動物(ホモ・サピエンス)の共感とモラル
はじめに
現時点での科学における動物行動上の共感とモラルについてまとめて書いてみました。
モラルと道徳 エシックス
moralと「道徳」
日本ではmoral の翻訳語に『老子道德經』由来の「道徳」をあてました。
moralとethics(倫理)
モラルとエシックスの違いは個人の規範か社会的規範の違いだそうです。
動物の共感とモラル
今は動物に共感・モラルがあるという説があります。特に霊長類やイルカ、ゾウ、イヌなどの社会性を持つ動物です。 これらの動物は、自分や他者の視点を理解したり、協力したり、公平さや正義感を示したりすることが報告されています。また、動物が人間に対してもモラル的な行動をすることが知られています。
例えば、ゾウは仲間に寄り添う能力が高く、緊張したり動揺したりしたゾウに対して、同じしぐさで応えたり、鼻で体に触れたり、優しくさえずったりすることがあります。ゾウは仲間が死んだときにも悲しみの表情を見せたり、墓を作ったりすることが知られています。
仲間の心に寄り添うゾウの共感能力 ナショナルジオグラフィック
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/8942/
次によると、動物も「互恵、公平、共感、慰め」を持っているそうです。
またオランダでラットに共感とモラルがあるという研究がされています。
ラットは、自分が引くレバーが隣のラットに電気ショックを与えることを知ると、別のレバーを引くようになりました。
ラットの脳の前帯状皮質にあるミラー・ニューロンが、他者への危害を防いでいる可能性が高いそうです。
ホモ・サピエンスの共感とモラル
人の共感
共感の脳内プロセス
人の共感は認知神経回路で起きるそうです。
サイコパスと共感
サイコパスは生まれつき共感性が欠けているといわれています。サイコパスとは、他者の感情や苦痛に無関心で、自分の欲望や衝動を抑えられません。サイコパスは脳の構造や機能に異常があるために、共感する能力が低いとされています。サイコパスは自分の利益のために他者を利用したり傷つけたりすることに抵抗を感じません。サイコパスは社会的に成功することもあるため、権力者になることもあります。
power・権力と共感
power・権力者になると共感できないといわれています。これは権力者の脳のミラーニューロンの自分と他者の行動や感情を共有する能力や共感が低下しているというものです。権力者は自分の利益や目標に集中しすぎて、他者の気持ちや状況に注意を払わなくなる可能性があります。また、権力者は自分の能力や正しさに過信し、他者の意見や批判に耳を傾けなくなる可能性もあります。このように、権力は人の認知や感情にバイアスをかけてしまい、ミラーニューロンの活動を阻害する可能性があるのです。
トランスcranial磁気刺激(TMS)で、高権力の参加者は他人の行動に対して低いレベルの共感しか示さないことを発見しました。これは、権力を持つ人は他の人を共感することが少ないことを示唆しています。これらの違いは、他人の行動に対する運動共感の減少が、権力によって引き起こされる非対称性の神経メカニズムの1つである可能性があることを示唆しています。
権力は他人の行動に注意を払うよりも、他人の行動に反応することに関心があるため、他人に共感することが少ないとしています。これは、権力を持つ人がより攻撃的で支配的になる可能性があり、他人とより良い関係を築く可能性は低くなる可能性があることを意味します。
医師と共感
人のモラル
遺伝性
人間のモラルが遺伝性であるという研究は、ここ数十年で増えています。これらの研究の多くは、双子や養子縁組された子供たちの研究に基づいています。2014年に、ハーバード大学の研究チームは、双子研究の結果に基づいて、人間のモラルが遺伝性であるという論文を発表しました。双子の遺伝子が類似しているほど、モラルの感覚が類似しています。
双子は遺伝子が同じですが、養子縁組された子供たちは遺伝子が同じではありません。これらの研究は、双子が養子縁組された子供たちよりも似た道徳的見解を持っていました。
これは、モラルの一部が遺伝的である可能性があることを示唆しています。
ある遺伝子がモラルに影響を与える可能性があるということがあります。
たとえば、ある遺伝子変異は、人々が他人の苦痛に敏感になるのを助ける可能性があることが示されています。また、MAOA遺伝子は攻撃性や反社会的な行動に関連しています。COMT遺伝子は衝動性やリスクを冒す可能性が高くなることに関連しています。これらの遺伝子を持つ人は、これらの特性を発現する可能性が高くなります。
親のモラルとの関係
ホモ・サピエンスの乳児のモラルは親のモラルと関係があります。
12~24ヶ月の幼児と幼児期の子ども(n = 73)を対象に、EEG(脳波)、ERP(事象関連電位)、眼球運動、行動、社会環境などの複数の分析レベルを組み合わせて測定しました。子どもたちは、他者の親切な行動や不親切な行動を見るときに、脳波やERPに差が現れました。また、ERPの差は、子どもたちの親切な人物への好みや、親の正義や公平に対する価値観と関連していました。
なお子供のモラルは動物絵本では向上しないそうです。
ホモ・サピエンスのモラルの起源
ホモサピエンスのモラルの起源には次のような説があります。
ホモ・サピエンス集団とモラル
ヒトは集団で駆動するとモラル的思考ができなくなるということです。
道徳的憤り 悪意
アメリカのliberalと保守に遺伝子と関係
2011年シドニー大学のHatemi博士は、50項目の質問に対する回答から、リベラル~保守の程度を表す個人の数値を評価し、その数値に有意に相関している遺伝子を探索し、11個の候補遺伝子が特定されました。そに中に、記憶や学習に関与しているNMDA型グルタミン酸受容体など、脳で発現するタンパク質の遺伝子がありました。これらの遺伝子は、人間の基本的性格因子のうち、開放性と良心性に関係しています。開放性は新しい経験や考え方に対する受容度、良心性は目標達成や規則順守に対する意欲で、リベラルな人は開放性が高く、保守な人は良心性が高い傾向があります。この研究で政治傾向に遺伝子が一定の役割を果たしている可能性があります。
モラルと宗教信仰
モラルは信仰している宗教と関わらず一定であるそうです。
モラルは文化を越えて共通した規範がある
「道徳とは協力である」として各文化調査した研究があります。道徳とは人間の社会生活において繰り返し発生する協力の問題に対する生物学的・文化的な解決策の集まりであるとし、非ゼロ和ゲームの理論を用いて、協力の問題とその解決策を以下としました。
親族への援助、
自分のグループへの援助、
互恵性、
勇敢さ、
上位者への服従、
紛争資源の分配、
先取権の尊重
これらが、すべての文化において道徳的に良いかを検証するために、60の社会の民族誌記録7つの協力的行を調査しました。その結果、これらの行動へは一様に肯定的であり、その大部分の文化、世界のすべての地域で同じ頻度で観察されたとしました。
人間のパーソナリティ
人間のパーソナリティと人格について
人格とはパーソナリティを翻訳した言葉で訳出した当時は同一概念でした。
人間のパーソナリティと遺伝
人間のパーソナリティの遺伝要因はかなり大きいです。
以下のパーソナリティに関するメタアナリシスでは遺伝要因は40%、環境要因は60%でした。
Heritability of personality: A meta-analysis of behavior genetic studies
https://psycnet.apa.org/record/2015-20360-001
高齢となると、やっとパーソナリティが変わりますが、
老年期になると遺伝の影響も80%になっているという研究結果もあるそうです。
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