読書の記録(63)『手紙 ふたりの奇跡』福田隆浩 講談社
手にしたきっかけ
市内の学校図書館司書の研修で『家族』をテーマにした本を探すことになった。何冊か読んで特に印象に残ったうちの一冊。
心に残ったところ
秋田に住む穂乃香と、長崎に住む耕治。2人の手紙のやり取りだけで物語が進んでいく。手紙だからこそ、素直な自分になれたり、自分を見つめなおしている様子がよくわかる。私も中1~高校ぐらいにかけて、小学校は同じだったけれど校区の関係で中学校が分かれた友達と文通していたことを懐かしく思い出した。今見たら恥ずかしくなるような幼い悩みや、日ごろのモヤモヤを書き綴っていたような気がする。
前半は手紙のやり取りだけなのに、物語にぐいぐい引き込まれていった。2人の性格や学校生活がありありと想像できる。ひと月に1回ほど手紙が交わされるそのテンポも、お互いが心を開いていくスピードと合っている。ペンフレンドとして、自分のことを素直に書いているさまがとてもかわいらしい。
穂乃香のお母さんの秘密が明らかになってくる後半も、ぐいぐい引き込まれた。穂乃香のお母さんは、高校生の時に確かに奇跡のような体験をしていた。そのことが分かっただけで、穂乃香はどれだけ心が軽くなっただろう。
書くことは自分を見つめなおすことなのだと改めて思った。文字にして冷静に読むことで悩みの全体が見えてくる。自分の本心を見つめなおしたり、振り返ったりすることができる。一人でノートや手帳に書くのも、もちろんいいと思う。手紙だと、それを読んでくれる人がいて、寄りそってくれる。手紙が行ったり来たりする時間って他のものでは代替できない貴重な時間なんだなと思った。手紙を書くうちに自分の悩みが整理され解消されることもあるし、返事をもらうことで新たな視点から解決方法を探ることができる。また、一人で全部抱え込むのではなくて、聞いてもらうだけで気持ちが楽になることもある。顔を知っている、いつでも会える、そんな人には言いにくいことも、手紙なら書けるということもある。
穂乃香と耕治の間にはゆったりした時間が流れていて、お互いがそれぞれの生活の場で成長していることもわかった。読後感が爽やかで、穏やかで優しい気持ちになれる本だ。
まとめ
知りたいことや気になることはなんでもネットで検索できるけれど、耕治は秘密を探るために、自分の足で情報を得て、図書館にも行った。本当に知りたいことや、手に入れたいことはこうやって時間をかけないと手に入らないのかもしれないなあ、とも思った。