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「本棚にある本をすべて見せてください」というメッセージが来た


【⚠️差別表現やセンシティブな表現を含む記事です】



 最近、とあるメッセージをいただいた。


「本棚にある本をすべて見せてください」


 当初、そのメッセージをもらった時は「あら〜、あたいがどんな本読んでるか知りたいだなんて……めちゃくちゃあたいのファンじゃん❤️」って照れた。北半球1美しいあたいであっても照れるときは照れる。

 また、そこそこ読書が好きなあたいとしても、確かに興味のある人の本棚って気になるよなぁって共感したし、そもそも他人の本棚を見る機会って少ないから見てみたいと思うよな、と頷いた。

 ただしDMには個別に返信していないので、今後ツイートなどで「#あなたの本棚を見せて」みたいなハッシュタグを作って、それを活用してみんなで本棚を公開する機会を取り持とうかと考えた。あたいだって見せるだけじゃなくて、みんなの本棚が見てみたいし、どんな本が読まれているのかを知りたい。

 とにかくあたいはメッセージをもらった時にワクワクしたんや。読書家たちが蔵書を発表して、オススメの本を教え合うことで知見を広めたり、同じ本が好きなもん同士で交流したり、むかし読書に興じていた人や、これから本でも読もうかと考えたりしている人が気軽に本の世界に触れられるきっかけになれば、作家としても本読みとしてもなんか嬉しいから。

 だから単純にその言葉の意図を《読書好きによるもの》だと安易に受け止めて、お気楽にそんな企画をしようとしていた。

 そしたらちょうど同時期に別の方から、


とあるジェンダー論・フェミニズム関連の本の著者がトランスジェンダー差別を行なっています。自身はその本を読んでいないので中身は確認できていませんが、そういった著者の本をジェンダーに関する発信をしているあなたが所持していた場合、フォロワーの方々やLGBT界隈、また出版社の信用を大きく裏切ることになります。この件についてはあなたにも作家として、いちLGBTとしても見解を示すことと、フォロワーに対して該当本への注意喚起、トランス差別に反対するという連帯の表明、LGBT系書籍の著者として今後の発信の姿勢をきっちりと示すなどの説明責任があると思います(メッセージ原文要約)」


 という指摘が届いていた。

 書かれた内容はLGBT界隈をよく知らない人からすれば性急な要求に見えるかもしれない。あたいも最初はちょっと狼狽えた。けれど差別で人は死ぬし、差別の矢面に立ちやすい属性からすれば世間の差別心の萌芽は死活問題だ。だから心境や背景を思えばそれは真摯な言葉で、悲痛な気持ちで書かれた請願だったという風にもあたいには見えた。

 ただ、あたいがそのトランス差別の作家の件について言及していないことを「無視するのはいじめっ子と同じ。反差別の本を書いてるのにこの問題に言及しないのはマイノリティを金儲けにしてると同義として軽蔑するし、もちぎ氏が関係している出版社などにも抗議させていただく」という論旨の落ち度として指摘してあった。その文章には鬼気迫るものがあった。

 その意見に対しては「毎日SNSを隅々まで見ているわけじゃないので、どんな問題が起きているか認知していなかった」と弁解したくもなった。実際あたいは呟くときにしかTwitterのアプリを開いていないし、トレンドもあまり追わない。

 でもそういう風に返すのは「それは開き直り。自身が差別を受けにくい男性という性別だから享受している特権ですよ」と指摘されている男性の事例を以前に見たことがあるので、やめておいた。今すべきなのは過去にどういう状態かだったという言い訳よりも、その論点を認知した現在これからどうするかという今後の意思の表明だろうと判断した。

 ただ、このメッセージを送ってくれたアカウントも捨て垢からじゃなくて、どうやら以前からあたいのことをフォローしてくれている方で、明確にトランスジェンダー差別に反対を表明している方からのご指摘だったのが救いだった。その分、メッセージの誠実さが十二分に伝わってきた。胡散臭いアカウントのあたいに、立場や主義を示したアカウントからDMを送ってくれたことには感謝しかない。

 また、この時にようやくあたいは「本棚を見せてください」というメッセージが、あたいがどういう本を読んでいるのか気になったのではなく、あたいが差別的だと指摘されている本を読んでいるのかどうかを明確にしておく意図があったのだと気づいた。



 実際に問題だとされている書籍の評判をTwitterで調べてみると、確かに随分前からジェンダー系のクラスタでは話題になっていたようだ。内容は《表現や主張がトランス差別かどうか》ということ。

 トランスジェンダーとフェミニズムの争点は明瞭だけど、切迫したものだ。それは身体的な性別であるセックスと、文化的な性別であるジェンダーの両者の中でもとりわけ《身体性別に関わる生活圏の話》に関係している。つまり明確に生活の保障や、差別・命の問題に直結している。

 ここらへんは今までジェンダー系の話題を見ていない人にとっては馴染みが薄く、そして専門用語や争点の複雑さに尻込みしてしまうかもしれないけれど、実態は至極単純で《女性が獲得してきた人間としての尊厳と、安全の尊重》というものが論われているのだ。

 たとえば性被害から免れるために設立された女性スペースの安全性について。またそういったスペースや、スポーツなどの性区分のある分野を身体性別で分けることは正当な区別ではないのか。性別適合手術前のトランスジェンダーを明確に区分するようにするのは差別なのか、といったことなど、女性の権利の簒奪を防ぐための論争となっている。そしてこの《女性》というものの捉え方の範疇に、トランスジェンダー女性を含むかどうかというのも主張によって異なり二分化しているようだった。

 ただ、全てのトランスジェンダーが性犯罪者のように扱われる差別に発展しないように、建設的に慎重な意見を出しているフェミニストやトランスアライの方々もいるので、極端な意見ばかりでは無いという印象もあった。あたいが関わってきたLGBT業界にいるトランスジェンダーの方々とのリアルに乖離しない実態的な内容も窺えることはあった。(たとえば多くのトランスジェンダーがすでに性別の移行に合わせて生活していて社会に存在している、というような話など)


 けれど調べているうちに、その論争のさなかに、

「そういえばもちぎもトランスジェンダー系の発信をしていた。あいつは批判しないのか」

「あいつもトランス差別反対で、身体男性を擁護してるミソジニスト(女性差別者)だ」

「いいや、あいつはトランスジェンダー差別者だ」

 という風に、それぞれの立場からあたいの名前や漫画など発信物を引用し、あたいも炎上していることに気づいた。

 ちなみに身体男性とは、おそらく法的な性別移行前のトランスジェンダー女性のことを指すのだと思う。あるいは手術をしていて戸籍を変更していても、染色体の違いや筋肉量を指し示して「手術しても身体は男性だ」と表現している人もいるようだった。あたいが知っているトランス女性の「手術しても元男だから、アタシの場合は骨格が気になっちゃうんよね」と話していたことにも内容は一部合致するけれど、ニュアンスや性質は当事者の語るものとは違うと思っている。

 とにかく、今までも「差別者の〇〇と仲がいいみたいだ」「炎上した☆☆と同じイベントに出ていた」「ミソジニスト(女性差別者)の□□をフォローしている」といった理由で炎上したり殺害予告されることがあったあたいだけれども、まさか「本を読んでいるかもしれない」という理由から今までの投稿物も再燃するかたちで炎上して論争の素材として論われているーーとは思わなかったので寝耳に水だった。


 というわけで今回の記事のテーマとして選び、言及することにした。炎上するなら勝手に燃えるんじゃなくて、ちゃんと自分の言葉や立場を表明して、明確に批判される点を作って燃えた方が建設的だ。もちろん炎上したいわけでも、差別に加担したいわけでもないし、開き直って自己の発信内容を省みずに、いただいた意見を無視することもしない。

 なのでここでは「無視せずに言及し、なおかつあらゆる差別に反対すると示し、その上であたいの意見を表明したい」ということを無料部分でだけでも書き表しておきたい。

 ここからはマガジン購読者の方と共に考えることにするけれど、「差別者の本を読むことは、差別に加担することなのか」「そもそも本件はどういった差別なのか」「それが差別的な本であると他人から指摘され、そのまま受け止めていいものなのかということをあたい個人の見解で、あたいの言葉で書き残したい。


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