6畳ワンルームからの挑戦
「家賃4万で住める家無いですか?」
転職にあたって、一人暮らしの物件を探していた。
「洗濯機外置き、6畳ワンルーム」それが家賃に合う物件の条件だった。
「文章を書く仕事がしたい」
そう思い続けて、やっと掴んだチャンス。それに転職先の面接で聞いた、編集長の忘れられない一言。面接を受けた時から、この会社に入りたいと直感的に感じていた。
なのに内定をもらった瞬間、色々な現実が頭に浮かんでくる。
お金は? 実家の家族は? 本当にこの道でやっていけるのか?
今行かなかったらきっと後悔する。未来は自分で切り拓くしかない。
そんなことは分かっているのに、ごちゃごちゃ悩んで決断できずにいた。
だからまず、家を見に行くことにした。
「シューズ買ったからスポーツ頑張るぜ!」みたいに、必要不可欠な新居が決まれば、気持ちがついて来る気がしたのだ。
そう思って不動産屋に駆け込む。紹介された物件を見に行くと、かなりいい感じだった。洗濯機外置きが若干不安だったが、やりようはいくらでもあるだろうと思った。
自分の感覚を、全身全霊で信じよう。僕は即決で入居を決め、帰りの電車で転職先に内定承諾のメールを送った。自分の道を切り拓きたいと、ここまで思ったのは初めてかも知れなかった。
余韻に浸りながら、転職活動のことを振り返る。
活動初期は、正直全く相手にしてもらえなかったな。
文章を書く仕事がしたいと、毎週土日に執拗なほど文章を書いていた。
友達に誘われれば断るか、早朝に文章を書いてから出かけた。
少しでも前に進みたかったし、そもそも書くことが楽しくて仕方が無かった。
ある転職エージェントには「現実逃避じゃないか」と言われたこともあった。まだ営業マンとしても、ライターとしても目立った実績が無かったから。情けなくて悔しくて、営業でもライターでも実績を作ってやると誓った。
書店のゼミに作品を送ったり、クラウドソーシングで案件をもらったり、noteをたくさん書いたり。
営業では、売上げゼロの得意先に行き続けて130万くらい受注をもらった。
月間予算でいえば大したことなかったけど、先輩や上司が数字を作れなかった先だったから評価された。
そういったことを繰り返すうちに、一社、二社と書類選考に通る企業が出てきた。
そんな活動を続けて、決まった転職先。本当に本当にありがたいことに、スポーツ関係の編集プロダクションに拾っていただいた。
実際に働いてみると、周囲の方々にも恵まれとても良い場所だった。
仕事はまだ全然できないし、「社会人4年目で俺このレベルか・・・」と思うことも正直ある。ライター・編集者としてだけでなく、一人の人間としても課題がたくさんだ。
けれども、明らかに前と違うことがある。
転職前は頑張っても、この先に道が無いような感覚があった。
進めば進むほど、闇の中に迷い込んでいくような。そう思うと、怖くて仕方が無かった。
けれども今は違う。この先に、自分が進みたい道があることが分かるから。毎日手探りだけど、とにかく今はそれが嬉しい。
これから先、色々な出来事に出会うだろう。
飛び上がるような嬉しいことも、悲しいことも、悔しいことも。
「これから自分はやっていけるかな」
6畳ワンルームの新居。洗濯機の前で思案にふけりながら、衣服をぶち込みスイッチを押す。勢いよく水が吹き出し、元気一杯に回り始めた。
通常置くべき場所に無い洗濯機。雨にも日光にも晒される。
それが元気に回る姿を見ていると、洗剤と一緒にモヤモヤも溶けていく気がした。
「やってみたらなんとかなるだろう?」
外置きの君にそう言われたようで、衣服を干しながら思わず笑った。
理想の場所は自分で作るものなんだ。それを忘れそうになったら、いつでもベランダを見ればいい。
「雨が降ったらカバーをかけてくれ」
「物干しが短いから、バスタオルは一度に3枚まで」
そうやって工夫を重ねて、時には止まって。それでも君は回り続けるんだろう。
環境に関係なく、洗濯機としての使命を果たし続ける。
そんな姿を見ていると、負けてられないと思うから。
洗濯物が太陽に反射し、涼しい風が身体を包む。
さぁこの風に乗って、また一歩進もう。
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