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〈インタビュー〉『三度目の、正直』野原位監督&川村りらさん②

演じることの深い話を聞くことの出来た前回から、今回はお2人が脚本を書く上でのお話に踏み込んでいきます!

前回のインタビュー記事はこちら↓


インタビュアーである私たちの緊張もほぐれてきたロングインタビューのパート2、スタートです!


「若者が暗い世界の中で希望を見出すようなラストにしなきゃ」


おく:若者の邪魔をしない、わかり合おうという欲を捨て去り、寄り添うことについてはやはり、映画の中に“若者枠”として登場する蘭や生人が、蘭はカナダに行きそのまま就職すると言ったり、生人もある種の解放へと向かうというのは、若い人の邪魔をできるだけしたくないという想いが強く反映されているのでしょうか。


野原さん:そういう気持ちはありました。最初は現在とは違うラストだったのですが、編集する内にだんだんと若者がこういった暗い世界の中で希望を見出すようなラストにしなきゃなと考えるようになり、ある種の若者へ希望を残すような形で映画を終えることにしました。

川村さん:想像しきれないですけど今の20代の子たちというのは本当に希望とか持ててるのかなと疑問に思うんですよ。

私が20代の頃は、就職氷河期ど真ん中で絶望はあったんですけど、またそれとは違う、漠然とずっと暗いみたいなのがきっとあるような気がしていて。責任も感じるし、どうしていったら若い子たちが言いたいこと言って、したいことができる世の中になるんだろうっていうことばかり考えますね。

その一助になるんだったら映画を作り続ける意味はあると思うんですけど、そうじゃなかったら逆に若者の邪魔をするだけなので…


野原さん:この映画の中でも若者が苦しい状況にいることを表現したいという思いはあったので、ヤングケアラーのような要素が入っていたりもしますが、苦しみの先にやっぱり希望は示したいというところはありました。さらには大人たち、30代後半から40代くらいの方たちにとっても、自分に正直になることで、そこからまた新しい人生が進んでいくことがあるのではと考えていましたね。


まっぴい:映画って、自分の経験していないいろんな人の過ごしてきたことが反映されやすいメディアだとも思うので、新しい視点を得ることができるという意味で映画は私にとってすごく助けになるものだと感じています。


川村さん:複雑なことっていうのは、複雑なままちゃんと受け取った方が良いとは思うんですよ。そういうものなんだって形で、簡単に言葉にせずに。その方が自分に対しても他者に対しても寛容になれるから、生きやすさに繋がると思う。映画でも本でも、漫画でも、いろんな人がいるんだよって教えてくれるもののように思います。


野原さん:小規模でも商業映画として作品を作ろうとすると、「分かりにくいと売れないのでは」といったような圧を感じて、みんなどこかで見たことがあるような感情を描いていくような気がしています。安心できるものがあるからそういう方向に行きがちなことは理解できるんですけど、今回『三度目の、正直』に関して言うと、プロデューサーの高田聡さんが、本当に自由に作らせてくれたし、作品のテーマなどに口を出す方ではなかったので、普通の商業映画では描かれない作品を作れたんじゃないかなと思います。



”神戸”の街・人が持つ魅力

まっぴい:神戸のロケーションについてもいろいろと伺いたいのですが、神戸っていろんな要素が含まれて出来た街だと思っていて、日本的なところもあれば旧居留地とか中華街もあるし、海も山もあれば、この作品で高速道路の下が印象的だったように人工物もたくさんあって。ロケーションとつなげて物語を考えたりはしましたか?


野原さん:神戸に住んで、神戸の地形にも少し詳しくなってきているので、場所を想像しながら書くところはありました


川村さん:そこまで意識していたかは分かりませんが、住んでいる分、感覚的に書くことが出来たというのはあると思います。


まっぴい:神戸じゃないと成り立たない物語に結果的になったんですかね。


野原さん:神戸じゃないとできなかったですし、神戸じゃない場所で描こうとすると、もっと人のキャラクターも変わってきたでしょうね


川村さん:物語にもう少し依存したかもしれないです。素直に自分の中から世界を見ながら書けただろうかと言われたら、やっぱりそこで暮らしてたというのは大きいのかなと。

おく:神戸で撮った映画でありながら、映される場所が神戸神戸してなかった印象です。馴染みがあるからこそキャラクターたちが溶け込めている部分はあったかなと感じました。


野原さん:実際に生活している中で歩いた道であったり乗った電車であったり、そういったところから発想は来ていまして、これは神戸のどこなんだろうみたいな場所で撮影していくのは楽しかったです。

神戸って海と山があって、そこの傾斜にぎゅっと街が構成されていて、都市もあるけれどすぐ近くに自然もあるという。最初に東京から引っ越してきた時にすごい映画的な街だな、画になるなと感じました。東京でこの物語を撮ったらまた違う印象になってたと思います。そして、標準語だったらまた全然違ったでしょうし。

神戸に住んだからこそ感じる人柄というか、同じ関西でも京都や大阪だったら物語の質が変わる可能性があるんですけど、神戸のある意味サバサバした、さっぱりした感じと言いますか。りらさんがよく言うのは「女性の声が低い」という…


川村さん:声のトーンですね。上げ下げをそんなにしない女性が多い印象で、私はそれがすごく好きなんです。あと母娘が仲いい方も多い気がします。


まっぴい:そうですね。林さん(元町映画館・現支配人)も神戸に住んで観察してみて母と娘が仲いいって指摘されてました。実際私も母と仲が良いですし。


野原さん:そして神戸の男性は非常に優しいですね。そういう県民性とまでは言わなくても、何かがあるからこういった淡々とした物語でも神戸なら成り立ちそうな気がしました。これが大阪で里親の話などを書こうとすると、なんとなくもう少し人間関係が濃くなるような気がします。

今回は、神戸だったからこそ書けたものだったんじゃないかなとは思いますね。新開地とかもう少し西側の方にも面白い場所がまだまだありますので、そこでもいつか撮ってみたいですね。

まっぴい:その街だから描ける人間性や人間関係があって、物語が成り立っているんですね。


野原さん:『ハッピーアワー』の時は撮影場所としては神戸だけでなく、大阪や京都もありました。『三度目の、正直』は、ほとんど神戸で撮影したので、『ハッピーアワー』よりもそういう部分は多いかもしれないですね。神戸は本当に良いところなので!


まっぴい:自分の街の映画が出来て嬉しかったです。


川村さん:神戸はいろんな意味ですごくフラットに受け入れてくれる場所なので、今後まだ観たことがないような切り取られ方をしている神戸の映画を観てみたいなとも思います。


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③へ続く


映画『三度目の、正直』は、神戸・元町映画館での上映を終え、大阪シネ・ヌーヴォでは上映中、4月8日(金)より出町座にて公開です!
ぜひ劇場でご覧ください!!

公式HPはこちら↓

執筆:おく、まっぴぃ(映画チア部神戸本部)

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