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#55. “グレー”とは具体的に何のことか *gher- [grey/grison]

色の名前の続き。灰色

全ての色の名前に共通して言えることだが、現代のように原色の鉛筆や絵の具、また番号による色指定によって、色合いを細かく再現できるようになっても、ある名前が指す色の範囲の境界線はとてもあいまいだ。そして色の名前は別のモノの名前を借りて言うことが少なくない。今回考える「灰色」も、物を燃やした後に残る「灰」という具体的なものの名前を借りているが、灰も燃やすものによって生じる色合いに差がある。英語の black は「輝く・燃える」の語根 *bʰleg-/*bʰel-から来ていて、燃やした後に残るものを見ても「灰」ではなく「炭」の色に注目しているという違いが面白い。

インド語派で「灰色」は何と言うのか。英語でも shaded というように、明度を下げて暗くなると灰色に近づくので、影に関する語も交えて、色合いの捉え方に応じて実にいろいろな言い方があるが、おそらく一番ピュアに白と黒の間の灰色を指す言葉は धूसर (dhūsar) かもしれない。これは、埃 धूल (dhūl) や 煙 धुआँ (dhuā̃) また、英語の dust にも通じる 語根 *dʰewh₂ につながる単語だ。それと似たように、英語でも灰色を指すのに、ash, slate, silver といった具体的な物体の名前を使って表現できる。では、grey はもともと何を指していたのだろう。今回は調べる資料によって違いが出いた。

Etymonline
grey
← græg (OE) “grey”
← *grewa- (Proto-Germanic)  
← ゲルマン語の外部には関連なし

Wiktionary
grey
← grey (ME)
← grǣġ (OE) “grey”
← *grēwaz (Proto-Germanic)  “grey”
← *ǵʰreh₁- (PIE) “to grow”

KDEE
grey
← grǣġ (OE) “grey”
← ȝrēwaz (Proto-Germanic)
← *gher- (PIE) "to shine"


Wiktionaryでは*ǵʰreh₁- と結びつけられていたが、 この結び付けは highly speculative 憶測の域を出ないとのこと。*ǵʰreh₁- (PIE) “to grow” が 語根なのであれば、grow, green, grass と同語源ということになるが、grow old の grey-head は逆のイメージのような気もする。まあ、blank, bleach と black は真逆にあるようだが、同じ「輝く・燃える」の語根 *bʰleg-/*bʰel-から来ているので、全くないとも言えない。

*gher- を印欧語根として挙げているKDEEの説明では「アナグマ」や灰色の毛の動物に関わることが述べられていた。日本語でも「ねずみ色」という表現があることを思い出した。ゲルマン語の *grēwazは、動物や人間の毛の色を指していたのだろうか。毛には光沢があるので "to shine" と関わりがあるという説明も納得できる。年長者の白髪交じりの頭を grey-headed と、敬意を込めて呼ぶことがあるのにも確かに通じる気がする。

ゲルマン祖語の *grēwaz が フランク語に入って 古フランス語で gris (“grey”) となり、そこから灰白色のイタチに似た動物 grison や 灰色の鳥 grisette や 鮭の grilse や 灰色の濃淡だけで描く画法 grisaille が命名されているようだ。それら gris- と付くものを見てみると、焼けたあとのくすんだ灰ではなく、少し光を反射したグレイのような気もする。確かに grey の語根は *gher- "to shine" というのはその通りかもしれないと思った。

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