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恋愛短編集「恋しくて」を読んで大人の恋に溺れる。

猛暑日は家に籠って映画鑑賞が一番だと散々言っている自分だが、実は読書も同じくらいエンジョイしている。

と、いうことで
今回は上質な活字を堪能できる一冊を<猛暑の過ごし方>として紹介する。

『恋しくて』(村上春樹編著)

村上春樹が選び翻訳している時点で面白いがほとんど保証されているが、その中でも特に面白く心に響いた3作品を取り上げる。

▼ジャック・ランダ・ホテル / アリス・マンロー[著]

私はネジの外れた女が主人公の恋愛小説が大好きだ。
『恋愛中毒』『腦病院へまゐります。』『ミニカーだって一生推してろ』と、まぁイカレ具合は様々だが、私はこの手の小説がたまらない。

本作の主人公もまた中々どうかしており、見事に私の好みにハマった。

この物語のメインを一言で言ってしまえば、夫に逃げられた女が彼の住むオーストラリアまで飛び、そこで彼が手紙を出した相手(タイミング良く死ぬ)になりきって、元夫と文通をする話である。

最終的に正体はバレてしまうのだが、そんなことまでしてしまう執着心が恐ろしく、ぞくぞくが止まらない。

最後は彼女が身を引くような形で物語の幕が閉じるが、こんなことで彼女が諦めるはずがないのが地味に怖い。

きっと彼女はこれからも、自分が手にするはずだったハッピーエンドが戻ってくることを信じて、どうかしていることを続けるのだろう。

▼恋と水素 / ジム・シェパード[著]

タイトルが一番面白く、即興味を引かれ、最も心にぶっ刺さった1作。

飛行船の乗組員であるゲイカップルが不運にも爆死してしまう、という物語なのだが、その恋の終わりのあっけなさが心地よい。

そもそも爆破原因を作ったのは彼らである。いや、彼らを取り巻く環境と言った方がいいかもしれない。

例えば、同性愛がバレれば即追放とか、逃げ場のない飛行船とか、死と隣り合わせの仕事とか。どこを取ってもスリルだらけだ。

が、そのスリルこそ読者のテンションが上がるポイントである。あんな場所であんなこととか…

そして、物語の起爆剤となる人物が出てくることで、話は急速にバットエンドへと加速していく。

読了して思ったことは、ただひとつ。
恋と水素が混ざり合ったら、そりゃ爆破くらいするよ。

▼モントリオールの恋人 / リチャード・フォード[著]

余談から入るが、この本を読む前にレイモンド・カーヴァーの短編をあれこれ読んでいた。(レイモンドはリチャードの親友)

村上春樹の解説にもある通り、リチャードの短編は彼と違い単純なものではない。あれは何が言いたかったのか、あの話題は必要だったのか、など「ん?」と思うところが多い。

と、いうことで。
読書感想文っぽく、考察をひとつしていきたいと思う。

Q.ホテルの窓に残された"Denny"とは誰だったのか?

まず、デニーの正体の前にあれを書いたのは誰か問題から解消していく。

これはまず、マデレインが書いたと考えていいと思う。

根拠は、上質なホテルの従業員が以前つけられた窓の汚れを拭き忘れるはずがないこと。そして、誰かに気付いていもらえるよう、わざと見える場所に書き、それが寒さで浮かびか上がるならば書かれたタイミングは「さっき」であるはず。

それができる人、そんなことをする必要があるのはマデレインしかいない。

では、続いて本命の Who is Denny?

まず、作中で登場するデニーと言えば《ママズ・アンド・パパスのデニー・ドハーティー》である。

彼について調べてみると、グループが絶頂期の時に同グループのミシェルとの不倫が発覚している。ミシェルの夫であるジョン(こちらも同グループ)は妻を追い出しグループを脱退させている。

この出来事になぞらえて、ヘンリーあなたは、デニー役なのよ?と言っているのかもしれない。

もちろん、ミシェルがマデレインで、ジョンがブラッドリーだ。

作品を飛び出して、もう少し考察してみる。

辞書で"Denny"を引くと、Dennis の別称と記されている。そこで、今度はDennisを引いてみると一番下にこんなことが書いてあった。

◇His name is Dennis.
(米語・古風) あいつはだめな男だ 
 【小学館ランダムハウス英和辞典】より

どうやら、「デニス」という名前には『ダメ男』という意味が含まれているらしい。

ほう。
では、ダメ男とは誰(どっち)に向けて綴られた言葉だったのだろう?

これは解釈というよりほとんど妄想なのだが、"Denny"はマデレインがこれまで付き合ってきた男(不倫男)の総称ではないかと思っている。
手慣れた男が女性を「子猫ちゃん」と呼ぶみたいに。

マデレイン、魔性の女!!

本当のことは分かりませんがね笑

またいつか、この本を再読したとき、新たな発見や解釈が生まれればいいなと思う。

夏に読書しようと思っている方は是非、「恋しくて」手にとってみてほしい。


#猛暑の過ごし方

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