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BOOK REVIEW vol.100 おおきな木

今回のブックレビューは、シェル・シルヴァスタインさん(作)・村上春樹さん(訳)の『おおきな木』(あすなろ書房)です!

一本のりんごの木と一人の少年の物語。
シンプルだけれど奥が深い、“愛”について考えさせられる世界的ベストセラー。

1964年にアメリカで出版された、シェル・シルヴァスタイン作の絵本『おおきな木』。日本語訳は1976年に篠崎書林から本田錦一郎さんの翻訳で出版された後、現在はあすなろ書房から村上春樹さんの翻訳で新たに出版されています。世界中で愛されている、900万部超のベストセラーです。

一本のりんごの木。

太陽に向かって
長くしなやかに伸びる枝
たわわに実るりんご
風が吹くたびに
そよそよと音をたてて
揺れ動く葉

木の下には
いつだって少年がいました
木に抱きついたり
登ったり
葉っぱを集めて
冠をつくり
りんごをかじって
かくれんぼをし
くたびれたら
木陰で眠る

少年は
りんごの木のことが
大好きでした

そして
りんごの木もまた
少年のことが
大好きだったのです



一本のりんごの木と一人の少年の物語。このお話には、幼い少年が老人になるまでの人生をりんごの木が温かく見守る様子が描かれています。とてもシンプルな内容であるにもかかわらず、何度読み返しても、言葉ではうまく言い表すことのできない、奥の深いメッセージが込められているように感じます。

少年が幼い頃は、お互いのことが大好きで幸せに満ちた時間を過ごしていた二人。しかし、少年は成長とともに時々気まぐれにやってきては欲しいものをねだるようになり、愛情深いりんごの木は、自分を犠牲にしてでも少年の望みに応えようとします。

初めてこの物語の読んだ時、何とも言えない切ない気持ちになりました。幼い頃はあんなに幸せだった二人の関係が時間の経過とともに変化していったこと。そしてりんごの木は自分の全てを与え続ける一方で、少年は与えられたものを躊躇なく持ち去ってしまうという関係になってしまったからです。りんごの木の無償の愛やその包容力に感動する一方で、物語の後半は切なさや悲しみ、怒り、苦しみ、そして痛みを感じずにはいられませんでした。心の中に湧き上がるさまざまな感情をうまく飲み込むことができず、どこかモヤモヤとしたまま、「おしまい」の文字を見つめていたことを覚えています。

“愛とはこうあるべき”という
固定観念を手放した先で得た気づき

あなたが何歳であれ、できたら何度も何度もこのお話を読み返していただきたいと思います。一度ですんなりと理解し、納得する必要はありません。よくわからなくても、つまらなくても、反撥を感じても、腑に落ちなくてももやもやとしたものがあとに残っても、悲しすぎる、つらすぎると感じても、腹が立っても、とにかく何度も読み返してみて下さい。これまで半世紀近くにわたって、みんながそんな風にこの本を読み継いできたのです。きっと何かがあなたの心に残るはずです。

『おおきな木』訳者あとがきより引用

村上春樹さんのあとがきを読んだ時、このモヤモヤとした感情を、「それでいいんですよ」と肯定してもらえたようで気持ちがとても楽になりました。そして実際に、ある時はりんごの木に感情移入しながら、またある時は少年の気持ちの移ろいに注目しながらあらゆるタイミングで読み返すうちに、不思議と物語の感じ方や見え方も少しずつ変化していったのです。

先日、りんごの木と少年を、私の母親と私自身に置き換えて読んでみた時に気づいたことがあります。私も母親には自分の弱い部分をさらけ出し、無茶なことを言っては、“甘えて”いたことを思い出しました(当時は、甘えていた自覚はありませんでしたが)。今思えば、いつも何も言わずに私のわがままを受け止めてくれていた母。私自身も母に対して、「これを言ったら嫌われるかな」といった恐れなどなく、心から安心して弱い自分を見せることができていました。そんな昔の記憶を思い出した時、もしかするとこの物語の中の少年も、当時の私に近い気持ちだったのではないかなと思えたのです。

今までの私は物語の中に、“愛とはこうあるべき”という理想を求めてしまっていたような気がします。けれど愛に決まった形はなく、おそらく型にはめられるものでもない。少年のために与え続けたりんごの木と、欲しいものをねだり、与えてもらうばかりだった少年の間にも愛はあったのではないか(あってほしい)と、今の私は感じています(“木に彫られたハートマーク”も、最後まで残されていますしね)。

『おおきな木』の原題は、『THE GIVING TREE』。日本語版の題名に独自に付けられた、“おおきな”という言葉は一体何を指しているのでしょうか。木の偉大さ、器の大きさ、そしてやはり少年への無償の愛を意味しているのかもしれません。私にとっても、大きな気づきをもたらしてくれた物語。これからも折に触れて読み返していきたい一冊です。きっとその時々で、この物語の中に込められたメッセージを、私なりに感じていくのだと思います。

ブックレビュー100冊目を書き終えて

100冊目のレビューを書き終えた今は、とてもホッとしています。最後の最後に壁にぶつかってしまい、予想以上に時間がかかってしまいました(泣)。最後の一冊ということもあってか、気づきが浅すぎるのでは、的外れなことを書いているのでは、独りよがりになっているのでは…という思考がいつも以上に止まらず、書いては消し、書いては消しを何度も繰り返していました。でも、やっぱり自分が感じたことを否定せずに素直に書こう!と思えたのは、このブックレビューを読んでくださっている皆さんのお顔(アイコン)と、今までにいただいたご感想や励ましの言葉が心に浮かんできたからです。いつも見守ってくださる方々の存在がとても心強く、何とか100冊を達成することができました!

そして何より、ちょうど一年前のマウイ島にて、「一年間で100冊のブックレビューを書いてください!」と課題を出してくださったyujiさんには心から感謝しています。日頃、あまり本を読んでいなかった私にはかなり衝撃的な課題で、とくに最初の頃は、苦しくて投げ出したくなることもありました。でもある時、「こんなに貴重な経験を積める一年は、なかなかないのでは…!?」ということに気づいてからは、とにかく淡々とコツコツ続けることに集中するようになりました。
また、「100冊達成したら、一体どんな景色が見えるのだろう?」という好奇心も私の原動力でした。

この一年間、ずっと「これで良いのだろうか」と迷いながら進めてきましたし、まとまりがなく読みにくい文章も多々あったかと思います。しかし100冊の素晴らしい本と出会い、多くの知識を得られたこと、またその本から感じたことをこうして文章に残せたことは、私にとってとても大きな経験であり財産だと思っています。このような機会をいただき、本当にありがとうございました!

課題については書き始めると止まらなくなりそうなので、こちらはまた改めて感想などを書きたいと思います(笑)

最後になりましたが、ブックレビューの課題を応援してくださった皆さま、直接お会いした際やSNS上のコメント等でご感想や励ましの言葉を伝えてくださった皆さま、いいねを押してくださった皆さま、そっと見守ってくださっていた皆さま・・・関わってくださったすべての方々に感謝しております。一年間、本当にありがとうございました!

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