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映画「ディア・ファミリー」感想


家族で「ディア・ファミリー」を見た。
町工場を営む主人公・坪井宣政が、余命10年と宣告された次女・佳美を救うため、人工心臓の開発に取り組む話である。

ネタバレを承知で書くと、この映画は人工心臓を開発して佳美の命が救われめでたしめでたし、というハッピーエンドではない。人工心臓の実用化への壁は厚く高く、現在も越えられてはいない。
しかし、佳美を救えず何も得られないバッドエンドでもないのである。

宣政は娘を救うためにもがいた10年の中で、多くの人と出会い、バルーンカテーテルの開発という新たな夢と出会う。彼が人工心臓開発のために積み上げた知識、技術、経験、そして人との縁。すべてが無駄になることなく、カテーテルの実用化と普及へと繋がり、人々の命を救っていく。その流れは見ていてとても美しかった。

また、坪井家の人々の絆と心の強さにも胸を打たれた。全員が前を向いて、佳美の未来をあきらめない。そして佳美も、ただ死を待つだけの哀れな少女ではない。「できることは自分でやりたい」という自立した心、亡くなった友人の夢を叶えようとする優しさの持ち主である。高校を卒業した彼女は父の工場に就職して、共にカテーテル開発の夢を追う。ワープロの習得や資格の勉強にも熱心に取り組み、最後まで自分の未来をあきらめなかった。

そして、佳美は成人式を迎えた。
「20歳になるまで生きられない」という宣告を覆したのだ。

佳美の人生は、確かに他者と比べて短いものだった。
しかし、家族全員が前を向き続けたことで、ただ死を待つのみの人生ではなくなった。
彼女の命は、間違いなく輝いていた。
坪井家のみんなで、佳美の未来を変えたのだ。

そして、宣政と佳美の夢であるバルーンカテーテルは、たくさんの人の命を救い、未来を変えていくのだろう。これからも、ずっと。

たとえ、はじめの望みが叶わずとも、あきらめずあがき続けることで得られるものがある。変えられる未来がある。
そう思わせてくれた映画だった。