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身の程知らずの僕と、いのちの内省を促してくるイネ

他力本願の米づくり


自然農の米作りをはじめて2年目の収穫を迎えた。『耕さない』という言葉に惹かれて、見よう見まねでの自然農の田んぼは、稲よりもそれ以外の草が地面を覆っていた。
山あいの集落の空き家だった古民家を借りて米づくりを始めたのは、5年前の春。「農業をする人が減っている。若い農業者がいない。誰か農業をやる人はいないか?」という話をもらったのがきっかけだった。山や田畑が荒れていくのが忍びなく感じていた僕は、若い人が農業をしない理由や解決策を考えるには、「ただ憂いていてはダメだ。まずは自らが住んで農家になってみよう」と決断した。
せっかく、米をつくるのに周囲の農家を真似しても面白くない。農薬や化学肥料はいつでも使うことができるので、まずはそれらに頼らないで米をつくることにした。一人でひたすら雑草をとる日々が続いた。このつらい作業をしないで済んでしまう除草剤の偉大さ実感した。腰を曲げ這いつくばるように雑草を取っていると、カエルやクモやトンボ、自分以外の生き物の気配に気づくようになった。イネに害をあたえる虫たちを食べに集まってくる生き物たち。もし僕がここで殺虫剤を使えば、きっと彼らもいなくなる。一度、薬を使ってしまえば、自分が本当に一人で米づくりをすることになってしまう。それは、なんて寂しいことなのだろう。
僕は、田んぼに集まってくる生き物たちや目に見えない菌の存在を大切にして、彼らの力を借りて米づくりをすることに決めた。

我が家のお米『諸々米』のロゴ


我田引水はご法度


集落で米づくりをするには、周囲の先輩農家との関係や田んぼを開拓して繋いできた先人たちへのリスペクトも疎かにしてはならない。田んぼにひく水は、共同で使うため『我田引水』ではなりたたない。水路補修なども共同で行う。最初、これらのことをよく理解できていなかった。失敗して迷惑をかけて、はじめて気づいた。
そう言うこともあり、隣接する田んぼの条件などを考えて、栽培方法を変えることにした。殺菌殺虫剤、肥料は使わないが除草剤だけ使う田んぼと農薬も肥料を全く使わない田んぼ。技術が伴ってくれば、いずれすべての田んぼで除草剤を使わないようにしたい。しかし、これが今の自分の身の程だ。


耕さない田んぼ


米づくりをはじめて3年。除草剤を使うようになった田んぼでは、及第点の米づくりが出来るようになった。除草剤を使わない田んぼでは、相変わらず草との格闘が続いた。
米づくりに慣れてきたが、いつも心が痛くなるシーンがあった。除草剤を使わない米づくりでは、田植え、稲刈り、乾燥を人力でやっていたが、代掻きだけは機械(トラクター)に頼るしかなかった。トラクターで畑を耕す時に逃げ惑うカエルたちを見ながら、自分が『破壊者』であることを自覚する。田んぼの仲間を傷つけ、「しょうがない」と割り切るしかない自分が嫌だった。
友人が実践していた自然農の話を聞いた時に「これだ!」と思った。自然農は、「耕さず、肥料・農薬を用いず、草や虫を敵としない」こと原則にして、人間が余計なことをせず自然の営みに任せれば、自ずから豊かになっていくという考え方で行られる農法だという。「耕さないことが良い自然農なら全て人力でできる。周りの生き物とも、もっと一緒に米作りが可能なのではないか」と希望を感じての挑戦することにした。不耕起栽培では田植え前の代掻きをしない。その代わりに人力で溝を田んぼの周囲と真ん中に掘る。
田植えは、鎌で穴を掘りながら1本づつ植えていく。除草もすべて手作業。想像以上に大変だったが、その時間はかけがえのないものになった。


不耕起の田んぼが問いかけてくること


今年の不耕起田での米づくりは、昨年以上に雑草が多く収量も少なくなってしまった。雑草との競争で、植えた時からあまり大きくなっていない。実をつけられなかったものもあった。それでも、しっかりと実を付けているイネたちを刈りながら、まだまだ自然に寄り添う力が足りないことを自覚する。苗づくりがいけなかったのか、田んぼの準備が足りなかったか、それでもこれだけ草が生えているということは土の力はあるのかな。今年の米づくりで起きたことが、ぐるぐる巡る。そして、雑草に負けずに立っているイネに励まされたりもする。
除草剤をつかっている田んぼと比べれば、不耕起の田んぼでの労力は10倍以上、収量は10分の1。生産性の尺度で見れば最悪だ。それでもこの田んぼが訴えてくるものがある。この田んぼで出会った生き物や草たち。この田んぼは、彼らと僕の田んぼだ。



この田んぼを中心に蛍が毎年増え、今年は、なんと我が家の庭で、蛍の幼虫が見られるようになった。蛍のシーズン、毎晩のように息子と蛍を探しに集落を歩いたかけがえのない時間。また来年も蛍に会えることを楽しみに身の程知らずな米づくりを続けたい。


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