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ミステリー小説ロンドの旅Chap4.ユールマラの事件5.痕跡

エレベーターホールや通路とは異なり中は煌々としていた。少し先には受付らしきものがあり、肌は白く髪は金髪ショート、明るめのグレーのスーツに身を包み、黒のストレートチップを履いた男性が1人佇んでいる。2人は彼の場所まで向かった。

 こんなに厳重なセキュリティは一体何のために…なんだか異様だな〜

 …。

歩きながら小声で呟いた。室外とは一変して壁紙や扉は白基調で明るい。気温もほどよい温度に保たれていた。社長の趣味なのか、このだだ広い空間には大きな観葉植物が随所に配置され、壁には数々の名画がかけられている。

 ようこそお越しくださいました。

 こんにちは。突然のご訪問をご容赦ください。

 とんでもございません。社長はぜひ幸引様とお会いしたいと申しております。どうぞこちらへ。

付いていくと目の前には生体認証の装置が見える。男性は立ち止まり、自分の静脈、指紋、虹彩を機械に認識させると、すぐ脇の扉が無音で開いた。そのまま彼と共に部屋を進むと、いかにも重役の個室らしい豪勢で立派な木製の扉にたどり着く。その前で立ち止まり、5回コンコンコンコンコンと彼がノックすると、中に入れという声が聞こえた。指示を確認してから、彼は明らかに重たそうな扉の取っ手を両手で持ち、静かに開けた。

 どうぞお入りください。

 失礼します。

豪華絢爛、絢爛豪華。室内の様子を表すにはまさにピッタリの言葉だ。内装すべてが金一色、彼が身につけている衣服は綾羅錦繍、飾られている絵画や置かれている家具は億はくだらない代物である。エレベーターを降りてからというもの、ずっと不思議な空間が続き、まるで異世界に迷い込んだような気分だ。ツッコミどころは満載だが本来の目的を見失ってはならない。単刀直入に話しすぐ本題へ入ろう。

 おお、よく来てくださった幸引さん。待っていましたよ。鍛鋸(かのこ)さんには大変お世話になりました。

 …ま、まさか、ソナ…弊社の社長とお話に?

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