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BOOK REVIEW vol.081 うたうおばけ

今回のブックレビューは、くどうれいんさんの『うたうおばけ』(講談社)です!

少し前に読んだエッセイ集の中に、くどうれいんさんのエッセイが掲載されていたことが出会いのきっかけだった。その文章は、冷静さとあたたかさのバランスが絶妙で、読後感も何とも爽快。「こんな文章が書ける人ってすごいなー!」という感動が私の内側に湧きあがり、くどうれいんさんという人物をもっと知りたい!という好奇心から、今回、『うたうおばけ』を手に取った。

歌人、俳人でもあり、その際の名義は、本名である工藤玲音さん。『うたうおばけ』は、そんなれいんさんの「ともだち」との日々を綴ったエッセイ集。学生時代のともだちや後輩、学校の先生や、偶然出会ったタクシー運転手、職場の上司の話もあり・・・れいんさんに引き寄せられるようにして繰り広げられる、少し不思議で、愉快で、あたたかな人間模様。れいんさんの日常を、特別に覗かせてもらったような気持ちになれる一冊だった。

生活は死ぬまで続く長い実話。そう思うと、どんな些細なことでも書き留めておきたくなります。

『うたうおばけ』P189より引用

れいんさんのエッセイに描かれていたのは「生活」だった。生活の中で交わされる「ともだち」との些細な出来事や会話。10代の頃からずっと日記を書いていたという、れいんさんのエッセイから、何気ないやりとりの積み重なりが、やがてかけがえのない日常になることをあらためて教えてもらったような気がする。ともだちとのやりとりを飾らずにエッセイに書くれいんさんも、エッセイに書かれることを“さわやかに”許可するともだちも、本当に素敵な関係だと思った。

学生時代のともだちとの会話、先輩や後輩、先生とのやりとり・・・。喜怒哀楽だけでは表現することのできない、切なさや悔しさ、憂い、甘酸っぱさを全身で感じていたあの頃。私自身、当時の記憶を断片的にしか覚えていないことを少し残念に思うけれど、これから先の記憶は今からでも残していくことができる。「大人になるにつれ、ともだちはできなくなる」とよく言われるけれど、今の私は「そんなことないよ」と胸を張って言える。一年前までは知り合ってもいなかった人が、今では「ともだち」として私の周りにいてくれるから。その存在がどれほど心の支えとなっているか…。この貴重な「今」を、私はちゃんと覚えていたい。もう「断片的にしか覚えていない」と言わないためにも、生活の中で感じたこと、やりとりや会話を残していきたいと思った。

つくづくわたしの人生は、行ったり来たり交差をしたりしながらも、どの線を選んでも全部当たりのあみだくじだと思う。

『うたうおばけ』P67より引用

エッセイの中でとくに心に留まった言葉。あとがきの最後の一行を読み終えたあと、もう一度、P67に戻って言葉を噛み締めた。私の人生も行ったり来たり、どこに向かっているのかわからなくて時々不安になる。でも間違いなんてきっとひとつもない。そんな行ったり来たり交差をする線の中で出会えた人たちがいるから。一人ひとり、ともだちの顔を思い浮かべてみると、みんなが笑っていて何だかとても愛しくて優しい気持ちになる。私が今、進んでいる線も間違いなく“当たり”だ。

くどうれいんさんのエッセイは、ともだちを思い、ともだちに思われる、ともだち愛にあふれた一冊だった。大切な気づきをありがとうございました。

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