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ビジネスにおける時間の価値とは?

前稿で時間の価値について記述したが、本稿ではビジネスにおける時間の価値を考えてみたい。そもそも時間的価値をまとめてみようと思ったきっかけは、前職で仕事をしているときに時間を意識していないと感じたからである。

毎月の生活することにお金が必要なように、会社を経営するにもお金がかかる。企業の費用は大きく分けると固定費と変動費に分けることができるが、固定費はほぼ時間でチャージされるという特性をもっている。費用面だけみても時は金なりということが言える。

Cash Is King:現金は最も信用力の高い資産

資本主義の社会では、価格は価値を測る指標として最も広く活用されている。価格が付いているモノは、現金と交換が可能である。不動産も食料品もありとあらゆるものが現金と交換ができる。柔軟性が現金のもつ価値であるが、その前提として現金(日銀やFRBなど)は発行体の信用に裏付けられているという事が普段意識しないが重要な現金の条件である。

但し、価格は変動する。なぜか?モノと通貨の両方の価値が日々変動するのでの、交換レートである物価は日々変動している。何に基づいてレートが変動するのかといえば、原則は需要と供給であろう。
価格が日々変化するということは、将来の価格は今の価格と同じではない=リスクがある。これが1つ目の時間的な価値になり得る。

会社は赤字では倒産しない

会社が経営破綻するケースとはどのような状況なのかを考えてみよう。

赤字だと会社が倒産すると思っている人が少なくないように思えるが、実は会社は赤字では倒産しない。赤字で倒産するのであれば、決算を締めてちゃんと収支を計算して、赤字だったから倒産となるなんていうことはないのである。毎日が真剣勝負のビジネスにおいて、そんな悠長なことは無い。

その答えは、現金が底をついて、約束した期日に支払いができなかった時である。

すなわち、企業は創業からずっと赤字続きで一回も黒字化したことがなくても、手持ちの現金が潤沢であれば倒産はしない。Amazonは恣意的に利益を押し下げるという戦略をとっていたが、御存知の通り潰れてもいない。それどころから、運転資本を活用した潤沢なキャシュフローにより株価もかなり高い。Amazonの株価収益率(PER)は2013年には2000倍以上、2015年でも600倍を超えていた。潤沢なキャッシュフローに裏打ちされたキャッシュを稼ぐ力の強さ、今後の成長への期待の現れである。

赤字でも現金を手に入れる方法で代表的なものは、増資・融資、または仕入先・顧客との支払い条件を自社に有利にすることで運転資本(Working capital, W/C)を稼ぐ方法である。交渉が強いという事は企業価値を高めることなのである。

キャッシュフローが最も重要な経営指標であるということは現代の経営では常識となってきている。ファイナンスの世界で企業価値とは将来的に生み出すキャッシュフローの現在価値の総和である。

営業のゴールは売上を上げることではない。

経営目標がキャッシュを稼ぐことであると考えると、営業が与えられているミッションとは売上を上げることではなく、キャッシュフローを増大させることであると考えるべきであろう。売ったはいいものの、代金を回収できなければ意味がない。(私の経験上)日本であれば代金を支払わない顧客に遭遇することがあまりないので、忘れられがちではあるが、代金回収までを目標とした日々の活動(ちゃんと回収できるかの与信管理、いつぐらいに支払ってくれるのかの支払条件の交渉など)をしていかなければならない。

支払条件はサービス納入後できるだけ早く(可能であればサービス提供前に前払いさせる)することが望ましい。なぜか?客先の与信だけではなく、ファイナンス的観点で言うのであれば、キャッシュの持つ時間的価値を考えれば分かる。

Cashの持つ時間的価値

ビジネスは基本的に複利が原則である。成長が成長を招き、雪だるま式に大きくなるという原理がある(衰退においても同様)。

ビジネスは何をするにもCashが必要である(ヒト、モノ、情報の仕入にはコストが伴う)。また、時間は費用である。それは、固定費は時間でチャージされるからである。

トマ・ピケティが2014年に書き世界的ベストセラーとなった21世紀の資本でも格差が拡大する原理が説明されている(かなり難解な論理構成の本ではあるが、言っていることは至って単純な原理原則だと思う)

資本収益率が経済成長率よりも高い(r>g)状態であるので、お金がお金を呼びドンドン裕福になる一方で、労働者は搾取され続けるために、格差が拡大するということが結論づけられているのである。

経済学の世界では提供サービスの有効性x希少性で価値が決まる。特別な知識・技能を持たない労働者は資本家に搾取され続けるケースを思い浮かべれば理解がしやすいだろう。昨今の技術の発展とグローバル化の発展とがその格差に大きく寄与していることは火を見るより明らかであろう。

グローバル資本主義という社会では投資家はいかに効率よく儲けるかを最優先して考えている。ここで言う儲けとは、もちろん現金のことである。

投資家にとって、現金とはどのような意味なのか?

投資家はお金を稼ぐことが人生の最終目的なのだろうか?答えは否!

日本銀行が発行する日本円(日本銀行券)、米FRBが発行する米ドル紙幣(連邦準備券)は各機関が信用を与えているので有用性が高く、幅広く価値を認められている。逆に言えば、信用がなくなった現金は価値がないということであるので、現金を手に入れることは人生を満たすための手段として現金を稼ぐたいと考えているのである。

人間の人生の時間は限られている。生きているうちに現金を使って、人生を謳歌してこそ価値があるのであるので、300年後に元本を倍にして返します!っていっても投資家が納得しないことだろう。どれくらい早く、元本をどれくらい増やせるのかという事業計画(コミットメント)がなければ資本家はお金を投資することはないと考えてよい。


クライアントに信用がないから前払いを要求するのは合理的

与信管理の観点も言及してみよう。

顧客にできるだけ早い支払いを求めることは憚られるのだろうか?ファイナンスの原則からすれば、まったく臆することなく請求するべきである。

大手企業で働く社員は自社は未来永劫つぶれないと妄信しているのかもしれないが、世の中に倒産しない企業がないことは誰もだ理解するべき点だろう。例えば、リーマンブラザーズの破綻は映画にもなっているが、社員は破綻が報道されるまでその事実を知る由もなく、疑ってもいなかったということである。我が国日本でも、山一證券、長銀の経営破綻を覚えている方も多いことだろう。大きな企業だから、つぶれないと思い込むのは危険である。

リクルートワークス研究所がまとめたレポートより:

S&P500企業においては、1960年代には最大61年だった大企業の寿命が現在では25年程度になっている。こうした動きは日本でも見られ、日本においては、2015年の倒産企業の平均寿命は24.1年にすぎない。平均で見て企業寿命は25年程度であり、企業寿命を短縮させる環境要因は今後もますます拡大することから、さらに企業寿命が短縮する可能性がある。



また、某ソースでは2027年には企業の平均寿命は12年まで短命化するとの分析もあるくらいである。

例えば、日本最大手の石油元売企業を運営するEグループでは、2021年3月期の決算書をみると、有利子負債は約16,180億円、金融費用は約300億円、即ちざっくりいうと金利1.8%で借入を実施しているということである。これは、何を意味するのかというと、1.8%の確率で返済不能となると金融機関が判断しているということである(リスクフリーレートを0%と想定)。

この会社が支払条件を1年間猶予してほしいというのであれば、最低限、リスクに応じた金利を請求するべきである。


コモディティ化したレッドオーシャンではコストorスピードしか勝ちパターンがない

ファイナンス的な観点から若干論点がずれるが、スピードの重要性にも触れておこう。

BCGのパートナーであったジョージ・ストークJrが提唱した「タイムベース競争戦略―競争優位の新たな源泉 時間」に詳しい。競争優位の源泉は時間という資源をいかに有効活用したのかで決まるのである。ぼんやりしていると(時間を無駄にしていると)競争優位性を失うことになる。

しかしながら、ただただ頑張るというだけでは、日本よりも更にコストの安い国との消耗戦となり、渦中にいる人々は辟易してしまう。

素早くビジネスを回すためには、やはりキャッシュが必要である。顕著な例としては、1からビジネスを作るのではなくM&Aで時間を買うというケースが有名である。

人間はどうしても直近で起こっていることから過去をリニアで想像してしまう。昨今のウィルス感染者数を見ても分かる通り、指数関数的な変化を想像することが素直にできない考え方をしてしまうのである。時間経過を甘く見るとビジネス上での成功は難しいだろう。


組織は格差を生む

スピード経営でいうと、リーダーシップという観点も論点になり得る。

効率的に、スピーディーに組織を運営するためには、リーダーが期待される役割は大きい。

リーダーは責任が重い。別の言葉で言い換えるとリスクが大きい。企業組織に置き換えるのであれば、上位職になるほど意思決定の裁量は大きくなる。その決定の責任を取るという事は、自分の職を失うということに繋がるので、求めるリターンも大きくなり、上位職になるほど高い報酬が得られるというのは、そのような背景である。

企業、チームなどのマネジメントができる優秀な人ほど裕福になり、そうでない人は安く買いたたかれる(搾取される側)。グローバル化+AIなどの技術の進展がその大きな理由であろう。

ちゃんと考えて、方向性を迅速に(競合に負けないスピード感で)組織を回していけるのは価値が高い営みである。そういうことがちゃんとデキる人が報酬を得られる。なぜなら、有効性x希少性で価値が決まるのが世の常であるからである。



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