【実話怪談】名がある怪異、ない怪異
怪異には、すでに名前がついているものと、なんと呼ぶべきか不明なものがあるが、それらを4つの話にまとめた。
第1話 鵺
車椅子生活の霊感身障者ツルギが、まだ、霊感健常者だった、20代の頃の話。
当時、彼は、一階が家主宅である二階の小さなアパートで一人暮らしをしていた。
ある日の午後、歳下の大学生の友人・タデ君が遊びにきた。
タデ君もツルギと同じく、「見える人」だ。
部屋でおしゃべりなどして過ごし、日が暮れてから、近所で夕ご飯を食べようということになった。
そして、二人で部屋を出たのだが――。
玄関のすぐ外、アパートの外階段の上で、突然、タデ君が言った。
「サルがいる」
東京都23区内にサル?
見たら、そのアパートの門柱の横に植えてある、ちょうど二階あたりの高さの木のてっぺん近くに、サルがいた。
日没後の薄闇の中、ほんの2、3メートル先だ。
尻尾が長い。
しかし、その尻尾はよくよく見ると、ヘビだった。
顔はニホンザルだが、手足の爪がやけに鋭い。
最初、リアルなサルかと思ったそれは、霊的な存在だった。
しかも、ツルギとタデ君のことはまったく意に介している様子はない。
二人は、なんだかよくわからないもの、と結論づけた。
ところで、ツルギが「師匠」と呼ぶ、狸穴(まみあな)さんという男性がいる。
本業は、カメラマン兼バイク・車のエンジニア。
幼い頃より霊能力があり、友人知人に依頼されてお祓いなどをすることもあるが、これは副業ではなく、報酬は求めない。
ツルギは身体障害を負う前は、非常にマニアックなバイク乗りだった。
ツルギにとって、狸穴さんはバイクの師匠であり、霊能力の師匠でもある。
ツルギがタデ君と「なんだかよくわからないもの」を見た数日後、今度は狸穴さんが遊びに来た。
部屋に入ってくるなり、彼は言った。
「さっき、外に鵺(ぬえ)がいたよ」
そこで初めて、ツルギは気づいた。
先日、タデ君と目撃したサルのような「なんだかよくわからないもの」は、まさにそれだ、と。
顔はサル、胴体はタヌキ、手足はトラ、尾はヘビだという伝説の動物・鵺だった、と。
サイズこそは、ニホンザルほどで小さかったが。
その後も、狸穴さんは何度か、ツルギのアパートのそばで、鵺を見た。
ツルギとタデ君が目撃した、例の木の上にいることもあった。
「あの鵺は、いつもあの近所を巡回しているんだと思うよ」
伝説の鵺は退治すべき妖怪だが、彼らが見た個体は、人にとって「よいもの」だという。
地元の守り神みたいなものだ、と。
なお、ツルギが暮らすアパートがあった具体的な場所は、この場では、
「東京都練馬区内。西武池袋線江古田駅から徒歩圏内」
とだけ明かしておく。
第2話 百鬼夜行
ツルギのバイク師匠で霊感師匠である狸穴さんの話。
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