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「推しを推す」とは。

こんにちは。

本は手に取って買いたい派、もっかです。

久しぶりに小説を買ったら自分的にすごく「当たり!」な一冊でしたのでご紹介。

『推し、燃ゆ』 著:宇佐見りん 出版:河出書房新社

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※この本に関するネタバレも含みますので、これから読もうと思っている方はご注意ください。


誰かを「推す」現代社会

まず、この本のあらすじを載せておきます。

逃避でも逃避でも依存でもない、推しは私の背骨だ。アイドル上野真幸を“解釈“することに心血を注ぐあかり。ある日突然、推しが炎上し——。デビュー作『かか』は第56回文藝賞及び第33回三島賞を受賞(三島賞は史上最年少受賞)。21歳、圧巻の第二作。(河出書房新社HPより引用)

「推し」という言葉は、数年前からよく使われるようになった言葉だと思います。気に入ったアイドルや俳優を応援する、つまりファンということ。CDを買ったり、ライブに行ったり、出演しているドラマや映画を見たり、そういった好きな芸能人への応援ですね。

ファンによっては、推しの握手券や投票券(人気投票で1位になると新曲のセンターになれる等)のためにCDを100枚単位で買ったり、ライブや舞台を「全通(すべての公演に参加すること)」したりします。

純粋に応援したい気持ちはもちろんのこと、推しにお金を落とすことで、自分がどれだけ応援しているかを「どれくらいお金をかけたか」という具体的な形で認識してもらう、もしくはイベントにたくさん参加することで、推しに自分を「いつも来てくれている人だ」と認識してもらおうとするファンも増えているんです。

これは私も2年ほど前までとある若手俳優を推していた経験があるのですごくわかります。舞台出演が決まれば速攻でチケットを確保し、写真集やカレンダーの発売イベントでは、購入した冊数によって特典(1冊なら握手、2冊なら握手+生写真、3冊なら本人とツーショット撮影できる 等)が異なるので、推しとツーショットできる冊数を購入、その他推しがでるイベントがあれば都内のどこだか分らん会場を地図とにらめっこしながら追っかける等々…。

でもそんな私の推し方なんてかわいいもので、周りのファンはもっとすごいです。有休フル稼働で舞台全通、カレンダー発売イベントでは推しと話したい、認識されたいがために2冊券、3冊券、とちょこちょこ変えながら何週もして、50冊を超えるカレンダーを自力で持ち帰れないので郵送したり…すさまじいパワーを感じました。

この『推し、燃ゆ』という小説でも、主人公のあかりは上野真幸という8歳年上の男性タレント(といっても子役出身なのでキャリアは長い)を推しています。作中でも「推しはあたしの背骨だ」と書いているように、あかりにとっては彼を推すことが生きがいと言っていいくらい、推しが中心の生活を送っています。

まさかの切り口

ところがこの本の主題はそこではない。驚きました。

あかりがぶち当たっている最大の壁。推しを推すことで自分を保っている理由。

それは、この本の序盤から語られます。「ふたつほど診断名がついた」(原文より引用)という診断名。

これは、おそらく「発達障害」なのではないかと思います。

頻繁に忘れ物をしてしまったり、家事やアルバイトの段取りが覚えられない。メモを取っても後でメモを見る事を忘れてしまう。一方で、推しにまつわること=興味のあることなら過集中といっていいほどのめり込む。発達障害で見られることの多い症状です。漢字や英文法が覚えられないことや、興味のあることにばかりに目が行ってしまうところから、学習障害(LD)やアスペルガー症候群の傾向も疑われますが、作中ではあかりの診断名は明確にされないままです。

わたしもつい先週に発達障害の検査を受けたばかりですし(前回の記事参照)、発達障害に関しては何冊か本も読んだところだったので、この小説を読んで個人的に「なんてタイムリーな…!」と心中驚いていました。

↑前回の記事のリンクです。


推しを推すとき、あたしというすべてを懸けてのめり込むとき、一方的ではあるけれどあたしはいつになく満ち足りている。(原文より引用)

家族や学校からなかなか理解を得られず、バイトでも要領よく動けない。イレギュラーに対応できない。そんなあかりが、推しの真幸くんのためなら没頭できる。ニコニコしているだけのアイドルより、どこか陰のある推しを解釈し応援し続けることで自分を保っている。自分に自信が持てる。

そんな存在であった推しが人を殴って炎上して、1年後には芸能界引退宣言をする。

殴った理由、引退の理由をあかりなりに解釈してほしい部分もありましたが、所々に語られる真幸くんの言動を見ていると、個人的に思うのです。

真幸くんも、発達障害を抱えているのではないかと。

炎上してもあまり謝罪している雰囲気を出そうとしない。時折にらみつけるような鋭い眼光を見せる真幸くんも、幼少期から周りとなじめない違和感を感じながら生きてきたように見えるのです。本当にこれはあくまで私の真幸くんへの印象・解釈ですが…。

同じように世間の社会性の中にうまく溶け込めないもの同士、何かしら彼を幸せにする方法はないか。そんな思いもあってあかりは彼を推し始めたのではないでしょうか。

「推し方」のちがい

あかりは「一方的」と言っていましたが、彼女の推し方は一方的ではないように思えます。

なぜなら、彼女は推しに認識されようとしていないから。そして、彼女なりに推しの言動を見ながら、推しの気持ちを考えようとしているからです。

またしても私の話で恐縮ですが、私の若手俳優さんへの推し方は一方的なものでした。相手の気持ちより、自分の「好き」を伝えることに夢中でした。ファンレターも自分の彼氏ができたとかそんな相手にとってはどうでもいい報告を書き連ねたり、バレンタインも相手にアレルギーがあることを知らず食べ物を送ってしまったり…。相手からすれば、純粋に「応援したい」という気持ちは伝わってこなかったでしょう。

好きな人を推す、ということに関して似たような主題の小説があります。

『りさ子のガチ恋・俳優沼』 著:松澤くれは 出版:集英社文庫

『推し、燃ゆ』と似ている点は、主人公が推しを推すことを支えに生きていること。現実の社会の中ではうまく生きられていないないこと。

異なる点は、常に主人公視点の『推し、燃ゆ』に対し、『りさ子のガチ恋~』では主人公(ファン)の視点と、推されている俳優側の視点に分けて描かれていくところ。また、後者ではいかに推しに自分が認識されているかを重要視しています。

あかりが望んでいるのは推しに認識されることではなく、推しを理解すること。自分と少し似ている(ような気がしている)推しを理解することで、現実社会でうまく生きられない自分のことを少しでも理解できる、自分を好きになって生きていける。そう思って、あかりは真幸くんを応援し続けていたのではないでしょうか。

この作品を読んで改めて思ったこと

私は、今現在「推し」がいます。

それは、氷室京介さんです。

1983年にバンド・BOOWYとしてデビューし、人気絶頂の中1988年に解散。その後はソロアーティストとして『ANGEL』『KISS ME』など様々なヒット曲を世に送り出し、2016年に耳の不調のため無期限活動休止。

私が氷室さんを知ったのは2020年。引退してだいぶ経ってからですね。氷室さんの話はおいおい記事で掘り下げて書いていこうと思いますが、還暦を超え、現在は活動休止中のロック・ミュージシャンが現在の私の推しなわけです。

氷室さんの音楽をあかりばりに毎日移動中に聞き、休日はライブDVDを見てひとり家で盛り上がり(もちろん近所迷惑にならない程度に!)、氷室さんが特集された書籍を読んで彼の生き様に惚れ惚れし、ファンクラブにも入会し…と、引退してしまったアーティストながら、自分なりにガッツリ推しています。

以前若手俳優を推していた時と違うのは、「推しの生き様や推しの作り出した作品を、自分が成長する糧としたい」ということです。

受け身じゃない。イベントに行ったり、お金を落として満足するんじゃない。彼の音楽を聴いて実際に自分が動いて、自分自身を成長させたい!

どうせ魂注いで応援するなら、自分の生き方にガツンとパンチ食らわして這い上がっていかねば!

この小説を読んで、改めて思いました。

推しだって人です。何が起こるかわからない。休止、引退、結婚、死…突然失われてしまうこともある。

でもそこで自分の人生までプツンと途切れさせてはいけない。

『推し、燃ゆ』のラストはおそらく読む人によって解釈が違ってきそうですが、私は推しを失ったあかりが這いつくばりながらも何とか自分らしい生き方を見出していくのではないかと感じました。

私がこのnoteを始めたのも、そういうことです。

私も自分らしさを何らかの形で表現できないか、発信できないか?

好きな音楽、アニメ、映画、舞台、本、数えきれないくらいの作品に触れた後に氷室さんという推しができて、そう考えるようになりました。

今回の小説も、内容に共感するとともに、こうして感想や考察を文章にできたことで改めて自分を奮い立たせる勇気をもらえた素敵な作品だと思っています。

もちろん、推し方や推しに対する感情は人それぞれ。推しに認識してもらう、たくさんお金を落として応援することも楽しみ方の一つです。どんな推し方が正しいなんてことはないと思います。

私の場合は、私なりに楽しく推しながら推しを自分の人生の糧にしていきたいです。

長くなってしまいましたが、読んで頂きありがとうございました。皆さんにとっての「推し」はどんな存在でしょうか?また次の記事でも目を通していただけたら嬉しいです。







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