#48. “静”と“踊”どちらが“楽”な“時間”? *kʷyeh₁- [while/quiet/शादी]
以前に way の語源である 語根 *weǵʰ- “to bring, to transport” に注目した。その時、विवाह (vivāha, "marriage") の Skt語根√वह् (vah) が *weǵʰ- から来ている、つまり「花嫁を家から連れてゆく」ことが विवाह (vivāha, "marriage") であることに触れた。
"wedding" にあたるヒンディー語にはもう一つよく使う語がある。それは शादी (śādī [シャーディー])。この語は、ペルシャ語経由で شاد (šâd [シャード]) "happy, joyful" という形容詞の名詞形だ。サテム語のインド・イラン語で /ʃ/ と来れば、印欧祖語では *k や *kʷ ではないか?つまり、英語では h- や qu- になっている語彙が何かないかと予想する。するとあった。印欧語根 *kʷyeh₁-/*kʷeiə- (“peace, rest”) だ。*kʷyeh₁- → *kʷyeh₁-to-s → *čyaHtas → šiyāta- → šād と変遷。
この *kʷyeh₁-/*kʷeiə- は、ラテン語 quiēs を経由して、英語の quiet, tranquil などにつながる。*kʷyeh₁- の rest の時間的な部分が取り出されると、ゲルマン語系では period of time, period of rest と言う意味を経由し、現代英語の while につながる。
インドの शादी wedding は "quiet" と程遠いが、joyful occasionであり、躍りまくって、"楽しむ"という意味とのつながりには納得。शादी (shādī) はそんなイメージだが、一方、サンスクリットの विवाह (vivāha) と聞くと伝統的な儀式やしきたりで集まっている人たちの姿を想像させ、お堅い響きがある。サンスクリット起源だから堅い語に聞こえるというだけでなく、育てて来た家族にとっては”別れ”というところに焦点を当てた語彙なのだから、言葉の雰囲気もそうなるのかなという気がした。
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