美少年蜥蜴【影編】/西尾維新

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読了日2020/01/06

視力と引き換えに美少年探偵団を探し当てた眉美。
島からの脱出については、困難を極めた。
なぜなら美少年探偵団に最後の依頼がされたから。

依頼を美しく達成し、島から脱出することができるのか。
美少年探偵団、最後の事件がこれにて美しく、幕を引く。

唐突に寡黙キャラだった美術の天才くんが喋る喋る。
まゆ呼ばわりは健在だったが、まゆのおかげで救われたことから敬意は欠かさない。
しかも甲斐甲斐しく、資料を失った眉美ちゃんの面倒を見てくれる。
何この紳士キャラ…最終巻では……だれ?
美脚の生足くんはなんと琵琶湖を泳いで横断し、眉美ちゃんのために眼科から薬などを持ち帰ってきてくれた。

眉美ちゃんがみんなに愛されている……!

と思ったら不良くんと先輩くんは通常営業だった。
甘やかしてはくれないらしい。
まあ、それでこそ彼らですよ。

最後の依頼にして最大の難題は、島に集う五重塔学園の生徒たちを本土に帰してくれとのこと。
一見簡単そうな依頼だが、そう容易い問題ではない。
人として誰しもが持ちうるプライドがかかわる問題である。
それも才能があると一定の評価を与えられていたために、五重塔学園に誘われてやってきた生徒たちにとっては由々しき問題である。

なんの功績も残さなかったどころか、天才とうたわれていた自分の能力が下がった状態で帰ったところで居場所がない。

居場所。

生まれてきてくれてありがとうとか、生きているだけで十分とか、よく人は言う。
ここにいてくれるだけでいいんだよ、とか。

だが実際問題、人が居場所を与えられるのは居場所に応じた何かを果たしているからだ。
病院に居場所を与えられるのは、病院という場所を形成する医師看護師免許を持っているからか、傷病を患っているからだ。
なんの理由もない健康的な人が人にいたって、居場所はないのである。
むしろなんの理由もないのに場違いな人間がいたら犯罪者扱いだってされかねない。
保育園や幼稚園に、なんの理由もない大人(男女問わず)いたら怖くない?
そういうこと。

五重塔学園に集まった無数の天才たちにも、かつて地元には居場所があったのだ。
「天才の居場所」
だがいざ帰るとなったとき、天才ではなくなった自分が帰ったとき、そこに「天才の居場所」に帰ることは許されるだろうか。
もう天才ではない凡人の自分に。
凡人の居場所になどいたこともなければ、凡人になどなり下がれない天才のプライドだけはあるのに。

居場所がない。
帰る場所がない。

ちょっと想像がつかない恐怖があると思う。

あいにく本作本文中で自分をクズ呼ばわりする主人公、瞳島眉美以下のクズ人間である私だが、そんな恐怖に襲われたら残された道は少ないように思う。

むしろ一択?

さいわいというか、なんとか今までその道に歩き出しそうになりつつも、幾度となく転んだおかげで痛みにより正常(これが正常がわからんが)な意識を取り戻し、今日まで生きてきた。

というか、クズだもの、天才の気持ちなんてわからんし。

ただ「居場所」がなくなっていく感覚というのはある。
田舎など最悪だ。
自分の過去を知る人間ばかりいて囲まれていて、そんな連中と同じになりたくないとは思っても何にもなれずに、ふつうに働いて生きている連中以下になりどんどん引き離されていくこの身の上。
自分で自分の「居場所」を狭くしている。

孤島だ。
いつか陸地を失ったら入水自殺しか道がなくなる未来も見える。
陸地が狭まらないうちに、転べる敷地があるうちに、最後の1択を早々に選択しておくべきだったかと悩む夜もある。

だが「帰る場所」とは「行ったことのある場所」ならどこでも良いのでは? と考えたらどうだろう。
「思い入れのある場所」でもいい。
なんなら「行きたい場所」でもいいかもしれない。
つまり「居場所」とは作れるのだ。

眉美ちゃんの解決策は私のような凡人以下のキングオブクズが考え出したものとは桁違いに、そして美少年探偵団の名にふさわしい美しさを持っているので「美観」とは何かを学びたいなら読んでください。

続編はなさそうか。
だが美しい幕切れである。
飛ぶ鳥は後を濁さないのだ。

最後まで美しかった美少年探偵団に拍手喝采!
これにて彼らの大団円!

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