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試練は続くよ。どこまでも(インド・シュリナガル6/7)

奴らからの仕打ちは、いつになったら終わるのであろうか。
シュリナガルで過ごした日々は過酷すぎて、もはや精神も限界に近い! 一刻も早く、奴らから解放されて楽になりたい。でも、現実は甘くなかった。

シュリナガル最後の夜を、悪人軍団のボスの家で、命からがら過ごした後、ついに、インド3番目の大都市「カルカッタ」へ向かう時が来た。2つの都市間は、直線距離で約2300キロ離れている。前日にボスから渡されたのは飛行機のチケットではなく、電車のチケットだ…その電車に乗るのも、同じ州内にある「ジャムー」という街まで山道をバスで8時間かけて、移動しなくてはならない。

出発の時間となり、バックパックを背負い外に出るとボスが見送りに来ていた。「こいつのせいで、散々な目に遭ったな」と、憎い気持ちが溢れ出るのを抑えつつ、見かけだましのお別れの握手をし、子分が運転する車の助手席に足早に座る。すると、もう一人の子分であるレミーが後部座席に乗り込んできた。なぜ、レミーが? と若干、不安な気持ちになるが、これでボスとサヨナラする事だけは間違いない。絶対に「希望の暗号」で仕返しをするからな! と睨みを効かせ続ける。

バス乗り場に到着すると、レミーに手を引かれ、ジャムー行きのバスへと連れていかれる。席に座ると、再びレミーが乗り込んできた。
「ボスの命令で、おれも一緒に付いていく」
まだ、奴らの手から逃れることは出来ないのか…と、項垂れるしかない。
車内では、同乗したインド人全員から「なぜ、こんなところに日本人が?」と興味津々にジロジロと見られたが、愛想笑いと寝たふりで切り抜ける。彼らと話をしてみたかったが、レミーが横にいるため、必要最低限以外は、話をしないほうが安心だ。あと少しの辛抱なのだから。

8時間を掛けジャムーに到着し、これで晴れて自由の身だ! と、バックパックを背負い移動しようとしたら、レミーが静止をしてきた。そして、誰かに電話をかけ始める。しばらくすると、友人のサジャーンが車で現れた。
「今から駅に向かうぞ!」
「電車は明日だよ!」
チケットを見せても、全く納得してくれない。
本日の列車に振り替えるつもりか? と僅かな期待と大きな不安が入り混じりながら、車でジャムー駅に向かう。構内に入り電車を探すが、該当の便は見つからない。やはり、レミーは日付を勘違いしていたのだ。すると、悪びれる様子もなく
「サジャーンの家で一緒に泊まるぞ!」
と、恐怖の一言を言い放つ。
これも「ぼったくりツアー」の繋がりで、今日はサジャーンの家で危険な目に合うのかと考えると、もはや気が気でない。必死で「ノーサンキュー」を連発するが、無視をされ続けてしまう。

家に到着すると、レミーが食事の準備を始めた。メニューは、カレーだ。 
食事中、レミーとサジャーンは、笑いながら楽しそうに話をしている。何を話しているか気にはなるが、言葉は理解できない。カレーを手に取り無言で食べていると、二人で日本のことを質問してきたり、自分たちの彼女の話などを嬉しそうにしてくる。その様子は、今までとは雰囲気が異なり、どこにでもいる若者のようだ。
レミーいわく、本当は、今までも話をしたかったのだが、ボスや周囲の目もあり、遠慮をしていたらしい。
もしかしたら、真の悪人は、ニューデリーの旅行会社を中心とした一部だけで、シュリナガルで働くレミーを始めとしたスタッフ達は、細かい事情は何も知らず、僕のことを1観光客として相手をしているだけなのかもしれない。もちろん確信はないし、レミーに聞くことも出来ない。でも、彼の話を聞いているうちに、少しだけそう感じ始めていた。

夜も更け、ベッドに入り布団を被っていると、レミーが扉を開けて部屋の中に入ってきた。昨日とは違い部屋の電気も付いているので、停電ではないはずだ。
「俺のベッドがないから、一緒に寝させろ!」
「今日は疲れたから床ではなく、ベッドで寝たいんだ!」
まさかのワガママを言い始め、問答無用に中に入ってくる。そして、掛け布団まで占領をし、ベッドの3/4を使い始めた。あまりの図々しさに言葉を失っていると、早々と寝息を立てはじめた。この期に及んで、こんな地味な仕打ちをされるとは…先ほど、少しでも気を緩ませてしまった自分に腹が立つ!

明日、無事に「カルカッタ」へ行けますように!
そう信じながら、人生ではじめて、インド人と添い寝をすることにした。

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