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『最高の形で中断期間へ』2024.J1 #24 セレッソ大阪×アルビレックス新潟

スタメン



戦前


・保持にリソースを注ぐ訳ではなく、かといって非保持を強調する訳でもなく。小菊体制発足後のセレッソはリーグ内でも比較的ニュートラルな戦略の下で存在感を示しています。
・クラブ創設30周年を迎える今季ですが、SBの6番化によって相手のプレスを迷わる「3-2-5」システムに本格的に着手すること、強烈なWGの個人能力と大エース,レオセアラの得点力を結び付けてフィニッシュワークで違いを見せること。これらによって例年より保持ひいては攻撃力の強化に取り組んでいる印象を受けます。
・新潟としてはハイプレスが機能しない試合が続く中、そもそもの初期配置からズレが生じる(3-2-5vs4-4-2)相手に対して、自分達の狙いを押し付ける為の工夫を施せるかどうかが最低限勝ち点を持って帰る鍵になるのかなと思っていました。

前半

・試合後コメントを読むとセレッソ-小菊監督は新潟のボール保持に対して、ハイプレスが前提となるゲームプランを強調していたことか伺えます。

相手のスタイルとして、新潟はJ1でもボール保持率ナンバーワンのチームです。守備がキーになってくる中で、しっかりと自己犠牲できる選手、ハードワークできる選手。その基準を満たしている選手をまずは選びました。その中で、全員でプレスラインを共有しながら、基本的にはハイプレスでやっていこうという共有があった中で、相手に上回られる時間帯もありました。そこはチーム戦術の問題だと思っています。

小菊昭雄-試合後会見にて

・例えば鳥栖のように最終ラインでの数的同数も厭わないマンツーマンなハイプレスは一見するとリスクが大きいですが、対新潟という観点で見ると11人からなる総合力を切り離して、人件費10億程度からなる選手達との1on1な戦いに持ち込めるという利点も発生します。
・逆に言うとそれくらい割り切って向かってこないと、GKも含めた新潟のボール保持に対して有効策を示すことは格段に難しくなります。

・新潟に対するセレッソの入りとして、IH(主に上門)がセアラと先頭を組み、新潟の2CB+1アンカーを監視します。
・その中で片方のボールサイド、例えば新潟の左側に誘導したら堀米にはルーカス、元希には田中、秋山or宮本には上門orレオのプレスバックで選択肢の無効化を図ります。
・ただ、非保持では4-4-2のボランチを務める田中が縦にハメに来るということは、彼の背中側とDFラインの間に新潟が使えるスペースが発生します。DFラインの選手達は浮いた長倉-小野を捕まえるというより、まずは背後のスペースに対するケアが優先されているように見えました。そうなると
新潟は1:39~/5:58~/19:35~のように、浮いた長倉小野を使いながらセレッソのプレスを空転させ続けます。

・この後の流れでは堀米からの浮き球を受けた長倉から小野→裏に抜けた長倉という2トップの関係性でFK獲得まで完結させます。そのセットプレーの機会に小野が真ん中で逸らす形で合わせて新潟先制..かと思いきやオフサイドの判定。
・ただ、現地で観ていた試合前アップはこの試合における小野の活躍を予言するにふさわしいものでした。
・単純に体のキレが感じられましたし、シュート練習ではコンパクトな振りで球に力を伝える彼の武器を随所に発揮しており、「これはもしかして..」と思ったら本当にやってくれました。それについてはまた後程。

・セレッソの保持は冒頭でも取り上げた通り、基本的には3-2-5を意識した陣形から新潟の守備網に穴を開けていきたい狙い。
・新潟の方は彼らのボール保持に対して前半15分までは明確に苦しんでいたかなと思います。11:30~などプレスに行けば小野-長倉の背中で浮く田中を使われて、その田中に宮本が寄せに行くことで自分達のDF-MF間を晒してしまったり、組織守備では(特に新潟の左で)ハーフスペースを塞ぐ選手と大外をケアする選手が定まらず、13:40~には元希が堀米との意思の食い違いから不満気味のジェスチャーを示すシーンもありました。
・ただ、セレッソがゲームチェンジャーとして運用したい筈のカビシャーバ/ルーカスからなる両WGが利き足と同じサイドで起用されていた為に、仮に大外までボールが回っても彼らを担当する新潟の選手は縦を警戒すればある程度の脅威を抑えられるので、比較的対応は楽だったのではないかと思います。
・16:22~のようにオープンな状態でカビシャーバに好機が巡ってきてもハイライトシーンにすらならなかった事など、新潟としては上記の起用法が自分達に非常に有利に傾きました。今夏には左利き右WGであるジョルディクルークスを磐田に放出していましたが、セレッソのやり方なら全然需要はある筈の選手なのに不思議だなと思いました。新潟のダニーロ同様にスターターとしては使いにくい理由でもあったのでしょうか。
・セレッソとしては後方で3枚を構成する選手達に新潟の中央を使える,動かせるビルドアップ能力があればまた違った展開になったのかもしれません。実際はセアラやWGを目掛けたロングボールであったり単純な外回りのボール循環を実行していたことで、新潟のDF陣は目線を動かされることもなく常に準備した状態で前線5枚に対応する事が出来ました。
・18分くらいから新潟はやられがちだった左サイドにおいて、堀米がハーフスペースを閉じる+元希が大外に広がるルーカスを担当する形を見せて一旦解決を図ります。
・HV(後方3枚の脇)となるボールホルダーには元希が縦を塞いで外に誘導する形をとったり、中盤3枚の横ズレでボランチが寄せに行く形に落ち着きます。ハイプレスも自重してミドルブロックを組みながら中を閉める守備網を敷くことで、セレッソのゴール期待値を徐々に下げていくことに成功。

・仮に元希の寄せが間に合わずルーカスにオープンで持たれそうな場合は堀米が寄せて、SB-CB間を宮本が埋めてバイタルには小野が降りてカバー..という具合に11人が生き物のようにセレッソの使いたいスペースを塞ぎ続けます。
・やはり宮本の復帰は大きいですね。現在のボランチ陣では並外れた身体能力を誇る選手なので、彼の離脱中にボランチを務めていた選手よりもとにかくカバー範囲の広さが印象に残ります。ブロック形成に寄与しながらも機を観たホルダーへの縦スライドでバックパスを強要したり、時折生まれるSB-CB間のスペースを確実に埋めてくれたり。
・何よりも34:15~などチームの課題である攻→守の綻びを個人のバランス感覚&守備性能で埋めてくれるのが本当に頼もしい。アラートがよく効く選手なので実はピンチになりそうだった箇所を未然に宮本が食い止めていたなんて側面も十分にあった事かと思います。彼が居なかったらセレッソ側のハイライトシーンはもう少し増えていたのではないでしょうか。

・新潟の保持に話を戻しましょう。最初はロストも目立ちましたが徐々に桜色のプレスを懐柔しながら、次第に文脈がミドルブロック攻略に移っていきます。
・4-4-2で構えるセレッソに対して新潟は彼らの2トップ脇を占有することで、ボール回しの確かな拠り所を設けると共に、その位置からトーマスや舞行龍が運び出すことでハーフスペースに位置する長倉や元希を経由してオープンな状態で居る逆側のCB,CHに届けながらセレッソの守備網を疲弊させていきます。21:50~はその良い例ですね。
・秋山-宮本や両SBが適切な位置と関係性でCBと繋がれるので、前方の選手をしっかりと高い位置に置いたままそこまでボールを届けられる新潟。下記のシーンではそんなボール保持の秀逸さがよく表れた形となりました。

・Box内への侵入を図る際にも宮本の存在の大きさを実感しました。ボールを受ける際にどんな状態だろうと左足に置くのが島田なら、状況に応じてボールから遠い足に置くのが宮本。後者だと相手の圧から必然と逃れられますし、体の向きがオープンであることから同サイドでのやり直しに加えて逆サイドへの解放という選択肢が発生します。
・その上で自ら運ぶ、それも相手の目線を奪ってくれるので味方へのプレッシャーが普段より軽減されているようにも見えました。この辺りの個人戦術を完備しているCHが国内にどれだけ存在するのかということを考えると、本当に寺川は冬に良い買い物をしてくれたなと思いますね。

・先制点は新潟に生まれます。アバウトな球を懐に収めた長倉が長い距離を運び、最終的にファーで待ち構える松田へラストパス。長倉のパスに合わせる形で燻り続ける22番にようやく初ゴールが生まれます。1-0新潟。
・前節東京戦からの今節の先制弾、彼にとっても新潟にとっても本当に意味のあるタイミングでの一発でした。ゴール後の本人の喜び,また表情を見るとちょっと涙が出てきそうですね。

・フィニッシャーとして相手から離れてフリーで撃てる状態を創った松田も見事ですが、何よりも長距離のキャリーから冷静にアシストに結び付けた長倉の凄みに触れない訳には行きません。
・暑さで普段より体力が削られる中、対面を振り切って持ち運ぶことのできるフィジカルスペックもそうですし、Box近辺では相手に向かうことでディフェンスのアクションを躊躇させて自らのアクションを発動する時間を確保していました。
・このように身体能力と知性を持ち合わせたプレーを見せながら数字もマークできるアタッカーがリーグ内で存在感を示すのは当然の摂理ですし、一体どこの育成組織から出てきたんだい?という観点で考えるとオフにはどんな色の責任を背負っているのかという話にもなってきます。
・ただ契約があって本人とクラブが相思相愛である以上は新潟の選手です。マイチームの選手として彼のプレーを楽しめるのがどれだけ幸せな事か。今のうちに存分に噛み締めておきたいところですね。

後半

・セレッソは後半からIHである上門に替えて柴山を投入。
・ライン間での脅威を増加させたかったのか、彼らの普段着を知らないのでその狙いは推測しかねますが、後半以降のセレッソは前と後ろが分断されている(ように見える)構造が気になりました。
・後方3枚と前線5+1枚を繋ぐ仕組みも人も欠如していた為に、新潟は4-4-2を崩さず自分達の警戒する中央の包囲網にボールが入って来たら刈り取って、長倉-小野を起点としながら確実にマイボールにする展開を続けたいところ。
・そんな中で生まれたのが待ってました、小野裕二による新潟初ゴール。
2-0新潟。

・この得点では元希が一人で運び対面を留めることで長倉-小野をゴール前のワークに専念させてあげたことが良かったかなと思います。二人とも起用で力強い分、ストライカーの文脈から外れた仕事を主に任せてしまっているので最終局面にリソースを割けるような元希の力技は凄く良かったですね。
・続いてスコアラー当人のお話。苦しかった7月上旬、先頭に立ってチームの屋台骨を支えてくれたのは紛れもなく小野でした。

・それだけ発信力も責任も背負う彼だからこそ、未だ公式戦無得点であることに対してやはり意識はしていたでしょうし、そんな中このタイミングで彼に初ゴールが生まれたことは本当に喜ばしいことです。
・この1点で良い意味で力が抜けたことでしょうし、中断空け以降では鳥栖で魅せ続けたような繊細なストライカーとしての側面も沢山見せてほしいです。

・リードを広げられたことでセレッソは次々と交代策を敢行。京都から加入した山崎を投入してセアラと前線を組ませる上に、右利きのルーカスを左に、左利きの柴山を右に置くことでBox近辺からファイティングポーズを示すようになりました。
・新潟は前半よりボール支配率が低下する戦い方にシフトして、構えながら前線二人を経由して陣地回復/マイボールの時間を増やしていきます。
・前半もそうでしたが、多少相手に分があるボールでも自分の物にしてチームのために時間を創れる長倉の偉大さを感じる試合でした。その上相手CBへのプレスを怠らないし、一体彼はどれだけ走って戦ってくれるんだ。走行距離も堂々のチーム首位。

・そして82分には平野の退場まで誘発。これにより試合の大勢は決したかなと思います。後は無理をせず得意なプレス回避を基に時間と球を進めてクローズしたい新潟。
・しかし物事はそう上手くは進みません。ルーカスのカットインから放たれたミドルシュートがゴール左隅に収まって一点を返される格好となります。

・失点シーンではルーカスにフリー気味で撃たれてしまう状況がまずかったですね。巧は恐らく自身の背中側へ走るブエノに意識が行ってルーカスを離してしまいましたが、実際ブエノには秋山がついていたため優先すべきはルーカスへのアタックだったと思います。
・早い展開の中でも正しく状況を認知して適切なプレーに移れるか、その辺りの正確性が信頼に繋がって出場機会の増加に表れてくるのだと思います。頑張れ。(余談ですが、奥様との馴れ初めがサッカー選手にしては何か親近感を覚えるもので凄く面白いし素敵でした)

・タワーオブテラーを彷彿させるラストのヒヤヒヤ感がありつつも、最終的にスコアも内容も上回って見事連敗脱出に成功。

あとがき

・先制点をとって若干守勢を強めて試合自体を塩漬けにするのは新潟の必勝パターンだなと改めて思いました。
・とはいえ上門の決定機が入っていたら..という世界線を想像すると、また違った姿を見せる試合になったと思います。大事な所を空けてしまう,そもそも警戒していないような綻びは開始直後の浮ついた時間帯だからこそ徹底して排除して欲しいです。
・セレッソは昨季開幕戦の方が圧倒的に強かったし攻守も洗練されていたと記憶しています。これは決して新潟の力が昨季よりも向上したからという理由では説明できないような。セレッソのサポーターの方がどう観てどう評価しているのかが少し気になりました。
・中断明けの磐田-京都という連戦はとにかく勝ち点6がマスト。暴論に聞こえてしまっても致し方無いですが、この2戦に関しては内容は正直どうでもいいので「新潟が勝ち点をとる・磐田京都には勝ち点を与えないこと」に焦点を当てるべきでしょう。
・そもそも在るかも分からない補強も含めて、チームだけでなくクラブとして良い準備をしながら大切な連戦を迎えてほしいですね。

・それではこの辺で締めとしましょうか。今回も目を通していただきありがとうございました。良いなと思ったら何かしらの形で反応してくれると嬉しいです。また、ご意見ご感想質問等あれば、直接でも匿名でもどんな形でも良いのでお寄せください。よろしくお願いいたします!