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循環狩猟という考え方

これから目指したい狩猟文化の姿のひとつとして「循環狩猟」という形を考えています。そのために、まずは人それぞれの狩猟に対する取り組み方についてまとめてみます。

狩猟の目的を3区分にわけてみる

狩猟に対する取り組み方は千差万別で、どれが良い悪いということはないのですが、一括りに狩猟者と言ってしまうとそれはそれで誤解を生む原因となっていましたので、私がこれまでお会いしたことのある狩猟者の目的を大雑把に3つに分けてみました。【趣味】【仕事】【伝統】の3つなのですが、ひとつずつ見ていきましょう。

狩猟は趣味!

野生肉が好き!とか狩猟本能を満たしたいから!という人が趣味という区分に入るのではないでしょうか。SNSを通じて情報発信を活発にされている方も多い印象です。向上心も高く、様々なことを研究されていてとても勉強になります。あとオシャレな人も多いですよね。料理も上手ですし、多才な方が大勢いらっしゃいます。

狩猟は仕事!

次は狩猟というか、野生鳥獣の捕獲が仕事という方もいます。自ら会社を立ち上げていたり、企業に勤めながら仕事として生活費を稼ぐ目的で行っている方々。普通に狩猟を楽しんでいるだけだと、1円のお金にもならないので販路を開拓したり、補助金の申請をしたりと狩り以外にも付随するやりとりが色々あります。農作物の鳥獣被害を減らすために日夜努力されているのですが、会社の中にいるためか、あまり表に活動を出さずにやっているのかなという印象です。しかしながら、仕事として狩猟をされている方がハブとなって、趣味で狩猟をしている人から獲物を買い取ったり、一般社会との仲介役となるのが、この区分に携わる人ですので、とても大事な役どころだと思います。

狩猟は伝統!

最後は伝統・文化を守るために狩猟をしているという人。私の宿がある北秋田市ではマタギ文化の発祥の地と言われていることもあり、毎年数人の若者が阿仁地区へ移住してきます。使命感にあふれる人もいらっしゃいます。貴重な山里の文化だと思いますので、途絶えることなく代々受け継がれていければ良いのですが、時代が流れ、法律の改正暮らしの変化によって締め付けが強くなってくると維持していくことが難しくなります。青森には西目屋マタギ、山形には小国マタギと全国でマタギ文化を残そうという動きもありますので、伝統という観点からも狩猟を見つめ直してくれる人が増えれば良いなぁと思っています。

私自身は、家族を守りつつ、伝統も残していきたいという気持ちから始めましたが、今は仕事にしていけたら良いなぁという想いもあり、仕事と伝統の半々といったところでしょうか。狩猟と一括りに言っても、釣りのように細分化の理解が進んでいるとは言えない現状だと思います。趣味の釣り、仕事の漁師・漁業、伝統の鵜飼いなど、魚ではパッとイメージできることでも、狩猟に置き換えてみるとなかなか難しいのではないでしょうか。それだけ一般の人との距離が離れてしまっている状態だと思いますので、適切な距離感は保ちつつも疎まれることがないようにしてきたいですね。

貴重な日本固有の狩猟文化

そもそも、なぜ狩猟文化は残さなければならないのか。それは日本の狩猟文化は世界的にみて、とてもレアな文化だということ。それについても説明させてください。

なぜレアかと言えば【縄文人は狩猟採集をしながら定住した、世界で初めての民族だと考えられている】からです。世界では狩猟文化と遊牧民的生活はセットになっていて、獲り尽くしたら移動するを繰り返していました。日本では、継続的に狩猟をするために頭数を制限したりという管理する知恵があったと考える人もいますし、日本は自然が豊かだったので、頭数制限をするまでもなく無尽蔵に動物たちが暮らせていたと考える人もいます。

さらに厳密には狩猟と採集も分ける場合もあります。こちらのブログではドングリなどを拾う採集と、シカやイノシシを狩る狩猟を分けて考えていて、とても参考になります。
縄文人の食生活は現代人のコメをどんぐりに、肉を魚介に変えただけで、かなり豊かな状況にあったとの記述もあり、当時の食生活に思いをはせることができます。

採集で成り立っていたところに、寒冷化が襲い、狩猟を再び始めて両立させていったというのは非常に信憑性があり、もっと深く知りたいところです。さらにNHKの番組では、1万年続いた狩猟採集文化について、稲作が入ってきても狩猟採集文化は続いたという見解を示していました。
(参考:アジア巨大遺跡 第4集「縄文 奇跡の大集落」~1万年 持続の秘密~)

稲作が入ってきても、それになびかず狩猟採集生活を続けた

日本は「狩猟採集生活をしながら定住し、文化的にも豊かだった」という、世界規模で考えても稀な生活様式を達成していたらしいのです。ある集落は1000年も続いていたらしい。それを支えたのは、日本の自然です。氷河期を終えつつある時代に、木の実が豊富な照葉樹林の森が日本列島を覆い、“縄文時代”を可能にしたというのです。日本の狭く急斜面に囲まれた火山と海との関係性が、豊かな自然を育んでいるのだと思うと感慨深いものがありますね。

現代の狩猟は狩って食べたり利用するところまで

そして現代。狩猟ブームが起こり、テレビや雑誌で狩猟文化について取り上げられることが多くなっているのを感じます。狩猟者同士のコミュニティも猟友会だけではなく、SNSを通じた広域的な交流も盛んに行われています。

でも、そこで自分が猟友会に入ってみたり、雑誌やテレビを見て感じた違和感がありました。それは、獲物を狩ってさばいて食べる、という一部分しか存在しないこと。

それでは、動物や自然との関係が円になっていなくて、半円で終わっちゃってる気がします。例えば漁協では、獲るだけではなく、漁場を整備したり卵を孵化させて放流を行っているところもあります。(木を植えるところも!)魚と動物を同一視しろというわけではありませんが、私は猟友会に入って、先輩猟師から保護や保全、管理や未来についての話も聞きたかったのに、教わることは動物の見つけ方や殺し方と食べ方に留まっています。誰もが管理については無頓着でした。仕方のないこと、のようです。近年「狩りガール」で狩猟系女子と呼ばれる人たちも増えてきましたが、獣害対策の面で報じられることがほとんどで、ジビエや皮製品の加工販売という展開はあるものの、シカやイノシシを害獣とみることで、大切な何かを失っているのではないかと感じました。

そんなときに、あるサイトを発見しました。伊豆にある森守さんという会社です。


http://izu-morimori.jp/
かつて、森と共に生きる人の生活がありました。
人の生活は大きく変化し、森から川を通り海につながる命の営みも崩れてきています。野生動物は「獣害」として扱われる存在になっています。
本当に野生動物だけが悪者なのでしょうか?
野生動物も人も命を生き抜きつないでいくために森守は活動していきます。さらに獣害対策の現実と、自然の循環について。
野生動物の対策には、管理、対策、活用を同時に進めることが重要。
しかし、現実はいただいた命を活かすことなく、多くを廃棄している。森守は、野生動物の命を活かすために野生獣肉処理センターを建設し、食肉として流通させることで農家の耕作被害を減らし、猟師の暮らしを支えていく。
それは、里や山、森を再び豊かにすることにつながっていく。
そして、次の世代に故郷となる伊豆の山や海を渡していく。
次の世代を育てることこそが、荒れてしまった山や里、川、海へとつながる自然の循環を再び動かす原動力となると信じている。

とても共感できる思いが語られていました。動物や植物からいただいた命を、また山に返して、初めて狩猟採集文化だと思うのです。縄文時代から続いてきた自然と人との関係を次世代に伝えていくためにも、あえてつける必要のない「循環」という言葉をこれ見よがしにくっつけて「循環狩猟」という名前で、狩ることだけに留まらない狩猟文化を伝えていきたいと考えています。

山を育て、動物を狩り、最後まで活用して、例えばそれがお金に変わり、再び山を管理し、育てていくことに繋がる活動をしたいのです。

これは同じ山人といえども、木こりや林業従事者には難しいことだと思います。常に命と向き合うことをかせられている狩猟者だからこそ、矢面に立ちながら進んでいける問題だと考えます。動物愛護の方々や菜食主義の方々からは理解されにくい面もありますが、動植物を愛し、そして未来へ繋げるために時には殺さなければならないこともあるという大きな大きな矛盾を抱えて、悩み続けながら試行錯誤を続けて行くしかないと思います。特定の文化や思想を攻撃することなく、ショッキングやセンセーショナルな見せ方をするのではなく、無理なものを徹底して、じわりじわりと進めて行くしかないのです。

循環する狩猟採集文化をこれから皆で築き上げていければ良いなーという軽い気持ちで始めてみます。

循環狩猟3つの定義

・被害を少なくする

・最後まで使う

・森づくりとして還す

定義として最初はゆるく上記の3つはどうでしょうか。被害が出ないように間引く必要があるのは許してください。そうしないと、動植物にとって一番良いのは人間が絶滅することという極論になっちゃいそうなので。そのいただいた命は捨てることなく全て使い切ります。それがせめてもの供養です。そして、そこで得たお金で再び森を育てることへ繋げます。数の調整をするにあたって、駆除をメインではなく予防をメインにすることも重要です。

こんな思想が、少しでも広まってくれればいいなぁ

上記を参考文献として、もう少し考えを進めてみたいと思います。

現代の田んぼが米作りの工場のようになり、小さな生命が犠牲にされるような現代農業の姿。そして、そのことに疑問をもった人が、有機農法などの安全でおいしいコメをつくる大切さを身をもって証明している姿が紹介されています。【ゴクリゴクリと田の水をのんで】という言葉にはハッとさせられました。今では考えられない状況ですが、自然と地続きだったときの田んぼでは、それが当たり前だったんですね。今では農薬やら肥料やら、飲んではいけないものが入りすぎています…。

そして、生物を保全することについて、例えばパンダ単体を保護するだけでは何の解決にもならないことが示されます。生物のつながりや、バランスを保全することが大切と語られます。鮭は秋に川をのぼり、そこで産卵して力尽きて死ぬことは皆が知っていることだと思います。鮭が大量に川で死ぬということは、海の養分が山の麓まで運ばれているのだ、という視点です。そして、鮭を食べた熊やワシが森に持っていき、食べたり糞をしたりします。その栄養分が山の木に吸収され、豊かな生態系が維持されてきたというのです。この自然と生物との思いもよらないような繋がりを解明していくのも保全生態学の魅力のひとつだと感じました。

動物を守りたいと言っても、ひとくちでは到底できないこと

生態学的な知識や論理に支えられた保全というのは、時間も人手もかかるものなのだと考えさせられました。ある動物を対象とする場合、その動物が具体的にどのような場所で、どのような食物となる植物が生えていて、それらをどのように利用しているのか、そのためにどのような行動圏をもっているのか、その動物が将来的にも安定して生息していくにはどのくらいの個体数が必要で、その集団を支えるにはどのくらいの土地を確保し、その植生をどのように管理していくのかという展望を描かなければならない、とのこと。

これらを知るための調査には時間もお金も相当かかりそうですよね。パンダやコウノトリ、トキなどは世間一般からの注目度が高く、調査をする人やお金が集まりやすいものだと思います。でも、タヌキやノウサギなど特に珍しくもない動物は「なんのために守るのか」という説明が難しく、気が付けば滅んでいたという可能性もあるとの記述に思い当たる節がありました。

私が住んでいる地域でも、昔は1日に20羽も30羽もウサギが獲れた時代があったそうですが、今はどんなに頑張っても2,3羽が限度です。獲りすぎは勿論のこと、キツネやハクビシンが圧倒的に増え、ウサギが捕食されているのも原因ではないかと考えられています。ただ、今の猟友会ができることは、メスのウサギを獲らないようにすることくらいで、自然に任せている現状があります。このままで良いのか、という葛藤が私の中でありました。猟友会の先輩に話しても、それは仕方のないことだ、待つことしかないと諭されてしまいます。このまま自然に身を任せて行けば、取り返しのつかないところまで行ってしまうのではないかという危惧があります。

自然が豊かだという過去から、どんどん荒れ果てた森や里山が広がっていき、今や「緑の砂漠」と呼ばれるような放置された杉林が多くを占めています。今は過去の財産を食いつぶしながら細々と生きながらえているような状況だと認識を改めなければならないと思います。

日本人のもつ自然に対する鋭い感性や、アジアの一国としての動植物に対する思いやりの伝統を考えれば、日本が世界に向けて野生動物の保全にいいモデルをしめすことは十分に可能だと思います。

人間にとって有益な動物が保護されがちですが、著者が何度も力説するように、人間にとってどうか、という考え方ではなく、野生動物は人間の存在に関係なく価値があるものだという認識を持ちたいと思います。

そのためには、人間は動植物を支配するような存在ではなく、同じ立ち位置にいることをしっかりと考えなくてはなりません。私も山に入ると、それを突きつけられます。山では人間よりも動物たちの方が素早く移動することができますし、頭も良いことが分かります。動物の知性が人間より劣っていると考えるのは早計で、脳味噌の大きさは全く関係がないのです。そして、人間の100年程度の人生観で自然を捉えてしまうと短期的な行動しか実を結ばないため、多くの物事が犠牲になっていると気付かされます。これから先、1000年後の森の姿、地球の姿を考えていくためにも、この本によって示されていることは大きな価値があるものだと思いました。

狩猟が身近に語られる今がチャンス

狩猟に興味を持つ人が増え、メディアへの露出も増えてきている今だからこそ、ここでしっかりと未来を見据えた考え方を探っていきたいと思います。意識高い系ではなく、一歩一歩の地道な行動しかありません。

動物も山や森も、そして人間も、しあわせな関係をもう一度取り戻すために、私は活動していきたいと思っています。

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