【1分小説】喧騒と祝福の紅
お題:うるさいうるさい、好きだばか
お題提供元:お題bot*(https://twitter.com/0daib0t)
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こんな貧血野郎に何ができる。
ジョッキをカウンターに置く。焦燥が琥珀色のバーボンを波立たせた。ここに来たらこいつを飲むと決めている。芳醇な甘みが、ヒトの血の後味に似ている。
さて、どうしたものか。
どうやら今晩の私は幸運に恵まれている。それはスクラップ工場の音楽をそのまま連れてきたような、金属訛りの野郎共が騒ぎ散らしているから、だけではない。
「早くしろよ、イカレバンパイア!」
「吸いつくしてやれ、ヒューヒュー!」
血の契り。
それは吸血鬼の社会に古くから伝わる慣習だ。両想いとなった二人は、互いの血を飲み合い祝福する。
躊躇しているのは、断じて、血を飲まれるのが怖いからではない。
目の前の、あたしに好意を抱いているらしいこの男が、吸血鬼ではなくただのヒトだからだ。軟弱で色白で、それでも真っ直ぐにあたしを見つめるこの男が。
その男──ソウタが微笑んだ。
「なんだか安心しましたよ。あなたも迷うことがあるんですね?」
生意気な。
あたしは、ソウタの肩をつかんで引き寄せた。
「うるせえ!」
犬歯を立てると、熱い血潮を舌に感じた。
バーボンには劣るが、まあ悪くない。
騒ぎ立てる観衆の中で、ソウタはあたしの背に手をまわして抱きしめた。