『サバカン SABAKAN』分かりやすいのに趣深い映画
映画『サバカン SABAKAN』を観てきました。
そんなに映画を見る方ではないのですが、たまたま見かけた映画レビューがこぞってみんな良くて、ポスターが可愛くて、ちょうどいい上映時間だったので、見ることにしました。
ひとことでこの映画を語るなら「あの夏の思い出」。
1986年の長崎のちいさな港町。2人の男の子が冒険しながらいちから友情を育んで、そしてほんのすこし大人になった”あの”夏休みを、ていねいにていねいに映し取った映画でした。
そこまで壮大なネタバレはないとおもいますが、観た人が共感してもらえたら嬉しいなという記事です。
「分かりやすい」と「趣深い」の共存
どの順番で書こうかなと迷ったのですが、私がこの映画を見て最も感じたことから先に。ちょっと漠然とした話なので、うまく伝わるのか自信がないのですが。
映画の中身について詳しいお気に入りのポイントなどは、最後にまとめて書こうと思います。
この映画、本当にストーリーは単純明快です。本当に分かりやすい。「考えさせられる」とか「あの場面は何を意味していたのか」みたいなものがない。いや、正確に言うと、そういう箇所もあるんだけど、そこをスルーしても心になにかじんわりと残りしつつ、でも真っ当に楽しめるように作られている。と思いました。
映画とかのエンターテインメントって、大きく分けると2種類だと私は考えています。
ひとつが、大衆的なとにかく「分かりやすくて面白い!」もの。
もうひとつが、いろんな解釈が生まれやすい「趣深い、一筋縄ではいかない」もの。
私のイメージだと、前者がディズニー映画で、後者がジブリ映画なかんじです。
ちなみに補足しておくと、前者も深みがないわけでは決してなく、どちらも、観ればみるほど気付くことは増えていくのだと思っています。ただ、体感として、初手で受け取ったときに、「分かりやすい!」と感じるか「趣深い!」と感じるかというところの違いです。
で、この「サバカン」が非常に不思議な作品に感じたのが、「分かりやすい!」のに「趣深い」が共存してる感覚が私の中にあったんですよね。
全体的なストーリーとしては、初めに言った通り単純明快。子供が大人になる過程を描いていて、それを通して友情だったり懐かしさだったり出会いと別れだったりがとても分かりやすく表現されている。ここで笑ってね!ここで泣いてね!ここでほっこりしてね!というのが分かりやすい。次はこう来るんだろうという予測も比較的しやすい。「え?こんな展開あり?」と自分が置いていかれる感覚も少ない。(この詳細、別記事にします)
↓こっちの記事は壮大にネタバレしますので、ご了承ください。
でもそういう分かりやすすぎるものは、時に「ありきたりだなー」とつまらなく感じたりするのですが、この映画の不思議なところはストーリーの進め方や手法は確実に定石を踏んでいるのに、なぜか心の中にちょっとずつふわっとしたものが残っていく感覚があったんです。
それは、この映画全体に漂う雰囲気がそうさせているのであり、その雰囲気を作るのはどれだけ難しいだろう、と。この雰囲気作りは、作り手の持っている感覚がそうさせているのであって、意図的にここをこうしてどうして、という風にはなかなかできない。きっとこの感覚こそが、作る人・表現者の持つ才能なんだろうな、としみじみ感じました。そしてその「作りたい雰囲気」を役者とスタッフがとても的確に察知して、その世界観を一緒に積み上げて行っているな、という感覚を強く抱きました。
この、映画としてエンターテインメントとして、楽しみ方の中道を行ってる感覚が、私の中でとても興味深い映画でした。
さて!あとは分かりやすいざくっとした感想を書き連ねておきます。
なんなんだ!この懐かしさは!
この映画の舞台は1986年です。私自身はそれより後に生まれてる世代なんですが、なーんでこんなにノスタルジーを感じるのか!!
私は映画論みたいなの全くわからないですが、フレームへの映像の収め方も懐かしさを増長させている気がした!わからないですが!
あと、なんで懐かしいものってこんなに素敵に感じるんでしょうか。
しかもこの映画のいいところは、懐かしさに浸りつつ、この時代を思い出している現代に生きる人達も、これからちょっと好転していくのかな、という予感を持たせてるところ。昔はよかったなあで終わらず、かといって、今も今のよさがあるんだよ〜、が押し付けがましくなく、ちょうどいい感じで寄り添ってくれた気がします。
小劇団の雰囲気
めっちゃ小劇団味がありましたねえ〜。私は好きです、このノリ。
雑貨屋の意味わからん夫婦とか、小学生に本気でガン飛ばすヤンキーとか、下ネタを惜しげも無く言うかんじとか。
昭和のニュアンス出すために、親子が日常的に頭引っ叩くとことか何度も出てくるんですけど、あれもなんか小劇場的なノリで楽しめる。がちで痛そうな叩き方してるところがまたいい(笑)脳震盪なるんちゃうか、今の時代に上映して大丈夫なんか、と心配になる感じ。ちょっとイってる感じ。
脇を固める俳優陣
みんな本当にいい。場面の空気を作るのが上手すぎる。良すぎて特に語るまでもない感じ。すみません。
子供たちのすごさ
あと、ほんとに、とにかく、子供たちがすげえ。
演技が上手いとかじゃなくて、なんだろう。令和を生きる子供たちがこの芝居ができるのか。っていう感覚です。主役の2人はもちろんなんですが、クラスのみんなも。家族のみんなも。演技という視点だと、もっと上手い子もいるような気がするんですけど、この映画に出ていた子供たちは、この1986年の長崎のちいさな港町に、本当に生きてるなあって。
キン消しを必死に集めて、帰り道ジャンケンしながらランドセル押し付け合って、貧乏を平気で笑いものにして。
今いろいろ気を付けて発言しないといけない時代で、この感じを、ここまでリアルに子供たちはできるんだと。で、もちろんそれをあくまでお芝居として、「こういう時代もあった」と理解しながらやってるんだろうな、と思うと、子供ってすごいよなあ、と。
「今時の子は〜」とか、気軽に言えないな、と。だって彼らは、令和という時代を生きながら、こんなにも過去の時代もリアルに体現できてる。ってことは、きちんと過去の時代の文脈も理解してるんだよなあ、と思わされたのでした。
ま、それもいっか。
語ると長くなる悪い癖です。
ちなみにベタ褒めしてますが、つっこみたい部分もかなりありました(笑)
貧乏な子の設定のたけちゃんが妙に高価そうなリュック背負ってたり、そもそもたけちゃん家の設定かなり無理あるよなと思ったり、あの距離の荒波の海を子供だけで泳ぐのはさすがにいろいろ無理があるだろうとか、2人が冒険の途中出会ったあのカップルはなんなんだ、とかetc…
まあでも、それもいっか、と思えるくらいには、その他のところがよかった映画です。私にとって。観てよかった。
よければこちらも読んでみてください。こちらはネタバレ含む記事です。
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