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ブダペスト1 ドナウ川に向け希望の花火を

今から20年ほど前の2000年頃、私の中でブダペストはどこかかつての社会主義の名残のあるような、ちょっと危ない香りが感じられるイメージの町だった。ウィーンから列車でブダペストへ向かい、国境の駅に到着すると、入国管理官がパスポートをチェックしに車内を回る。それと同時に、なんだかおどろおどろしい雰囲気の国境警察の人も車内を回っていた。そして、列車が出発すると、車内放送はドイツ語からハンガリー語に変わる。緊張感に襲われる一瞬だった。

ヨーロッパといえば、勝手に華やかな明るいイメージを抱いていたが、ウィーンから東の町へ行くと、どこか西欧とは違う雰囲気に包まれていると感じた。しかし実際は、当時でもすでに、町の中心地は観光客で賑わっており、恐ろしい雰囲気は微塵もなかったのだが。まだ若かりし当時、無骨な大柄の男の人が制服に身を包み、全く解せない言語をしゃべって数人でウロウロしていたというだけで、恐ろしさを感じていたのだろう。ハンガリーもEUに加盟ししてからは、列車の中でのあのパスポートコントロールも無くなっている。そんな風に始めは少しダークなイメージを持って降り立ったブダペストだが、今では素晴らしい景観を紹介すべく記事を書くに至っている。

ブダペストの話をするにあたり、やはり私はドナウ川の話から始めたい。

ブダペストの町は、その名前の通りドナウ川を挟んでブダ側とペスト側に分かれている。ヨーロッパの町や国は、シンボルとなるような川が流れているところが多い。ロンドンならテムズ川、パリならセーヌ川、プラハはモルダウ川。ドイツを流れているライン川。そして、ドイツから始まりオーストリア、スロバキア、ハンガリー、セルビア、ルーマニアを通り、黒海まで流れている長い川がこのドナウ川である。このドナウ川沿いの町を舞台にして書かれた、宮本輝さんの『ドナウの旅人』は上下巻になっており、つい夢中になって読んでしまう。この小説にももちろんブダペストは登場している。

川を挟んでいるブダとペストを最初に繋いだのが、有名なくさり橋。10年もの長い時間をかけ、1849年に完成した。この橋の設計には、ロンドンのテムズ川にかかるロンドン橋を設計した設計士と建築家が携わったそうだ。この橋で忘れてはならないのが、たもとにたたずむライオン像である。これもロンドンのトラファルガー広場のライオンと関係があるのか、と思いきや、どうやら似ているというだけで関係はなさそうだ。ブダ側、ペスト側それぞれ左右両方にライオンが座っているともなれば、よほど立派な橋だと印象付けるに十分であろう。

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ブダペストの景観を楽しむには、ドナウ川クルーズがおすすめだ。私はウィーンに住んでいた頃何度もブダペストを訪れているが、仕事で一人で行った時も、日本から母が遊びに来てくれた時も、夫と行った時も、このドナウ川クルーズを楽しんだ。ブダペストのクルーズは、短い距離に見所が集中しているため、1時間のパノラミッククルーズで、十分景色を堪能できる。しかも、日本語のオーディオガイドとシャンパンやワインなどフリードリンクが付いているところがまた嬉しい。日が暮れ始めた頃に乗船し、終わる頃には辺りが暗くなり、ライトアップを楽しむという時間帯が格別だ。

DSC00045クルーズ乗り場

150席ほどを収容するオープンエアの船は、ペスト側の桟橋から出発する。まずはブダ側の景観を楽しもう。ブダ側は小高い丘になっており、王宮が見渡せる。王宮はブダ城とも呼ばれているようだが、私は王宮という方がしっくりくる。

DSC00047クルーズ内

それからもう少し先に進むと、今度はさらにもっと高いゲッレールトの丘が見える。この丘の頂上はツィタデラと呼ばれる要塞となっており、シュロの葉を高く掲げた女性の像が立っている。

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クルーズ船からもこの像を小さいながらも見ることができる。

DSC00050ゲレルート丘

ちなみに、このゲッレールトの丘からの眺めもまた素晴らしく、ドナウ川を挟んだブダとペストの景観は圧巻だ。

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船が折り返し地点に到達すると、今来たルートを戻り、今度は反対側へと進む。くさり橋の下を通過すると、是が非でも写真に収めておきたいスポットが見えてくる。ペスト側の岸辺に建つ荘厳な建物、国会議事堂。

DSC00065国会議事堂

中央のドームから左右対称に広がる尖塔が美しいネオゴシック様式。この国会議事堂の一番美しい姿を拝むことができるのは、やはりクルーズ船上からしかないであろう。

さて、クルーズ船はゆっくり進み、ドナウ川にある中洲の島、マルギット島の前でまた折り返す。いよいよクルーズはクライマックスへと差し掛かる。辺りはすっかり暗くなり、ライトアップされた幻想的な国会議事堂の姿が現れる。そして、くさり橋もまた温かみのある色で輝き、背後には王宮が映し出される。うわー、きれい、思わず誰もが声をあげてしまうだろう。この瞬間を待っていましたとばかりにシャッターを切る。

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シャンパンのおかげで良い感じの酔いもまわり、最高の気分でクルーズは終了する。

さて、この最高のショットに収まっている王宮。ここでミュージックビデオの撮影が行われた歌がある。2010年にリリースされたケイティ・ペリーのファイヤーワーク(Firework / Katy Perry)。

ファイヤーワークとは、花火のこと。ミュージックビデオを見ていると、歌っているケイティペリーの胸から花火が噴き出し、そのうち気弱な男性や入院している男の子からも花火が出る。この歌は、心の導火線に火をつけて、花火を打ち上げよう、自信を持って一歩を踏み出して、夢や希望を叶えよう、ということを歌っているのだ。

マジャール人の血を引くイシュトヴァーン1世が10世紀にハンガリー国王となった後、オスマントルコ、そしてオーストリアハプスブルクに支配される。戦後は社会主義のソ連の配下にあったハンガリーも、1989年オーストリアとの国境を解放し、民主化の道を歩むこととなった。そんな激動の歴史を歩んできたハンガリーの国民の叫びが聞こえるようなブダペストの王宮という場所を、このファイヤーワークのミュージックビデオの舞台に選んだのも納得できる。

Cause baby you're a firework
Como on, show'em what you're worth
Make'em go, Ah-ah-ah
As you shoot across the sky

だってあなたは花火なんだから
さあみんなに見せて、あなたの素晴らしさを
みんなを叫ばせて Ah ah ahと
空一面に自分を解き放って


サビの部分がいつまでの心の中で繰り返される。

つづく


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