見出し画像

「毒親会」というグループを抜けた話。



 これはまだあたいが未成年で、ゲイ風俗で働いていた時の話。
 家から飛び出して上京した時の、お話だ。


 その頃のあたいはゲイ風俗の控え室で、指名が始まるまでの時間を待ちながら受験勉強したり、大人のおもちゃを壁に投げつけたり、同僚ボーイと世間話したりして過ごしていることが多かった。

 地方出身でゲイの友人が今までに一人しかいなかったあたいにとって、同年代の様々なゲイやバイ等と喋る機会があんまり新鮮で楽しくて、相手が誰であっても会話に花を咲かせようと積極的に人の輪に入っていた。たしか一番初めに話したボーイは薬学部中退で毎日ファミチキを食べてる謎のゲイだった。


 もちろんはじめは、いくら同年代のボーイであっても、それだけで相手がどんな立場でどんな事情を持つ人間かも分からないので、当たり障りの無い出身地や、自身のセクシュアリティ関連だったり、タイプの男性がどんなものなのかについてだけに絞って会話した。まるで合コンの手探りな導入のようやね。

 一般業界とは違ってゲイの世界ではゲイが集まる場所であるがゆえに性事情が共通の話題になりがちで、初経験だとかタイプのことがアイスブレイクにちょうどいい。

 もちろんゲイ以外のバイセクシャルやノンケ(異性愛者)のボーイもいたけども、ゲイ以外の人間がゲイ業界で働くってこともまた話題の切り口として盛り上がったからよかった。


 ただ、暗黙の了解で本名や個人情報に関わるプライベートなことは、よっぽどで無い限り避けていた。ボーイ同士で話したことがうっかりとお客様に漏れてしまっても怖いからだ。

 ゲイ(や男性経験がある男性)であり男性相手の風俗という二重の世間体の悪さから、ボーイ達はみな、表の世界での立場があるほどに個人情報の漏洩(身バレ)を恐れていたと思う。セックスワーカー&性的少数派のダブルマイノリティなんて、堂々と胸を張れるスペースもまだ世間には無い。

 また、ボーイ同士であまりにも仲良くしていても「トラブルのもとにもなりかねない」と店長や先輩ボーイから指導されていたし、ボーイ達も各々で仲良くしすぎないように努めていた雰囲気があったと思う。

 女性が働く異性愛者向けの一般風俗店とは違い、内部の従業員達もほとんどがゲイ同士であるがゆえに、ボーイ同士で色恋沙汰にも発展して問題になることもあったし、そもそも指名を奪い合うライバルでもあったので、程よい距離感の方がちょうどよかったのだ。

 そして、当たり障りない会話のうちには《どうしてゲイ風俗で働き始めたか》ということについても触れることが多かった。


 もちろん風俗で働く理由なんてお金に決まってる。

 でも、お金が必要になる背景は人によって異なる。
 あたいは家出して生活するために、そして受験をするためだった。だからゲイ風俗にはその為にも《勤務時間の自由さ》と《給料での瞬間的な爆発力》を期待して入ってきたと答えた。

 すると丁度話していたボーイが食いついてきたのは、あたいの進学や独り立ちの事情についてではなく、


「あんた家出したんだ。うちも家庭環境が悪かったから家出したよ。同じだね〜」

 ということだった。


 それからゲイ風俗に在籍し続けて馴染んでいくにつれて、様々な身の上を抱える子達と知り合えたけれども、毎日長時間出勤してつるんでいたボーイ達は、あたいも含めて示し合わせたかのように《家にいたくない人間》だったり、《家庭環境の悪い人間たち》ばかりで構成されていった。

 決して家庭環境が悪いからゲイやバイセクシャルになっただとか、風俗という業界に飛び込むようになっただとかは言わないし、そういう子達がみんな日陰ものであるような偏見を助長したいわけではない。そしてもちろんうちらの集団も家庭環境の悪さという共通点だけで繋がった関係性でもないし、同類だから仲良くなれるとも思わない。

 しかし、家や自宅にいたがらず、ゲイ風俗という長居すべきじゃない場所であろうと長時間出勤して、その控え室に入り浸ることの遠因になっていたのは、それぞれが抱える家庭環境の悪さゆえのことだろうとは思う。帰る場所がある人は、きちんと家に帰る。これはゲイ風俗卒業後にゲイバーで働いていても感じたことだった。


 というわけでここからこの記事のテーマと本題に入るで。


 そんなあたいら居座り続けるボーイ達で、一時期はよくご飯を食べに行くようになった。

 その時のグループの名前は便宜上「毒親会」ということになった。

 当初はボーイ七人くらいの集まりで、そのことをゲイ業界のオネェ文化に則った悪ふざけで「婦人会」だとか「〇〇店(ゲイ風俗の名前)婦人クラブ」みたいな名前でお互い言い合っていた記憶がある。先輩ゲイが決めた名前だった。

 しかし全員がスマホに移行し、LINEで連絡するようになってからはいつしか「毒親会」というグループ名に整えられた。

 そこからのメンバーはほぼ七人。一人は時折病んだりしてアカウントを消したり出勤を控えたりすることが多い子だったので、六人が常だった。また、メンバーの一人はバイセクシャルだと名乗ってはいたが、まぁ全員がゲイだと言ってもよかったと思う。年齢は20歳から28歳くらいまでいたはずだけど、正直のところ実年齢も本名もわからない。そんなメンツだった。

 みんないい子だった。でもあたいはそのグループを抜けた。

 抜けざるを得ない出来事を垣間見て、身も心も疲弊して逃げた、と言ってもいい。

 できる限り冷静に、その経緯を温かい目で語っていく。



ここから先は

6,633字

ここはあなたの宿であり、別荘であり、療養地。 あたいが毎月4本以上の文章を温泉のようにドバドバと湧かせて、かけながす。 内容はさまざまな思…

今ならあたいの投げキッス付きよ👄