B2B SaaSスタートアップのためのABM初学講座
この記事は #SaaSLovers バトンブログの13日目です。12月に行われた #SaaSビジネスアドベントカレンダー が濃厚で盛り上がったので3月もやっちゃえ!という企画ですw SaaSのプロフェッショナル達の記事は圧巻なのでぜひシリーズ通して読んでみてください。
前回、SaaSビジネスの事業責任者の所感として↓の記事を書いたばかりなのですが、実は2月よりマーケティング部に異動しました。笑
Reproは昨年の間はApp/Webで事業部が分かれてそれぞれのターゲットを開拓していたのですが、現在はマルチチャネルでのマーケティング強化ができる強みを活かした組織体制にする意味で事業部を統合しました。で、今は横断のマーケティングチームでABMの統括をやってるというわけです。
ABMチームの立ち上げ、手探り感満載の1ヶ月。
前置きが長くなりましたが、この記事では僕がABMチームの立ち上げに奔走したこの1ヶ月でさまざまにインプットした内容を整理し、後々に役立てていただこうという趣旨です。
ABMをやっていく上で課題になったのは、とにかくABMのやり方、体系化されたノウハウがなかなか見当たらないということ。それでまずは試しに走りながら先人に色々教えを請おうということで様々お話を伺いました。
ABMってそもそもなんぞや
日本でのABMの第一人者であるシンフォニーマーケティングの庭山さんの定義によれば、
ABMとは、顧客・見込み客データを統合し、マーケティングと営業の連携によって、定義されたターゲットアカウントからの売上げ最大化を目指す戦略的マーケティングのこと。
(アカウント・ベースド・マーケティング(ABM)とはいったい何か?)
とあります。
また著書、『究極のBtoBマーケティング ABM(アカウントベースドマーケティング)』では、ABMが特に役立つのは「すでに取引のある企業の売上最大化であり、既存取引先内の、事業部またぎでのクロスセルなどで力を発揮する」(意訳)とあります。
ん、ちょっと待てよ? 僕たちSaaSスタートアップってそんな大手との取引そもそも少ないじゃん。ABM使えなくない?
でも、むしろSaaSスタートアップのなかでABM流行りつつない?どういうこと?
改めて読むと庭山さんの著書の中にも、新規開拓を旨とした部分がありました。よかったよかった。
新規顧客の開拓に関しても、ABMは非常に効果的です。(中略)具体的な社名と具体的な部署名をターゲットにして商談相手を探し出すから、新規開拓に足が重い営業でもフォローしてくれるのです。
(『究極のBtoBマーケティング ABM(アカウントベースドマーケティング)』p29)
どうやら、既存アカウントを対象とした「会社あたりの面の拡大」を趣旨としたABMと、「欲しいターゲットを特定して新規開拓すること」を趣旨としたABM、2種類に分けて考えると分かりやすそうです。今SaaS界隈で注目を浴びているのは後者の新規開拓よりのようですね。
このあたりの整理はちょっと後々効いてくるので覚えておいてください。
外資SaaS大手と国内SaaSスタートアップでのABM手法の違い
続いて直面したのは、会社によってエンタープライズABMの手法が全然違うということです。
いきなり具体的にまとめます。
SalesforceなどのSaaSの雄は「SalesとISは絶対にタッグを組んでSales主導でアカウントプランを作り、Salesが作った文面で手紙を送ってアウトバウンドしろ!」と言い、SaaSスタートアップでの取り組みでは「まず数百社をターゲットとしてコネクト有無を探しましょう、コネクト無いところはイベントや広告でLead Genしましょう」というわけです。これは混乱しました。笑
でも、こうして表にしてみるとよくわかります。そもそもターゲットアカウントから期待するMRRによって、1社あたりに掛ける工数やコストが変わるのです。エンタープライズの定義の違いと言い換えても良いかもしれません。
以下、それぞれの項目についてもう少し深堀りを。と、その前にお話をうかがった皆さまにスペシャルサンクスを!
☆Special Thanks☆
外資SaaS大手についてはSalesforceとZuoraで世界トップセールスを経験したdigsasの石井さん(@DJ_141)やApp Annieカンマネの向井さん(@Shun_Mukai0718)から、国内SaaSスタートアップについてはSmartHR SalesOpsマネージャーの工藤さん(@kudok779)、CiNC CROの赤司さん(@DjLeap0229)、先日導入させていただいたFORCASの皆さま、などから話をうかがいました。ありがとうございました!
ご協力いただいた皆さんのnoteはこちら。(スペースの都合上テキストリンクでスミマセン……) どれも一流のプロによる珠玉の記事です。
Salesforce社内で2018年1番バズった営業ノウハウ資料を作者が解説!!part1
The Modelの理想と現実〜Role間コンフリクトをなくすためにやったこと〜
SmartHRのSales Opsの3つの役割
スタートアップSaaSの売上責任者の立ち回りについて重要だと思う6つのこと
ターゲット件数とMRR
ABMでは何件をターゲットにすべきなのでしょうか? 端的に言えば、
ターゲットから期待するACV×ターゲット数×受注率>新規売上目標
となるように、想定ACVとターゲット数を定めるというのが適切です。逆に、1社あたりから獲得できるACVが高く設定できればできるほど、ターゲットする社数は少なくすることができると言えます。
例に出てきたような外資SaaS大手では比較的、アカウント数や取引内容によるACVのトップライン引き上げに成功している。一方国内SaaSスタートアップでは、ゴリゴリのエンタープライズに対して大きなACVで売りに行くような用意が未だ整っていないケースが多い。この違いが大きそうです。
とはいえ、我々国内SaaSスタートアップも、シェアを確実に伸ばしていくためにはエンタープライズへの高ACVでの導入は避けては通れない道。外資SaaS大手を見習った体制やプロダクトプランを検討する必要がでてきそうです。
アプローチとターゲット攻略方法、組織体制
ここでもいきなり図解します。
とくに根拠があるわけではないですが、ターゲット数が1000社を超えてくると1社1社を丁寧に当たりきれないため、インバウンド→IS→FSというThe Model式の流れの中に統合してしまったほうが効率的であるように思います。
また、外資SaaS大手では「エンタープライズ」とは1社ごとにアカウントプランを作って攻略する対象のことをほぼ指しており、その中間部分(ターゲット数100社~1000社)が国内SaaSスタートアップが単価向上をチャレンジするゾーンであると分けられます。
この中間ゾーンは、会社によってはThe Model式の中に組み込まれる部分でもあり、どう攻めていくかはその企業の戦略如何ということになりそうです。
案件の複雑性=顧客イシューの大きさによって戦術と組織が変わる
外資SaaS大手が高いACVを実現できているのはなぜでしょうか? それは、顧客イシューを大きくすることに成功しているからです(向井さんの教え)。
ペインが大きければ大きいほど高いお金を払う価値があります。そして一般的に、複数部署にまたがる問題はペインが大きくなります。複数の関係者が絡まることにより、案件が複雑化します。
外資SaaS大手は、イシューの大きさに気づかせ、複数部署を巻き込み、案件の複雑性を増すことによって高いACVを実現しています。外資SaaS大手のエンタープライズSales部隊とは実のところ、大きな案件を扱う部隊ではなく、案件を大きくするための専門部隊なのです。ここで戦術と組織の違いが出てきます。
案件が複雑であればあるほど同じターゲット企業内でキーマンが増えるため、当たる順番を丁寧に考える必要があります。入念なアカウントプランを実行するには、必然的にSalesとISは同じチームになり、Salesが欲しい”人”単位でのアポを確実に取るための体制になります。これは庭山さんの言われている「面の攻略」に近しいものがあります。
一方、特定部署内で完結するレベルの契約であれば、特定のキーマンをしっかり押さえれば済むので、ある程度一方通行のパスでもSales活動は成り立つことになります。もちろん一方通行とはいえ、ISもSalesもその中で出来る限りChampionに会いに行く努力は必要ですが。
※Championに会うためのリサーチ活動についてはdigsasの石井さんにたっぷり教えていただいたのでまた別のnoteで公開したいと思います。
インバウンドかアウトバウンドか?
まだ接点を持っていないアカウントやリードの開拓はどうすべきでしょうか。一般に、大企業で役職が高くなるほどWebでのインバウンドやセミナーの来場は望みにくくなります。逆に、役職にかかわらずある程度幅広くリードを集めるのならば、広告やイベントを使ったインバウンドマーケティングが有効です。
この選択も、上述のアカウントプランの有無に影響されます。複雑な案件攻略のためには適切なキーマンとの接触が不可欠であり、それ以外はノイズとなるため非効率になりがちです。そのため、ガチエンタープライズの大規模攻略においてはアウトバウンドやパートナーセールス戦略が使われがちです。
漁に例えるならば、The Model型の広範囲のマーケティングは巻き網漁、ターゲットアカウントを意識したミドルABMのインバウンドマーケティングは魚群探知機を使った一本釣り漁船、ガチエンタープライズのアウトバウンドは素潜りによるヤリ漁です。
「お手紙作戦」は必要か?
エンタープライズ攻略としてよく話題に登るのが、「和紙に筆ペンでしたためたお手紙送付」です。秘書さんが「これは捨てちゃダメかも…」と思うような雰囲気にすることで役員クラスへの到達率を伸ばすというやつですね。
実際にやってみたところ、役員アポ率は格段に高くなるものの、実施工数はかなりかかるというのが今のところの所感です。
いろいろなお話を聞いている限りでは、手紙を送付しない、あるいは個別カスタマイズしない一律的な手紙でもそこそこのアポ率は確保できるようです。では、その線引きはどこになるか。
「リストを作ってひたすらコールドコールする」こととABMアウトバウンドとの違いは、焼き畑農業か、断られても再アプローチできるよう大切に育てていくかの違いです。やり方には寄るものの、無闇なコールドコールはブランドを毀損し、ターゲット企業にネガティブな印象を与えるリスクがあります。
ターゲット件数が絞られれば絞られるほど、失敗して出禁になったときのリスクが大きくなります。将来数億円の売上をもたらすかもしれないアカウントと取引の望みが断たれるというのは、企業のトップラインのポテンシャルそのものに大きな影響を及ぼします。
さらに、PMFを達成しているサービスにとっては「絶対に失敗できない案件」というものが存在します。それは「導入時のLTVが高く、自社サービスが100%ハマる案件」です(石井さんの教え)。自社の提供するバリューがドンピシャで刺さるなかのトップティア案件が取れるかどうかというのは、業界全体の攻略にも関わってきます。
この「絶対に失敗できない案件」から嫌われたら終わりなので、効率が悪かったとしても必ず入念な手紙でアプローチする、というのがお手紙の有用な使い方になりそうです。ターゲット企業をしっかりと研究し、中身までカスタマイズした手紙はきちんと読まれることも多く、礼をつくしたコミュニケーションをすることで、たとえ断られたとしても悪い印象を与えづらくなります。
結論:これからABMをはじめるSaaSスタートアップがとるべき戦術とは
ここまで「外資SaaS大手 vs 国内SaaSスタートアップ」という構図で語ってきましたが、そんなに綺麗に分けられるわけではありません。外資SaaS大手もThe Model式の活動は行っていますし、国内SaaSスタートアップでも「SalesとISがタッグを組む」方式の開拓を部分的に採用しているところはあります。結局の所、開拓したいアカウントに対して合理的な戦術と組織体制を取れるかどうかというのが重要です。
また、外資SaaS大手のエンタープライズ攻略戦術は非常に理にかなっていますが、それを実現するための十分な人材がいる、というのも重要な要件です。常に人材不足であるスタートアップとしてはやはり、できるところから取り入れていくというのが現実的でしょう。
今回の話をまとめると、国内SaaSスタートアップにおいては、業種業態やスタート地点にも寄るものの、MRR数十万円くらいが現状のSaaSであれば、
・アカウントリストは数百件くらいから始めて絞っていく
・インバウンド/アウトバウンド様々試しながら自社ターゲットに合ったアプローチを考える
・トップティアのガチエンタープライズに当たれるのであれば、SalesとISがタッグを組んでアカウントプランを作ってみる
・「絶対に失敗できない案件=LTVが大きく、自社のサービスが100%ハマる案件」については、手紙等を含む丁寧なアプローチをする
というやり方が良さそうです。
まだABMに足を突っ込んで1ヶ月ですので、経験者のみなさまのご意見をもっともっと知りたいです!コメント・DMいただけると嬉しいです。ABM界隈のノウハウをもっと世に出して行きたいですね。
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