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参政党とインフルエンサー選挙 その結果と行く末 【短信】

参政党とは何か、支持者はどこから、なぜやってきたのか。支持率が2%台から0.5%まで下落して、何が支持されているのかはっきりしてきました。参政党はインフルエンサーとして選挙を戦い、インフルエンサーとして感情を過剰で過激に増幅して社会にぶつけるところが評価されているようです。

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加藤文

いま参政党はどうなっているのか

 参院選前から参政党と支持者の動向見守ってきた。前回9月3日の記事で「マニアックすぎてついて行けない」と支持を撤回する者が登場したのを伝えた。

 この証言者は参政党のマニアックさとして武田邦彦氏の「セックスのとき女が積極的だと奇形児が生まれやすい」とする発言を例に挙げた。そして、日本人の手に日本を取り戻す党だったはずなのに気持ち悪いだけの存在になってしまったと言っている。

 彼を取材した8月、参政党はさまざまな世論調査でれいわ新選組と並ぶ2%程度の支持率があるとされただけでなく、公明党や国民民主党の「支持率を上回る」かもしれないと報じるメディアさえあった(ただしNHKの世論調査では0.9%と支持率がかなり低かった)。

 その後、9月になると参政党はれいわ新選組ともども1.5%前後に支持率を下げ、支持者が去っていく様子が数字に表れ始めた。さらに10月になると両党の支持率は0.5%程度まで下落した。

 支持離れについて、次のような証言があった。

 「自民支持でも自民の全部を支持している人は少ないと思う。このように参政党に興味を持っていた母だったが、吉野敏明氏のクリニックの騒動や陰謀論色が強くなることに嫌気がさしたみたいだ」

 「目立っていたのが参政党だったから投票しただけで、いまはどうでもいい」

 また、組織の秩序を疑う声もある。

 「いろいろな勧誘がはげしくなって党も黙認状態だったので、これは変だと思ったし怖くなった」

 彼らが去り、参政党を疑問なく受けいれられる支持者が残ったのだ。


現実と噛み合っていない参政党を支持する人々

 「もし神谷宗幣が国会で動きを見せていたら、支持を続けていたと思う」

 参政党を見限った人々は参政党の政策実現能力を疑い、党も議員も国政や現実と噛み合っていないと批判している。参政党が噛み合っていない「現実」の例として円安、物価、電気代の高騰、台湾有事の懸念、世界情勢などが彼らから挙げられた。

 批判を集約すると以下のようになる。参政党は少数政党ゆえに国会で質疑ができず存在感を示せない。国会質疑ができないなら質問主意書を提出するほかないが、会派を組んだり他党と協調するなどして公約や主張を実現するのが少数派の常道だ。こうした取り組みがないなら、集会やSNSで威勢がよいだけの政党で終わる。これでどうやって政策を実現させようとしているのか、市議会選など地方で勢いを見せてはいるが党の将来性は疑わしい。

 参院選が行われた7月10日、投票を終えた全国の有権者約8万人を対象にした読売新聞と日本テレビ系列の合同調査では、参政党に投票したのは若年層と子育て層が多く“「特に重視した政策」を尋ねると、参政党に投票したと答えた人では、最も多かったのは「子育て・教育政策」21%、次いで「外交・安全保障」19%、「景気・雇用」15%の順だった。”としている。こうした現実的な期待によって参政党に投票した層の中から、政策実現能力を疑問視した人々が3ヶ月かけて去っていったのだ。

 では、どのような人々が今も参政党を支持しているのだろうか。

 参政党の街宣活動や集会のほかネット上のコミュニティーに参加した元支持者が、「何かが新しそうに見えるだけで支持した人たちがいた。YouTubeのノリ、Twitterのノリでバズっていることに満足しているように見えた。いまもこのノリのままなら支持できるだろう」と語っている。

 YouTubeやTwitterのインフルエンサーを支持するノリで参政党に熱狂した人々なら、国政や現実と噛み合わない参政党に不満を抱かないのかもしれない。


インフルエンサーへの熱狂と3党

 「インフルエンサーへの支持」で連想される政治家と政党がある。山本太郎氏とれいわ新選組、立花孝志氏とN党だ。

 各党の公式SNSアカウントのフォロワー数を比較すると、議員数のわりにれいわ新選組と参政党が突出しているのがわかる。N党はフォロワー数が少なく拡がりに欠けるものの、立花孝志氏の活動の原点は動画配信やSNSにあり熱心な支持層を掴んでいる。

 インフルエンサーとして政党や議員は何を期待されているのだろうか。

 参院選前にれいわ新選組から参政党へ支持政党を変える者がいたように、山本太郎氏やれいわ新選組に熱狂したのは反原発原理主義者だけではない。2012年から追跡観察した805件のアカウントと周囲の様子から、不満や不安や怒りを紛らわせてくれると期待した層が山本太郎氏を支持していたのがわかっている。

 確固たる政治性や定見があるわけではなく、原発事故直後なら鼻血、不妊、奇形、首都壊滅といったデマを信じたり、信じていなくても拡散させた人々が、山本太郎氏やれいわ新選組支持層に流入したのだった。彼らは不安や不満、怒りといった負の感情を肯定してくれて、過剰で過激に増幅して社会にぶつけてくれるインフルエンサーを求めた。なぜならインフルエンサーの声が社会に響き渡れば自己肯定感が増すからだった。

 立花孝志氏やN党への支持も、過激さと過剰さで注目を集めるインフルエンサーへの期待でできていると言ってよい。支持者たちは、嫌いなNHKや既得権益を攻撃してくれる立花孝志氏に共感しただけでなく、憎しみ、恨み、嫉みといった感情を過剰で過激に増幅して社会にぶつけてくれるインフルエンサーとしての彼に一票を投じた。

 立花孝志氏やN党を支持する人々にとって政治とは、国を治めることや国民の生活を守るためのルールを決める活動ではない。たとえば、登院しないことを批判されたガーシーこと東谷義和氏を擁護した人々に顕著だったのが、「何が悪いのか」といった開き直った態度だった。過激さと過剰さで注目を集めることが政治家としてどのような価値に結びつくのか、これが国の運営にどのように生かされるのか、あるいは弊害をもたらすのかまったく考えられていない。

 これまでの記事で参政党支持者がどこから来たのか分析してきたが、インフルエンサーを待望する人々を加味すると、支持率2%台を記録したのち0.5%まで下落した現状は以下の図のようになっていると考えられる。

素朴/考え方などが単純で、深い検討を経ていないこと。 素朴な人/考え方などが単純で、深い検討を経ていない人。往々にして幼稚である。

 参政党は民族主義的な色彩が濃い保護主義的な反グローバリズムを掲げ、失われた30年で痛手を負い自信を失った層がまず同党に反応した。また加えて反ワクチン右派と反ワクチン陰謀論を包括する主張を過激に展開しはじめると、反ワクチン左派からインフルエンサーを待望する人々が流れ込んできた。その後、既存政党に不満がある右派、オーガニック派、スピリチュアル派、子育て層に公約が到達した。党のインフルエンサー体質に反応した「素朴なZ世代のインフルエンサー待望層」も支持に回った。

 だが既に説明した通り選挙後に支持離れが起こり、お祭り騒ぎのため支持した人々も減り、残ったのは負の感情を過激に増幅して社会にぶつけてくれる党と議員に熱狂する人々だった。彼らがYouTubeのノリ、Twitterのノリでインフルエンサーを支持して得られるものは、怒り、憎しみ、恨み、嫉み、悲しみ、苦しみ、攻撃性など負の感情を裏返しにしたポジティブな自己肯定感なのである。


インフルエンサー政党のこれから

 支持者が待望するだけでなく、参政党そのものもインフルエンサーを志向している。

 「いま神谷(宗幣)からスピード感をとったら、(主張が)とっちらかったままなのがみんなに見えてしまうかもしれない。とっちらかっているから武田みたいな発言も出てくるのだと思う」

 8月には既にこのような元支持者の声があった。

 世間に与えるインパクトが第一義のインフルエンサーにとって過激さと過剰さやスピード感と勢いは重要だが、実現性は二の次、三の次になる。これこそ参政党がマニアックさを過剰にしていった原因であり、SNSやネットメディアで威勢がよくても国政で存在感を示せない理由だ。

 参院選後に地方議員が誕生しているのだから、「新しい」「流行りもの」として参政党を発見したり支持する人たちの存在は侮り難いものがある。しかし、国政や現実と噛み合った政治活動と成果がないかぎり参政党の先行きは暗い。時代が変わろうとも、政治家はインフルエンサーではないし国会や地方議会はYouTubeやSNSとは目的がまったくちがう。 

 強い刺激のあとは、さらに過激さと過剰さがなければ党と議員の存在が陳腐化する。N党は度重なる党名変更や奇妙な選挙戦略で注目を集めようとし、ガーシーこと東谷義和氏を出馬させるまでになり自壊の引き金を引いた。

 山本太郎氏とれいわ新選組は反原発政党から普遍的な左派を目指す過程でもキワモノ戦略を脱しきれなかったどころか、インフルエンサー的スタンドプレーを続けた。そうまでしても、マルチ商法との関係を問われた宮城プリティちえ氏を処分なしとした党の決定を賛同する支持者はあまりにも少なく、支持率もまた低下している。

 インフルエンサー政党のままでは賞味期限があまりにも短いと言わざるを得ない。では反ワクチンなマニアック政党と化した参政党は、コロナ禍の終焉が見えてきたとき何を目指すのだろうか。もし参政党や参政党的な政治が根付くようなら、これはポピュリズムではなくインフルエンサー政治としか呼びようのないものが当たりまえになったことを意味する。

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参政党についての記事をまとめました。

おまけ[参政党支持者とN党支持者はどこから来たのか]


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