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悪食の話

20代の頃は、それなりに
都内や地元横浜・鎌倉などの
美味しい物を食べ歩いたものだ。

決まった日時に
何度も予約の電話をかけて
やっと繋がる鎌倉のフレンチ、
馬刺しと鞍掛豆の美味しい麻布十番の蕎麦屋、
貴重な天然の青鰻を使った
小田原の鰻屋・・・。

自分で言うのもなんだが、
そこそこ美味しい物を食べてきた
と自負している。

しかし主人曰く、
「オールラウンダー」な私には
少しばかり悪食な部分があり
悪趣味を承知で
好物の一品をご紹介する。
真っ黒のつゆに
黒く色の移った天かすが載った
ぺたぺたの温かいたぬき蕎麦だ。

10代の頃、
遊園地でアルバイトをしていたが
そこの社食で食べることのできる
温かいたぬき蕎麦が、
"マイベスト・ベチョベチョ・ぺたぺた
真っ黒たぬき蕎麦"であった。

出前で頼むたぬき蕎麦などは
ぴっちりとラップがされているが、
それが熱でとろんとなって
発せられるあの独特の匂い、
去っていくバイクの
ガソリンの匂いは、
私にとっていわば幸せの象徴である。

たぬき蕎麦からは少し
趣向が違ってくるものの、
JR品川駅にある立ち食い蕎麦屋
吉利庵のコロッケ蕎麦も
かなり理想に近い。
コロッケ蕎麦というのもまた、
人から顔をしかめられがちな
私の大好物である。

いずれにせよ、
つゆは黒ければ黒いほど良く、
蕎麦は箸で掴めば千切れるほどに
ぺたぺたであってほしい。
ちなみにざる蕎麦に限っては、
かえしが真っ黒であってほしいのは共通だが、
香り高く硬めの蕎麦を
ろくに噛まずに飲むのが好きなので、
今ワナワナと震えているであろう
グルメな読者の皆さまには
それに免じてお許しいただきたい。

今日は昼過ぎに勢いで取りかかった
少しだけ大掛かりな風呂掃除によって
なんとか持ち直すことのできた一日だった。
沈んでも浮上するちょっとしたきっかけを
いつもいくつか持っていたい。


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