見出し画像

22 一度はダマされてみる

 前回は、スキルでも知識でも学ぼうとすれば従わされる可能性がある事について書きました。現状では社会や学びのシステムがそうなってしまっている以上従わされるのは必然です。それでは何も学べないではないか!と考えてしまうかもしれませんが、そうとも限らないというのが今回のテーマです。

 ではどうするかと言いますと、これはタイトルの通りです。「騙されてみる」という事に尽きます。相手が先生でも学校でも会社でもグルでも宣教師でも詐欺師でも、何でも構いません。騙されてみるのです。そして、にっちもさっちも行かなくなる前に引き返してくれば良いだけの事です。

 私がある国にいた時、大学を卒業して一人で卒業旅行をしているという人に出会いました。その彼はそれまで日本で大学に通っていて海外には一度も出た事が無いのでした。パスポートを取って、親にお金を出してもらってチケットだけ買って何も知らずにポンっと出てきたそうです。出る前に少しでも調べてくれば良かったのですが、そういうアイデアは無かったようです。勇気があります。

 それで、たまたま私と会って彼は私に基本的な事をいろいろ聞きました。まあ、こういうのはガイドブックでもちょっと読んできてくれればわかるのだけれどなあ、と思いつつ、もう出てきてしまったのだから仕方ないなと考えて聞かれた事はできるだけ丁寧に教えました。その中で、この場所でどんな危険があるかと聞かれた時に当時流行っていたイカサマ賭博詐欺を教えておきました。

 当時、この詐欺は頻発していて、今の日本で言えば振り込め詐欺のようなものでした。手口も口上も全く同じ詐欺なのに、警告されていても引っかかって帰国する観光客が後を絶ちませんでした。その事も言って、その彼は分かったと言ってホテルに帰りました。さて、次の日です。その彼がまた私のところにやってきて言いました。「こちらで日本のキャッシュカードでお金を下ろせるATMはありませんか?それともクレジットカードのキャッシングでも良いのですが」私は理由を聞きました。まさか、あれではないよなあ。昨日ちゃんと言っておいたのだから。彼は言いました。実はこうこうこういう人たちに会って、家に一緒に行ってトランプで大儲けしていたのだけれど、一度大負けしてしまったからこれからATMを探してお金を下ろして持っていかないといけないのです。きっともう一回やれば勝てるはずだから。

 私は胸を撫で下ろしました。見事に引っかかってしまったようだけれど、財布に持っているお金を取られただけで済んだからです。本人はそう思っていないわけですが。そこで私はもう一度同じ事を言いました。詐欺の手口をです。彼はようやく説得に応じて現金が無くなったのを諦め、キャッシュカードから下ろしたお金で次の国へ行きました。そして後からさらに遠い最終目的地に着いたとメールが来ました。お礼の言葉とともに、自分に起きた事が理解できたと書かれてもいました。

 人は、いかに知識があっても本当に理解できているとは限りません。ですから、騙されてみる事も悪い事ばかりではありません。知識を習得するために学校へ行って、先生から自分に従えと言われたり態度で示されたとしても、わざと従わされてみるのも面白いかもしれません。いよいよ危なくなったら戻れば良いのです。

 騙されると場合によってはお金を取られたり、生命の危険に晒されるかもしれませんが、そうなる手間で止めておく、さよならを言う、隠れる、逃げる、何でも構いませんができる事はあるはずです。皆さんが、ある程度の経験を積んでいる方だったり、普通の常識を身に付けている方であればきっと戻れるはずです。ですから心配せずに一度は騙されてみるのも良いでしょう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?