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『新たな新潟を4局面に分けて整理する』 2023.#20 アルビレックス新潟×ヴィッセル神戸

数多くのスター選手を擁するヴィッセル神戸をホームに迎えた、クラブ史上初の金J。スコアは0-1の敗戦、勢いに乗り連勝を…!と行きたいところでしたが勝ち点を落とす結果となりました。

しかし、試合全体の印象としては総じてポジティブ。それが決して筆者の強がりでないことはスタジアムの反応やTwitterのそれを見ても明らかです。きっとこれを読んでいる新潟/神戸/その他のファンの方々もアルビレックス新潟のフットボールに対して良い感触を得たのではないでしょうか。

伊藤涼太郎の海外移籍にここ最近の不調、不安が募る先行きに見事に明かりを灯したアルビレックス新潟。今回は神戸戦からみえた、伊藤涼太郎""の新潟のフットボールについて、タイトル通り4局面に分けて書いていこうと思います。


ボール保持

前と後をくっきりと分けたビッグディール以降、この局面が最も変化しました。まぁそうじゃないと困るんですがw

ビルドアップ


まずビルドアップの段階ではGK+2CB+『ピポーテ』で構築するようになりました。これまでは『2CMF』を必ず組み込んでいましたが、その片方の選手が一列前を中心に運用されています。要はボランチというよりインサイドハーフ。新潟の陣容の中で最もそこに適している選手が星雄次であり、伊藤涼太郎後のチームにおいて水を得た魚のように躍動中。

盤面上を見ると4-1-2-3のような初期配置

また、トップ下やFWと様々な表記がなされる三戸舜介もその実態はインサイドハーフ。中央は勿論、サイド付近やいわゆるハーフスペースに顔を出して味方への選択肢を提示します。

10:57~ではハーフスペースの位置から三戸が引き出した。理想的

神戸戦では前述したようなビルドアップを構築する後方の選手達からフリーマンを生み出して、前方から降りてくる味方に供給する事で相手のプレスラインを超えていきます。

基本的にはSBがタッチライン際に立って相手WGを牽制、その横でインサイドハーフ(以下:IH)が顔を出して後方からボールを引き出したり、更にはCFが相手ボランチの間に降りて選択肢を増やします。

このように、4-4-2気味に構える神戸を相手に明確な位置的優位を確保する新潟。それぞれ4-4ブロックの横/間に立つ事で近くの相手に影響を及ぼして、供給先の候補となるスペースを生み出します。アウェイチームが完全に同サイドに圧縮してスペースを消しに来たら大外で待機する逆サイドのWGへロングパスを展開するなど、相手を見ながら確実に前進するようになりました

(後方への比重を下げるようになった事で、プレッシングを剥がした後に一気に加速するシーンも創出⇩)


崩し

オーバーロードとか息巻いて取り組んでいた割にJ1ではサイドでの崩しに無頓着でしたが、IHの到来と共にようやく着手。これまではWG-SBの関係性に終始していた所に星/三戸が絡み始めました

WGへの横/斜めのパスコースを作って窮屈なエリアから解放させたり、WG,SBとのパス交換の際に自然とそれぞれのポジションを旋回する事でSBを高い位置に押し上げたり、IHが絡む事でこれまでに無かったプレーモデルが定着してアタッキングへの期待感を増幅させた新潟。サイドを切り崩して中央でのプレッシャーを軽減する事で、松橋アルビの本来の良さである中央突破へのアイディアが解放されるシーンも目立ちました。

また逆サイドでは必ず大外に待機する選手を置いて、同サイドに相手を集結させてから手薄な逆に展開するなど、相手に的を絞らせず次々とチャンスを創出しました。そうなると大外で価値を発揮できるドリブラーが欲しい…!


28:20~のように星がハーフスペース付近で相手を引き付けて松田をフリーにしてあげるなど、とにかく自由にそれでも論理性をもって動くIHの存在により、全体的な配置と各所での関係性が整備された印象です。

(未だに分からない、なぜ替えた?)
星→秋山のHTでの交代によって後半は後方への比重が高まりWGへのサポートが欠落したり、左サイドでは前進の段階から中央に集結するようになって攻撃が狭くなるなど、IHとして稼働できる選手の有無は想像以上に影響を及ぼします

現状のスカッドで守備時:ボランチ・攻撃時:IHという役割を担えるのは星雄次しかいません。このゲームモデルが今後メインとなりそうな事を踏まえると、どう考えても補強が必要でしょう。寺川強化部長、頼みましたよ



攻撃→守備への移り変わり (カウンター対応)

ボールと共にプレーするチームなので当然失ったら即時奪回を試みます。

明らかに相手ボールとなったらベースポジションに戻り守備配置を整えて、周辺に新潟の選手が集結してる場合はパスコースを消しながら寄せる事でボール奪取orやり直しを強要します。

攻→守の局面は完全なボール保持時でも意識している事が伺えます。明確に星をインサイドハーフとして2列目付近でプレーさせるようになったので攻勢に回った際には後方が手薄に。そうなるとボールロストから一気にカウンターを仕掛けてくる神戸のような相手だとボールを保持していても常に危険が潜在化した状態になります。

新潟はボールサイドとは逆のSBを内側に絞らせる事でリスクマネジメントを図るようになりました。新井/藤原が偽SB的にプレーエリアを中央に移す事で3列目に位置する選手を最低2人確保して、後方のCBコンビと共に被カウンターへの予防線を張っています。

神戸戦後半は攻勢を強めた事で星に加えて高まで出張したりと時折脆さが垣間見えるので、最低でも『4人』は後方の防波堤として構えていて欲しいですね。


ボール非保持

大体の場合『4-4-2』の陣形を維持しながらプレッシングとブロック守備を構築します。

プレッシング

CFとトップ下の『2枚』がプレッシングの先頭に立つのに対して、神戸のボール出しは『3枚』で数的有利を確保。フリーマンとなった選手から大外に開いた逆サイドへの展開を可能にする事でクロッサーを生み出して、大迫武藤への生産過程を創り上げる狙いがありました。

新潟は数的不利を誘導とスライドで覆い隠します。2枚で中央(主に齋藤)を消しながら片方のサイドへ誘導。誘導した先ではSHが闇雲にプレッシャーをかけず、背中でパスコースを消しながらじわじわと寄せる事で選択肢を外へと追いやります。最終的に大外に渡るのでSBのスライドによりボール奪取orやり直しを強いる形に。

新潟はハイプレスを志向して非保持でも攻撃的なスタンスをとる、わけではなく保守的な姿勢を保って相手の自由を奪いに行きます。昨今ではマンツーマンの色を強めて相手から自由を奪うプレッシング戦術が流行っていますが、選手個々の強度とフットボールのスタイルを踏まえてなのかさほどリスクをかける事はない印象です

それでも誰一人例外なく献身的に基準を乱さずに網を敷く新潟のプレッシングは一定以上機能しています。まぁ神戸戦では向こうがボール保持の術を持っていなかったという側面もありますが。

現有スカッドをみると、
中間ポジションに立って出し所にアタックできるWG (小見,ダニーロ)
(松田はもっと頑張れ)
比較的高いライン設定を可能にして、蹴らせた先で確実に回収するCBコンビ

の存在が特に大きいと思います。特にCBコンビの安定感はもはや替えが効かない段階まで。とはいえ千葉-舞行龍の王道コンビでもマリノス戦で同様のライン設定を機能させていたので、人が変わっても構造を大きくは変えないはず

マイボールの時間を増やして相手からそれを削ぐ。試合を狙い通りに進める大切なプレッシングの局面でも人とスタイルを踏まえながら最適なアプローチを図っています。

ブロック守備

基本的に11人で4-4-2の陣形を崩さず守ります。マンツーマンではなくゾーンディフェンスに則って、アタックとスライドを繰り返しながら相手にとってのパスコースとなるスペースを埋めて外へ外へと追いやります。

FW-DF間でコンパクトな陣形を維持しながら、なるべくゴール前から相手を追い出してエリア内の脅威を排除。仮に押し込まれてもCBコンビに加えて競り合いに長けた両SB(新井,藤原)がクロス対応に加勢する事で確実にはね返します。大迫,武藤にもエリア内では殆ど仕事をさせませんでした。

5レーンを意識してCB-SB間(ポケット)を広げる事で危険な侵入を図る攻め筋に対しては、島田/高/星がポケットをカバー。彼らが去ったバイタルエリアにはWGがスライドして蓋をする。一人一人のハードワークとカバーリングで脆そうに見えて案外堅い守備組織を構築しています。

ボール保持に注目される事が殆どですが、実は非保持でも堅実な構造を保つ新潟。『良い攻撃は良い守備から』とよく聞くフレーズがありますが、生命線であるボール保持を成り立たせているのは紛れもなく安定した非保持。失点が少ない今だからこそ良化を重ねる事で更に堅い守備組織を構築して欲しいところです。


守備→攻撃への移り変わり (カウンター)

この局面ではCFのキャラクターによって二つに分かれるのかなと。

鈴木孝司が1topを務める場合はテンポを抑える事が優先されて、チーム全体の呼吸を整える時間が与えられます。WGを太田や谷口が務める試合ではまた違った毛色になるかもしれません。

神戸戦では谷口海斗が1top。特に後半では背後に晒されると弱みを露呈するCB大崎玲央を突いてスペースへのランニングを繰り返し、チャンスの起点を作っていました。

キャストにより振る舞いが大きく分かれますが、直線的にゴール方向に向かうシーンは以前よりも増えました。『まずはゴール方向を見ろ』と松橋監督が共有するコンセプトもあり、かつての新潟を彷彿とさせるショートカウンターが清五郎で披露されています。

ブロック守備を攻略しようと新たな形で打開策を練り上げている最中ですが得点パターンが多彩であるに越した事はなく、その中で使えるスペースが各所に存在するカウンターは大きな得点機会になります。状況を見ながら効果的かつ破壊的に陣地奪回の機会を掴んでいきたいところです。

 
最後に

大エースの流出に怪我人続出。そんな厳しい台所事情を強いられても、新たなフレームワークと戦力を見つける事によって寧ろフットボール的には良化している新潟。渡邊泰基や星雄次に躍動する機会を与えるなど、今ある戦力を最大化させる点からは流石に育成畑出身の指導者だなと思わされます。

それでも選手の質以前にそもそもタイプとして足りてないポジションがあったり、或いは現有戦力で臨む中でもまだまだ整備できる要素が残されています。

中断期間前のリーグ戦はあと1試合。相性の良いアウェイ札幌で勝ち点3を掴み、自信に数字を携えて良い形でサマーブレイクに向かいたいところです。ではでは



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