見出し画像

参政党はマニアックすぎてついて行けないと離れて行く人々──インタビューから

聞き取り・構成・タイトル写真
加藤文

参政党で自信を得た支持者A

 参政党とは何だろう。この疑問を解くため参政党支持者を取材してきた。

 これらの記事を掲載するたび、熱心な支持者からさまざまな反応があった。ひとつの記事に「その通り」と言う人もいれば「ちがう」と言う人もいた。そのばらつきはかなり大きく、他の政党と比較にならないのではないかと感じる。

 この実感が正しければ支持者から見た参政党像はかなり多様で、同時に参政党支持者もまた多様性にとんでいることになる。

 7月12日に公開した『参政党は「みんないい人」なぜなら「何を話しているかよくわかるから」と語る女性』に「党首の人柄にひかれて支持している。しかし参政党を茶飲み話の党とするのはまちがっている」と反応した人物を、仮にA(首都圏在住・30代・既婚男性)と呼ぶことにする。

 Aは参議院選挙で参政党に投票し、議席を獲得したことで「自分たちの力で日本を変えられると」自信を得られたという。このような彼が同党を支持するのをやめたと8月末に再びメールを送ってきた。そこで詳しく話を聞くことにした。


マニアックすぎてついて行けない

 ──参政党の何が気にくわないのか。
「参政党が気に食わないわけではなく、もうついてけなくて。マニアックすぎるんですよ。よい党とは思うんですが」

 ──マニアックというのは?
「……武田邦彦の言うことがエグイ」

 ──エグイ?
「ワクチンを打ってはいけないというのは、あの人が言うほど自分はそこまで思っていないけど、まあ話としてはあるのかなと思う。だけどセックスのとき女が積極的だと奇形児が生まれやすいというのはちがうでしょ」

 ──武田邦彦氏が言っていることはまちがっていると思うか。
「まちがってる。まちがってるだけじゃなく、参政党の名前を出した集会でしゃべっているんですけど、誰のためにしゃべっているんだろう。こういうのを聴きたい人たちが集まってくる党になっちゃった」

 ──いつから、このように感じはじめたのか。
「ここ何週間か。選挙が終わったあとですね」

 ──武田邦彦氏は東日本大震災のあと被曝についてまちがった説を主張していた。
「それは知らないんですよ。まだこっち(首都圏)にいなくて興味がなかった」

 ──騙されたという感じだろうか。
「それはないですね。ずれちゃったんですよ参政党が。武田をこのまましておくんだったら、騙されたことになるかもしれない」

 ──武田邦彦氏だけが参政党を支持できなくなった原因か。
「……」

 ──神谷宗幣氏は?
「スピード感でとばしてるというか。でも前のほうが自分にはあっていた」


日本を取り戻す参政党ではなくなった

 ──とばしている?
「コロナワクチンなんかの話をしてスピード感があっても、日本をどうするか話をしてきたときと比べたら言っていることが薄い。誰かから聞いたことをコピーしたまんま言っている感じがする。自分が支持した頃は、日本を自分たち日本人に取り戻す演説をしていたんですよ。GHQやアメリカが何をしたかとか」

 ──そこが参政党を支持する理由だったのか。
「日本を取り戻すっていう神谷さんの気持ちですね。『自虐史観』っていうものを知ったのが参政党だったんですが、反日の連中がいる党はあっても戦う党はなかったんです」

 ──だから大袈裟にワクチンの害を信じてなくても参政党を支持したのか。
「参政党はいろんな人がいるんです。みんな自分たちの日本をよくしようと戦う気持ちで集まっていた。いまもそうなんだけど、何かちがうし、とっちらかった感じで」

 ──とっちらかった感じなのは参政党? 神谷氏? 支持者?
「……少し考えさせてもらえますか」

 ──(休憩と雑談後)
「参政党は神谷さんなんで。いま神谷さんからスピード感をとったら、とっちらかったままなのがみんなに見えてしまうかもしれない。とっちらかっているから武田みたいな発言も出てくるんだと思うし、もっとめちゃくちゃに……」

 ──そんな参政党は支持を決めたときとだいぶ変わってる?
「ついてけない気がして、もう。マニアックな人たちでやってくれたらいいかな。自分の知り合いに小さいとき手術して治したっていう、まあ口の奇形なんですけど、こういう人がいて、仲がいいんですよ。この人のこと考えると、ああいったこと言わせとく参政党は無理だし。日本がよくなるとは思えない」

 ──その友だちも参政党支持だったのか。
「ちがいます。別の知り合いは、やめるって言ってますけどね。ついていけないのは同じ。こういう人はもっといるんじゃないかと感じるようになった」

 ──別の知り合いも武田邦彦氏が気に入らないのか。
「それは一緒ですけど、神谷さんがワクチンとかコロナに金を使わないで、積極財政にしろって言っても、国民民主なんかと比べると信じる人はすくないんじゃないかと(知り合いは)言ってました」

 ──信じる人がすくないと思う理由は。
「ワクチンの話とか武田と同じくらいマニアックなことばかり言っている。僕らでさえ感じているんだから、ほかの人たちはどう思いますか。参政党を無視していた人たちはもっと引くんじゃないですか」

 ──でも神谷氏の国際的な勢力がワクチンで巨大な利益を儲けているという主張は、それはそれで一貫している。
「そうだとしても、武田邦彦が女がどうこうの話をしていて、こんなの国際的な勢力と関係ないでしょ。きしょい、ほんとうに気持ち悪い。こういうのうがドン引きさせてる。日本人の手に日本を取り戻す党だったと、いま誰がどれだけ憶えているんだろう」


参政党支持の実態

 Aは参政党がマニアックすぎる党に変貌したと言う。

 読売新聞と日本テレビ系列の合同調査では、参政党に投票したのは若年層と子育て層が多く“「参院選の争点として特に重視した政策」を尋ねると、参政党に投票したと答えた人では、最も多かったのは「子育て・教育政策」21%。次いで「外交・安全保障」19%、「景気・雇用」15%の順だった。”としている。


 読売新聞は若年層と子育て世代のコロナ疲れが影響していると分析しているが、私が取材した感触では若年層は既存の保守政党が踏み込まない分野たとえば民族主義期的な意識や反ワクチンなどを結びつけた国益重視の姿勢、子育て世代はオーガニックを含む自然派と反ワクチンの関係から参政党を選択しているように思う。

 Aは「うちの奥さんが参政党の話題にのってくるようになったのは、演説でオーガニックについて話をするようになってから」と言う。筆者も参政党がオーガニックを政策にはっきり取り込んでから、街頭演説に女性たちが足を止めるようになったのを目撃している。

 こうした手応えのうえに、現在の参政党の方針がある。

 民族主義を土台にした国益重視の党是に対して、枝葉にあたる反医療、反ワクチン、自然派といった層が好む話題や政策が膨れ上がった結果が、行きすぎたマニアックさとなっているのだろう。


辛さアップを期待していたら具材の主張ばかり強くなったカレー

 Aが参政党に求めていたものは、党が真っ先に掲げた「仲間内の利益を優先する既存の政党政治では、私たちの祖先が守ってきたかけがえのない日本がダメになってしまう」という目的意識の強化だった。

 この民族主義的で国益重視の党是は、日本を取り戻すため、日本を守るためと主張するものならどのような主張も受け入れられるようにできていた。だから参政党は反ワクチンだけでなくオーガニックまでも民族主義に取り込むことができた。参政党はありとあらゆる食材を具に使っても不思議と調和するカレーのような党と言えるかもしれない。


 ところがカレーそのものがウケているのに、カレーの具材に凝りすぎて過剰にしていったら、そんなカレーが食べたいのではないと言い出す常連客が出てきた。これが参政党の現状だ。Aが求めたものはカレーで言えば辛さのアップで、民族主義的な国益重視をつきつめた政策だったのである。

 Aの証言は、参政党には具体的で現実的な政策を生み出したり、これを国政に反映させる能力がないと言っているようなものだ。

 武田邦彦氏は反マスク、反ワクチンの主張をするにとどまらず、女性の積極性と奇形児、生理と女性の寿命、女性専用車両と出生率といった党是からかけ離れた主張が悪目立ちするようになった。露出機会が多い神谷宗幣氏も、Aにとっては「日本を取り戻すとしていた頃と比較してとっちらかった感じで薄い」ことになる。

 神谷氏も武田氏も、党是に基づいた主張をしていると言うだろう。支持者たちも、これが日本を取り戻し、日本を守るために必要な戦略や戦術と思っているだろう。どのような具でも一体化できるカレー的な政党ならではの納得のしかたと言える。Aが指摘するマニアックさとは、こうしたトンデモナイ主張を真顔で信じる人たちの傾向だ。

 以前から参政党は支持者以外からトンデモない陰謀論政党と呼ばれてきたが、一部の支持者からもついていけないと言われはじめたのだ。マニアックすぎてついて行けなくなった支持者は少数かもしれない。だが、とくに参政党を支持していなかった人々は、A曰く「もっと引く」はずで支持層の拡大を難しくする。

 これから参政党がどうなるか予測は難しい。支持層の拡大が困難になるとすれば、風通しが悪くなった党はマニアックさを原因に自壊するかもしれない。

 ──奥さんは参政党に投票したのだろうか。いま奥さんは参政党をどう思っているのだろうか。
「投票は……したんじゃないですか。でも武田のことをキモがってるし、(落選した歯科医の)吉野さんのことも。さぁーっと引いたのは、僕なんかより早かったかもしれない」

 ──参政党は選挙期間中から反小麦だった。落選後も吉野敏明氏は小麦粉を食べるとがんになるとブログに書いた。武田邦彦氏の発言なみにおかしな内容だった。
「奥さんも僕も許してたっていうか、オーガニックだったらそのくらい言うだろうって感じてたかもしれない。めくじら立てるなというか。いろんなことのまやかしが選挙のあとに消えて、気持ちが引いてしまったんだと思う」


いいなと思ったら応援しよう!

加藤文宏
会って聞いて、調査して、何が起こっているか知る記事を心がけています。サポート以外にもフォローなどお気持ちのままによろしくお願いします。ご依頼ごとなど↓「クリエーターへのお問い合わせ」からどうぞ。