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【配給会社ムヴィオラの映画1本語り】『春江水暖〜しゅんこうすいだん』⑫パンフレット完成間近。目から血が出そうな公開前。

あっという間に1月が終わってしまった。みなさん、映画館には行っていますか?東京は緊急事態宣言延長。「喋らないで映画を見ていればコロナリスクは低い」と言われても、「とにかくステイホーム!」の大号令で、私の周りの映画館はどこも「いやー大変で…」ととても辛そう。でも、邦画は『花恋』(というらしいですね)も『ヤクザと家族』も盛況だと聞く。コロナのせいで、外出を控える層と外出を控えない層、どの層に届く映画かで集客に大きな差が出てしまうという「映画格差」が如実になってきた。

いつもなら分の悪い映画を応援するため映画館に足繁く通うのだが、この2週間ほどは全く行けない。忙しすぎる。『春江水暖〜しゅんこうすいだん』の公開は来週2/11からで、公開前はパンフレット作りや宣伝の追い込みで忙しいのだが、次に公開する映画、その次に公開する映画も今が前半の仕事のピークで重なって、物凄い量の仕事に追われ続け、この2週間はPCに向かうこと1日約13時間。目から血がでそう。時々、息をするのを忘れている。トイレに行くのは確実に忘れている。20年も仕事をしているのに、なぜもっと効率よく時間をかけずにできないのだろうと情けない気持ちになる。

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*これは1月に作ったコメントフライヤーの表面

でも。でもやはり、自分がやりたいと思った映画のための仕事だから、諦めたくもないし、手も抜きたくもないし、大変でもそこには楽しいことがかなりある。『春江水暖』のパンフレットを入稿した時など「やったー!!」と両手を上げてガッツポーズでした。

思い起こせば90年代。パンフレットは映画の楽しみに欠かせないものだった。川勝正幸さんが作るパンフレットは内容の濃さだけでなく形やデザインも斬新でワクワクした。『ジュ・テーム・モワ・ノン・プリュ』、『スローガン』、『マルホランド・ドライヴ』、『パンズ・ラビリンス』、『ギター弾きの恋』、『テルミン』などを大事に持っている人も多いにに違いない。

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*川勝さんが作ったパンフレットの数々

「映画パンフレット」は、多くの人が知っているように、日本独自の発明品。海外では1本の映画の公開のためにパンフレットを作ると言う習慣はないので、パンフレットを見て驚く海外の監督も多い。映画の写真を公開の前宣伝以外に使って何かを作るのは、許可をとるのが相当難しいのだが、パンフレットはある意味日本の伝統なので、権利元との契約書には「スーベニア(souvenir)」と書かれたりして、制作が許可されている。

ただそんなパンフレットも「デジタル化・印刷物離れ」の時代の流れを受けて販売数は激減。売れないものに手も予算もかけられないのは世の理なので、映画によっては内容が悲しいほどに薄いものもあれば、パンフレット自体がないものさえある。

私はパンフレットが好きだ。その映画について調べることも好きで、「この映画って、この監督ってこうなんですよ」と見た人に言いたい。さすがに売り上げが期待できないから予算のかかる豪華なものは作れないが、内容は濃ーーーーく作りたい。『春江水暖〜しゅんこうすいだん』のパンフレットも、「コロナ禍でお客さんも少ないわよ」と言う外野の声も聞かず、随分と気合を入れて作ってしまった。通常、海外版プレスを転用することが多い監督インタビューも、日本独自のインタビューで杭州にいるグー・シャオガン監督とうっかり4時間も話をしてしまったものだから(それでもまだ聞けなかった事がいろいろ!)9ページもある。この映画は中国の暮らしを知るとさらに理解が深まるのでキーワードのページも作った。映画の中心にいる顧(グー)一族の家系図も作った。

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*春江水暖〜しゅんこうすいだんパンフレットから目次ページ

そして今回は、以前は東大で教えてらして、今は南京大学でも教えてらっしゃる中国文学者の藤井省三先生に「中国」と言う視点から解説を書いてもらった。その解説は魯迅の「故郷」から始まるのだが、それぞれの登場人物の名前や方言のことなど、さすがに素晴らしく、これまで10回以上この映画を見た私もこの解説を読んでまた見返したくなった。映画評は「暗黒批評」でメキメキ活躍の場を広げている後藤護さんに初めて原稿を頼んだ(こう言う時こそ映画評も「攻め」!)。これがまた見事に当たって、とても刺激的で、「円環」「循環」「桃源郷」。。。。読みながら興奮を覚え、また映画を見返したくなった。

そんなわけで目から血が出そうになりながら(?)パンフレットを作ったわけだが、完成には何をおいてもパンフレットをデザインしてくれたrestafilmsの成瀬慧さんに感謝なのである。原稿が遅れがちにもかかわらず、かっこいいデザインでビシッと間に合わせてくれる。きっと成瀬さんも息をするのを忘れたり、トイレに行くのを忘れたりしているに違いない。

*これまで作ったパンフレットの一部、販売してます!

2021年2月6日 ムヴィオラ 武井みゆき

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