज]

地名が品名になったものについて その②

その①では、Paisley、Cashmere、Shawlについて触れたが、今回もインド発の繊維関係語彙について。

Calico キャラコ
日本でキャラコというと純白の木綿地のことを主に指すかもしれない。ヨーロッパで calico はキャラコ生地だけのことを指していたのに対し、アメリカでは染色した生地のことを指すようになる。そこから、プリント柄のような三毛

もっとみる
*bʰleh₃- [bloom/flower/फूल]

*bʰleh₃- [bloom/flower/फूल]

インド・ヨーロッパ祖語(PIE)やインド・イラン祖語(PII)やインド・アーリヤ祖語(PIA)には文献がないため、具体的にどんな音だったのか検証することはできない。とは言え気になる。諸説あるが再建された音のリストがある。正確に全部を網羅しているわけではないとは思うが、どんな音素配列だったのか自分なりに想像してみるため、サンスクリットの音の表にならって配列してみた。

ケントゥムとサテムの比較で、印

もっとみる
*h₁rewdʰ- [red/लोहा/लहू]

*h₁rewdʰ- [red/लोहा/लहू]

色の名前は大きな変遷があり、同じ語根でも違う色を指すという不思議がある。英語とヒンディー語の両方から色名を遡ってみて、同じ語根に行き当たるかやってみたいと思った。

Colour
まずは「色」という言葉から。

colour
← colur アングロ=ノルマン語
← color ラテン語
← *kelōs イタリック祖語
← *ḱel- 印欧語根

印欧語根の *ḱel- (“to hid

もっとみる
*kʷyeh₁- [while/quiet/शादी]

*kʷyeh₁- [while/quiet/शादी]

以前に way の語源である 語根 *weǵʰ- “to bring, to transport” に注目した。その時、विवाह (vivāha, "marriage") の Skt語根√वह् (vah) が *weǵʰ- から来ている、つまり「花嫁を家から連れてゆく」ことが विवाह (vivāha, "marriage") であることに触れた。

"wedding" にあたるヒンディー語

もっとみる
*ǵʰh₂éns [goose/anser/हंस]

*ǵʰh₂éns [goose/anser/हंस]

ケントゥムとサテムの比較で、今回は *ǵʰ *gʰ *gʷʰ に注目する。

硬口蓋音 *ǵʰ
この印欧語根にあたるのが 英語 goose。再建されている印欧祖語は *ǵʰh₂éns だ。*gh はゲルマン語に入ると *g に、イタリック等では *h になる。イタリック祖語では *hāns だったようだが、ラテン語では ānser。スペイン語では ganso と ánsar の二つがあるが、gan

もっとみる
*gerh₂- [crane/crow/grouse/गरज]

*gerh₂- [crane/crow/grouse/गरज]

ケントゥムとサテムの比較で、前回は *ḱ *k *kʷ を見たので、今回は *ǵ *g *gʷ に注目する。サテムで *ḱ は /s/ サンスクリットで /ʃ, tʃ/ になってしまうが、*ǵ では /z, dʒ/になるのだろうか。

硬口蓋音 *ǵ
語根 *ǵenh₁-/*gen- (to produce, to give birth) を取り上げてみる。*gen-に繋がる英語は kin, ki

もっとみる
*kʷel- [wheel/colony/चक्कर]

*kʷel- [wheel/colony/चक्कर]

ケントゥムとサテムの比較で、印欧祖語の硬口蓋音の [*ḱ]が ケントゥムで k(h) 、サテムで s (ʃ) になる様子を見た。今回は 軟口蓋音の [*k] と 両唇軟口蓋音の [*kʷ]。

英語(ゲルマン語経由)・英語(ラテン語経由)・サンスクリット・ヒンディー語のすべてで単語が出そろっている例がなかなか見つからなかったので、あまり普段真っ先に例に挙がらないような単語を挙げるしかない。

軟口

もっとみる
*sneygʷʰ- [snow/nivea/नेहा]

*sneygʷʰ- [snow/nivea/नेहा]

印欧祖語の *ḱweytós につながるラテン語が見当たらない。しかし「白」を表す語はあったはず。「白」色はラテン語でなんと言ったのか。

candidus
眩しく輝く白。印欧語根 *(s)kand-/*kand- は ラテン語 candēla (英 candle), candidātus (英 candidate) とつながる。同じ語根のゲルマン語経由で英語の kindle、また、サンスクリット

もっとみる
*ḱel- [hell/cell/shawl]

*ḱel- [hell/cell/shawl]

品名と地名
~lacolacoさんのノート記事からのインスピレーション~

品名が地名になるものもあれば、地名が品名になるものもある。たくさんあると思うが、地中海つながりのものをピックアップしてみる。

Bible
← ラテン語 biblia (“books”)
← ギリシャ語 βιβλία (biblía, “books”) 複数形
← 単数形 βιβλίον (biblíon, “sma

もっとみる