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通院がいやになったとき 主治医が信じられなくなったとき 読んでほしい患者11人の証言

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心が折れて寛解するまえに治療を投げ出した数多くの人を長期にわたり聞き取りの専門家として取材してきました。このうち11名が経験したことや医療に対しての意見を紹介します。あなたが求めているのは思い通りの治療法でしょうか、意のままになる医師でしょうか。

聞き取り・構成・タイトル写真
加藤文

医療に疑いを抱いてもいい

 いったい何のために病院通いをしているのだろうか、こんな治療を続けて幸せになれるのだろうかと心の迷いを拭い去れない人がいます。

 一、二回の通院で治る病気でさえ、医師にさまざまなことを感じます。まして数週間、一年、数年と病院に通うなら、主治医だけでなく医療に疑問を抱くのは何ら不思議なことではありません。寛解するまえに治療を投げ出した人々に話を聞くと疑問を抱くだけでなく、不安になり、嘆いたり、怒ったり、絶望を経験していました。

 私も最初の受診、ひどく悪化して別の病院で検査を受けたものの誤診、長年にわたる無駄な治療、院長急病のため大学病院を紹介されて再び病名が変わり治療──という経験をし、この十数年にわたる年月は不安と絶望の繰り返しでした。

 医師や医療に疑いをもったあなたが受けていたのは公的医療保険が適用される標準治療だったことでしょう。標準治療とは科学的根拠に基づいた治療で、現在利用できる最良の治療です。でも医師の態度が許せなかったり、出口が見えないいつまでも続く治療に疲れはてたとき、受けている治療が「最良」なものと思えなくなってもあたりまえです。こうした気持ちを、私は否定しようとは思いません。

 次のような事例がありました。

「知り合いから紹介された歯科医の先生に治療してもらったら、症状や歯垢がどのくらいあったかまで漏れてたんです。その人と会ったときニヤニヤされて『歯垢を取るの、痛かったんだって』と言われたとき、頭のなかが真っ白になりました」

 治療内容を第三者に漏らす医療従事者は論外です。また次のような声もあります。

「カルテを見て『このまえ風邪できたね。治りましたと報告にこなかったな』と怒られてわけがわからなくて怖くなりました」

「『もうすぐ閉経するんじゃないか』と笑われました。34歳(の私に)に言う神経が理解できない」

 信頼関係が崩壊したままでは治療を続けられません。医療機関の相談室や全国に380箇所以上設置されている『医療安全支援センター』に苦情を申し立ててください。各地の医療安全支援センターへの連絡先は以下のページで探し出すことができます。

 または最寄りの『保健所』に「医療相談」をしてください。


 相談で解決できないなら転院するほかありません。

 しかし、標準治療を投げ出して幸福になった例を私はひとつも知りません。通常の医療ではないものに「これなら治る」と言わて飛びついて束の間の幸福感を得ても、そのあとにやってきたものは後悔だったという例ばかりを目の当たりにしてきました。


医師とのすれちがい

 医師だけでなく医療そのものに疑問に抱くきっかけとして、次のような患者の声がありました。

「心療内科に長くかかっていると、診察、お薬出しときますねの無限ループで『いつ終わるの』とずっと思っていました。医師からはこうなったら終わりという最終目標も提示されない」

 いっぽう医師は「医療には不確実性がある」と言います。

 医療とは不確実なもので、予測できない事態が発生したり、かならずいつまでに治ると断言できず、治療には大小の差はあってもリスクがともないます。だから医師は「ぜったい」と断言しません。

  医師が断言しないのはこころもとないかもしれませんが、銀行や証券会社もぜったい儲かるとは言いません。ぜったい儲かる、ぜったい損をしない、ぜったい大丈夫と断言するのは怪しい誘いをかけてくる人たちばかりです。

 ぜったいと断言できない医師たちは、そのうえで説明を尽くすはずです。しかし次のように証言する患者がいました。

「不確実性について、初診のときから一度も説明を受けていません」

「最初に『こうやっていきましょう』と医師に言われたら何回か通ってよくなると思いませんか。『いつまで続けるんですか』と聞かなかった私が悪いのですか。聞いたら何かが変わったのでしょうか」

「(高齢の)父親の説明が要領を得ない見当ちがいなもので、医師に暴言を吐いたのは悪いことです。でも若者だったとしても説明が難しい内容でした。なぜ聞かれているのか意図がわからなくて、試されているような気がして私でも答えにくかったです」

「(調子や試みていることを聞かれて)参禅して気持ちを整えようとしたことを伝えると、『禅ね、そう』と鼻で笑われました」

「ふたつ選択肢を出されたとき、選ばせたくないほうを選んでしまったみたいで、先生がすごく不機嫌になって『嫌だったら、もうやめますか』といった感じの突き放す態度をとられてしまいました」

 医師といっても一人ひとりさまざまです。とはいえ「医師にとっての常識やルーチン」が患者には理解できないためすれちがいが発生しています。また医師にとって診察室は日常ですが、患者にとってはきわめて非日常の空間なのも関係の非対称性に拍車をかけています。

 すれちがいの原因を整理してみましょう。
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1)患者は医療について医師とくらべて圧倒的に知識量と経験量が少ない。
2)患者は医師とのコミュニケーションの取り方を知らない。
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1)は、患者が医師にとっての常識やルーチンを理解できないのを、医師側が忘れたり部分的に見落としていることが問題です。また患者は何を質問したり確認したらよいかすらわからないときがあるのを意味します。
2)は、患者に思うものがあっても、医師に対してどこまで要望してよいのか、どのような言葉で伝えたらよいのかわからないことが問題です。患者は要望や不満を言葉にできないまま溜め込んでいる可能性があるのを意味します。

 医師は説明や質問をしたら、とうぜん患者から相応の反応があると思っています。しかし患者は医師に要求や口答えしてはいけないと思い込んだり、思いをうまく言葉にできないままになりがちです。こうして医師と患者の間でコミュニケーションが機能しないまま治療が進んで行きます。

 たとえば抗うつ薬が体質にあわないと感じて不快感を訴える患者に、主治医が「2年間飲み続けなければ70%の人が再発する」と言うのみで、最後は「逆ギレぎみ」に投薬が打ち切られいきなり断薬状態にされた例がありました。患者側からの証言だけでは全容は把握できませんが、コミュニケーションが機能していなかったのはまちがいありません。患者は耐えがたい症状を取り除けないとうつ病の治療どころではないと訴えているのに対し、医師は事実を伝えれば患者が納得をすると考えていたのかもしれませんが、要望と解決策が噛み合っていません。

 すれちがいのまま医師とのコミュニケーションが平行線をたどり、自分の命や健康なのに「こうして治したい」と願う気持ちがないがしろにされていると感じる人がかなりいます。前述のうつ病を患った患者は標準治療を見限って、抗うつ薬ではなくビタミン剤などを使う治療に向かいました。この独自の治療法を行う医師は「1年後には良くなっているだろう。ビタミンとプロティンで治る例を何例も見ている。こっちがビックリする」と言ったそうです。

 次の章は「絶対これで治る」と断言する治療法がどのようなものか証言をもとに紹介します。


ニセ医療の入り口と実態

 ビタミンとプロティンで治ると断言されたものの、うつ病がまったく改善しないばかりか体調まで悪化し、この患者は「健康への危機感」を覚えて半年間続けた治療をやめました。この患者が試みたのは、科学的・医学的根拠に基づかないか検証のしようがない治療法で、それゆえにニセ医療と分類されるものです。

 探し出してきた「こうして治したい」にかなう治療法を、“ニセ医療”と言われるのは腹が立つ人がいるかもしれません。何人もの人が治っている、と期待が高まるいっぽうかもしれません。

 しかしアトピー性皮膚炎に脱ステロイドを試して「取り返しがつかなくなった」と後悔した人は次のように言っています。

「その頃は『視野が狭くなってる』と言われても無視したと思います。視野が狭くなっていたから、無視したり反発したことがたくさんありました」

 この人が助けを求めたとき、医師は「アトピーは治療をやめても自然によくなる場合がある。でも誰かがよくなったからといって全員が自然寛解するとは限らない」と説明したそうです。

 脱ステロイドに限らず紹介されるのはうまくいっている例だけで、これがニセ医療の入り口です。自然寛解のほか、悪化して離脱した人が批判しても無視されたり、死人に口なしといったケースもあります。

 ネット上のユーザーグループは「効き目がある」と称賛の声であふれていますが、

「誰かが(ユーザーグループに)姿を見せなくなって、重症化したり亡くなったかもと察していても、表面的にはスルーされてました。(どうしてですか、という問いに)自分たちが選んだ治療法が、まちがっていると考えたくなかったです」

「悪くなったら好転反応って言います」


「いい仲間関係のところもあると思いますが、ほとんど(治療法の)経験がない人がこれだけ効いたとか、何をどれくらい飲めとかアドバイスしていても、力関係で何も言えませんでした」

と実態を証言する人がいます。またニセ医療を行なっている医師については次のような証言がありました。恫喝、何もしない、責任放棄と責任転嫁の例を見てみましょう。

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